桃太郎さんチームにネコが入った件について

タカテン

拙者、勝ちたいでござる!

「それでは第128回『どうして拙者たちは鬼に負けたのか反省会』を開催するでござる」


 議長である桃太郎が厳かに宣言した。

 今回も負けた。ぼっろぼろに負けた。ぶっちゃけ3ターンで全滅した。

 それでも気が付けばこうしてピンピンした体で復活している。敵もボス以外は気が付けば当たり前のように復活してるし、この世界、冷静に考えたら怖すぎる!

 

「おいらのウンコ投げは今回も効いていたと思うキー」


 サルが面倒くさそうに発言した。


「俺の空爆攻撃も悪くなかった。確実にダメージを与えていた」

「サル、キジの発言に賛同するワン。そしてわしの噛みつきも会心の一撃だったワン」

「つまりおいらたちには何の問題もなかったと思うキー」


 そう言ってお供のイヌ・サル・キジたちは一斉に非難の目を桃太郎に向ける。

 

「……なんでござるか、拙者が悪いと言いたいでござるか?」

「言いたくはないけど、そうだとしか思えないワン」

「桃太郎は無課金勢だからな。なんとか俺たちウルレア三獣士を揃えることは出来たけど、きび団子不足が厳しい。厳しすぎる!」

「おかげで桃太郎の装備までは手が届いてないキー」

「まぁ、そのうちイベントもあるだろうし、運営が何かやらかして詫びきび団子を配るかもしれないワン。ここはこれまで通り地道にデイリークエストできび団子を稼いで、装備を整えていくしかないワンよ。あるいは……」


 イヌはその先を言おうとしてやめた。

 言っても仕方がないこともある。それをイヌたちは長い付き合いでよく知っていた。

 ならば桃太郎にはログインし続けてもらって稼働率を上げさせるしかない。人権のない無課金勢に出来ることと言えば、それぐらいなものだ。

 

「なるほど。そなたたちの言うことももっともでござる。……が、だったらこれでどうでござるか?」


 非難の矢面に立たされた桃太郎。が、不敵に笑うと、懐から一枚のカードを取り出した。

 

「ま、まさか桃太郎、課金したのか!?」

「ふっふっふ!」

「いくらだワン!? いくら課金したんだワン!?」

「ズバリ、10万円!」


 おおーっとお供たちから感嘆の声が漏れる。

 長かった。桃太郎が課金するまで、三年もかかった。

 密かにこれまでタダで冒険し遊びやがってと内心おもしろくなかったイヌたちであるが、これでようやく運営に顔向け出来る。

 

 それにしても10万とは大したものだ。

 重課金勢と比べたらささやかな額ではあるが、それでもこれまで無課金だった桃太郎が投資するにはかなり思い切った額である。

 

「なんか知らないでござるが、幕府が給付金だと言ってくれたでござる」

「経済を回すという意味ではこの使い方で間違ってないキー!」


 うむ、とにかく課金さえしてくれたらいいのだ、課金さえしてくれれば。

 

「10万もあればワンチャン最高ランク装備をひとつ手に入れられるな!」

「最低でも中級装備は整うワン!」

「これで先に進めるキー!」


 お供たちが興奮して色めき立つ。

 みんな、現状にフラストレーションを溜めていたのだ。

 桃太郎が課金さえすれば、もっと俺たちだって先に進めるのにと忸怩たる思いを抱えていた。

 しかしそれも今日でおさらばだ。俺たちはこれで強くなる――。

 

「いや、これは装備ガチャには使わないでござる」


 ところが桃太郎はお供たちの意見をあっさりと一蹴した。

 ちなみに桃太郎の装備は、お婆さんが縫った旅立ちの服、お爺さんから貰った旅立ちの剣、背中には初期装備の日本一の旗である。

 周りの連中がやれ豪傑の鎧だの、名刀斬鉄剣だの、天下布武の旗などを装備しているのに比べて明らかに貧弱すぎるにもかかわらず、しかし桃太郎はいまだ自分に問題があるとは思っていなかったのだ。

 

「ええっ!? じゃあ一体何に使うつもりだ!?」

「決まってるでござるよ! 今やってる新キャラのピックアップガチャでござる!」

「えええっ!?」


 桃太郎のお供と言ったら、そりゃあもうイヌ、サル、キジで決まっている。

 しかも彼らのグレードは最強のウルトラレア。攻略サイトでもこれで決まりと謳っているし、実際、高ランクプレイヤーたちも決まってこの三匹を使っている。

 桃太郎だって無課金勢ではあるものの頑張って三年間ひたすらきび団子を溜め、彼らのピックアップガチャで頑張って引き当てたほどだ。

 

 なのにどうしてここで新キャラを取るつもりなのか!?

 

「残念でござるが、今回新たにドーベルマン、ゴリラ、ワシというお前たちのグレードアップキャラが新装されたでござるよ」

「な、なんだってーっ!?」

「まぁ、ネコなんて外れキャラもいるでござるが、10万円もあればさっきの三匹のうち一匹ぐらいは当たるはずでござる」

「くっ! 桃太郎、考え直すキー! ぅちらと桃太郎ゎ、ズッ友だょキー!!」

「このために10万を課金したでござる。さぁ、誰が戦力外になるか楽しみでござるな―!!」


 お供たちの阿鼻叫喚の声が鳴り響く中、桃太郎の元手10万円の勝負が始まる!!

 さぁ、漕ぎ出そう、勝負の大海原へ!

 大丈夫、勝てる! 勝てるはずだ!

 勝て! 勝て! 勝て! 勝つんだ桃太郎!

 限界まで勝って、この世界を登り詰めろッ!!

 

 

 

 30分間後。

 

 

 

「な”ん”で”で”ご”ざ”る”か”よ”お”お”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”-------------っ!」


 敗北者がそこにいた。

 10万の元手があっさり消え去り、手に入れたのはただ一匹。

 

「きゃははは! 負け犬だにゃー!」


 そう、あろうことかネコだけであった。

 きび団子8万円分を超え、もうダメかと思った矢先の大当たりの演出に「おおおおおおっ!!!」と大興奮する桃太郎。

 しかし次の瞬間に「ネコが手を貸すにゃー!」と現れた時の絶望感と来たらもう、お供たちも傍で見ていて「お、おう……まぁ、どんまい」としか言いようがない有様だった。

 

「10万ツッコんでネコしか出ないってどういうことでござるかーっ!」

「そんなことネコに言われても知らないにゃー! ただ桃太郎の運が悪いだけだにゃー」

「これは何かの間違いでござる! 拙者、悪い夢を見ているだけでござるよっ!」

「残念! これが現実だにゃー!」


 がっくりとうな垂れる桃太郎に、お供たちはどう声をかけるべきか考えた。

 やもすれば桃太郎はショックのあまり、鬼退治の旅を諦めてしまうかもしれない。

 それだけは避けねばならなかった。たかがひとり、ふたりの脱落アンインストールと甘くみていてはいけない。それらが積もり積もって世界滅亡サービス終了に繋がるのだ。

 

「も、桃太郎、よく見たらネコってすっごく可愛いワン!」

「そ、そうだキー! ある意味、大当たりキー!」

「それにもしかしたら凄い強いかもしれねぇぜ!」


 俄かにお供たちが桃太郎を励まそうとネコを褒め始めた。

 た、確かに!

 ネコの見た目は某有名神絵師が描いたかの如く可愛いし、おっぱい大きいし、露出度も許されるギリギリを攻めてるし、加えて声も某有名声優を彷彿とさせる。

 これは人気が出ること間違いなし! コスプレイヤーも跋扈することだろう。

 が。

 

「んー、ネコはー、ネズミを捕るぐらいしか出来ないにゃ?」

「何の役にも立たないでござるーっ!」


 なんてことだ。

 しかもあまりにクソキャラすぎるのか、攻略サイトを見てもドーベルマンたちの情報はもうアップされているのにネコの情報は何一つ載っていない。

 

「まぁまぁ、ネコが手を貸してあげるから頑張るにゃー!」

「ネズミを捕る事しか出来ないヤツに何が出来るでござるかー!?」

「うーん……応援?」

「やっぱり何の役にも立たないでござる―っ!」


 頭を抱える桃太郎。

 が、その傍らでイヌの脳裏にこの時、電撃走る!

 

「……応援ってもしかしてこいつ、初のバッファー要員なのかワン?」

「バッファー?」

「……そうか! この世界には脳筋ばかりで、パーティをサポートするキャラなんていなかった! そこに応援キャラバッファーが加わるとなると……」

「え? えっ!?」

「ネコ、ちょっとおいらの代わりにパーティに入って戦ってみるキー!」


 訳が分からない桃太郎を差し置いて勝手にサルがアウト、代わりにネコがイン。

 さぁ、バトル開始!

 

「お、おおっ!! 凄いでござる! ネコの応援で力が無限に溢れてくるでござるよ!」

「なんてこった! これまでずっと三ターンで全滅させられていた鬼たちを、逆に三ターンでぶっ倒したワン!」

「強い! 強すぎる! 完全に壊れじゃねぇか、こいつ!!」


 皆が驚く中、ネコがおっぱいをたゆんたゆん揺らし、にゃんにゃんとお尻を振っては盛大にパンチラをして桃太郎たちにバフをかけまくる。

 かくして超低確率入手キャラであるネコを手に入れた桃太郎たちの快進撃が始まるわけなのだが――。

 

「……どうして拙者がパーティから外れるでござるか?」


 この世界のパーティは最大四名まで。攻略効率を考えたら装備が整っていない桃太郎が外されるのは当然の理であった。

 めでたしめでたし。

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