猿の手、猫の手

嬾隗

猫の手を借りたらどうなるのだろうか

 『猿の手』、という小説がある。日本では、『モンキーズポウ』などと呼ばれ、英語の授業で例題として使われることもあるそこそこ有名なホラー小説だ。内容を簡単に要約すると、猿の手のミイラには、願い事を三つだけ叶えてくれるが、高い代償を払う必要がある、という力がある。それにも関わらず、欲に目が眩んで願い事をしてしまい、息子を永遠に失ってしまう夫婦の話だ。俺はこの時、『目先の欲に囚われてはいけない』と固く誓った。


 では、『猫の手』ではどうなるのだろうか。『猫の手も借りたい』という言葉がある。「非常に忙しく手不足で、どんな手伝いでもほしいこと」を指す言葉だ。この言葉は、「鼠を捕ること以外は何の役にも立たないような猫であっても、その手を借りたいと思うほど忙しい」ことから成立した言葉らしい。猫は現在愛玩動物となっているほど、特に役に立たないということだろう。……かわいい以外は特になし、か。なるほど、一理ある。アニマルセラピー以外では役に立たないかもしれない。だが、さすがに言いすぎではないだろうか。猫派の人間が戦争を起こしかねない。ちなみに俺は猫派である。


 とりあえず、猫に何ができるのか実験してみることにした。まずは掃除。猫は物を持つことができない。Oh! もう積んでいる。ほうきも塵取りも掃除機も持つことができないじゃないか。というか、そもそも人間用にデザインされた物を持てる訳がない。逆に毛をまき散らす側にいる猫様である。

 料理も同様にできない。というか野生の猫はネズミを生で食べているのだろう。料理しなくてもいいはずだ。さらに、つまみ食いチャンスが発生する。猫は肉が好物なのだ。ゆでた鶏肉をかっさらわれる。俺の晩飯……。

 仕事はできるかもしれない。パソコンの特定のキーを合図すれば押すなど、単純なものなら。だがしかし、猫の記憶力はイマイチだ。本当に根気強く教えなければならない。犬にお手を覚えさせるのとは訳が違うのだ。短期間ではできそうもない。あと、パソコンの上に座って動かなくなった。在宅ワークさせてほしい。


 結論。猫はカワイイ。それだけ。猫にやらせて楽しようという欲深き人間は俺自身だったようだ。

 結局、かゆい所に手が届くのは孫の手だけだった。




「卒業論文、こんな感じでどうですか?」

「ダメに決まってるでしょ」

「そんなぁ」



   完

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猿の手、猫の手 嬾隗 @genm9610

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