第4話 思ってた生活と違う(安定はするんだけどね)

 この世界に来て、二週間ぐらいが経過した。


「……おかしい」


 俺は自分の現状に対して呟いた。


 冒険、人によってその意味は異なるとは思う。

 だけど基本的な、一般的な、共通認識みたいな意味はあるんじゃないかとも思っている。

 こんなファンタジーな世界での冒険の意味は、それこそ迷宮や遺跡でハラハラドキドキの探索をすることだろう。


 だが今はどうだ。

 俺達二人の仕事は、宿掃除だの子守りだのレストランのバイトだのと、とてもじゃないが冒険と言えたもんじゃなかった。

 冒険者は何でも屋でもあるけど、少なくとも俺が想像していた冒険者をやってはいないだろう。


「充実はしてるんだけどなぁ~」


 思わず笑ってしまう。

 ぶっちゃけ、不自由な生活はしていなかった。

 日々一生懸命に働いて、稼いだお金でフェアナと一緒に飯を食い、温かい風呂に浸かり、ベッドで寝る。

 そんな生活に悪くないと思っている自分もいた。


 けどそれは、異世界に来る前の人生と変わっていない。

 そりゃあ、祖父母に申し訳ないからバイトをいくつもやっていた時があったからだけど、今は違う。

 収入は自分頼りだし、無駄に使えば宿に泊まれなくなる。


「あれ、どうしたの、アユム?」


 買い物を終えたフェアナが部屋に戻って来た。

 ずっと一緒にいたせいか、フェアナの口調もだいぶ柔らかくなっていた。

 多分、こっちが本当の喋り方なんだと思うけど。

 守るものがなくなったせいか、まるで鎖が外れたかのように、元気一杯に日々生きていた。


「あぁ、実はちょっと悩み事があってな」

「悩み? 私の知る知識で何とかなりそう?」

「どうだろう、心の問題だからなぁ」

「あー、それは確かに難しいかもねー。でも聞くだけ聞くー」


 俺は今の生活に対する気持ちを正直に話した。


「……確かに、このままの生活は色々と厳しいかも」

「ありゃ、結構批判されると思ったんだけど」

「もちろん充実してるなぁーとは思ってるけど、収入が不安定なのも本当だしね」


 そう、収入が不安定なのだ。

 今は元手があるから後一週間ぐらいは持つけど、過ぎたらちょっとやばい。

 最悪馬小屋で生活、なんてことになりかねない。


 正直、初っ端から宿生活をしたことにちょっと後悔してた。

 今よりも良い環境なら文句ないけど、その逆は別だ。

 宿生活の良さを知った今、馬小屋で寝泊りなんて絶対にできる訳がなかった。


 聞けば、そこそこ寒いらしい。

 それに馬の糞の匂いとかもあって、なおさらそこで寝泊りなんてしたくなかった。

 そしてそれは、フェアナも同意見だった。


「ここが駆け出し冒険者の街で良かったね。武器の貸し出しとかあるから、取り合えず簡単な依頼でもやってみよ」

「でもそんなに簡単な依頼なんてあるのか? だってここ駆け出し冒険者が集まる街だし」


 アインツは平和な街で、強い冒険者がいる訳でもない。

 そのお蔭で、魔王軍からは全く狙われていない。

 安全な街で、わざわざ依頼を出してまで何かを採取させる必要なんてないだろう。

 だからギルドにある依頼は、モンスターの討伐がほとんどだった。


「とにかく武器を手に入れようよ。《ノービス》だから、どの武器も支障なく使えるはずだし。今から行ってみよ!」

「それもそうだな」


 ただの討伐依頼であれ、ようやく冒険らしいことができることに、俺は心を躍らせていた。

 ……実際に戦うまでは。




「ど、どうしてこう、なった……」

「だ、大丈夫、アユム?」


 俺達は今、空中・・にいた。

 何言ってるんだと言われても、事実なんだから仕方ない。


 状態的に、フェアナが俺の身体を持ち上げている感じだ。

 女神だからな、きっと飛ぶことも簡単なんだろう。

 理由とかなんて知るか、んなこと聞いたら絶対に時間かかるに決まってるんだから。


 結論から言うと、モンスターは強かった。

 いや、もっと言えば、俺がモンスターを舐めていた。


 目標は駆け出しでも倒せるモンスター、ゴブリン十体の討伐。

 ゴブリンはよく知る小柄で豚顔な奴で、集団で行動しているモンスターだ。

 その中でも、群れからはぐれているはぐれゴブリンと呼ばれた種を倒すのが依頼だった。


「ご、ゴブリンに、こんなに命の危機を感じるとは、思ってもみなかった」

「でもアユムの場合、命を奪うことに抵抗があるよね? 職業の恩恵はあっても、やはりそこで弊害が出てるんだと思う」

「ホント、何も言えねぇー」


 生物を殺す。

 直前になって気づいてしまった。

 お蔭で恐怖という感情が出て、結局逃げ回るようになったのだ。


 フェアナがやれば、多分すぐに依頼は完了するとは思う。

 けどやっぱり自分の力で何とかしたいし、フェアナは賛成してくれた。

 本当にやばくなったら助けるという条件にした結果、今に至る。


「今日はさ、それが分かっただけでも良いと思おう? 期限はまだあるし、無理して今日中に――」

「――いや、やる」

「……無理しなくても良いんだよ?」

「ダメだ。甘える訳にはいかない」


 どうせこれから冒険者としてやっていくんだ。

 早い内に慣れとかないといけない感触なんだから、早くも慣れないといけない。


「分かった。じゃあ今回は慣れる為ってことで、私が動きを封じるから、その隙に倒して」

「任せろ」


 そうして、俺はフェアナの助力もあって、無事にモンスターを討伐することができた。

 戦闘と呼べたもんじゃない。

 言うなれば、ただの処理だ。

 動けなくなった相手に剣を突き刺す。


 俺はこれからの将来に少し不安を覚えながら、街へと帰るのだった。

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転移冒険者と不幸女神に幸あれ! 速風 @Kamui5

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