第3話 喜志芸祭とオムライス3

 最初に、わたしが一番行きたかった探検部の屋台へ向かう。名物・スモークチキンを食べるためだ。

 昨年オープンキャンパスを兼ねて喜志芸祭に参加していた友達から「とても美味しかったよ」と教えてもらっていた。本当ならわたしも一緒に行く予定だったんだけど、風邪ひいて行けなかったから、今日やっと食べられると密かに楽しみにしていた。最近じゃ、自宅でもスモーク食品作れる機械があるらしいけど、なかなか気軽に手だし出来るものではないから、気になってしょうがない。

 最初は四人で並んでたけれど、わたしたちの後ろもずらずらと列が長くなってしまい、急遽「代表者だけ並んでください」とアナウンスがあった。一人二本までの購入制限があるから、グーとパーで組み分けして、わたしは駿河くんと並ぶこととなった。君彦くんと咲ちゃんは気まずそうに列から外れて、ベンチを探しに向かった。


「神楽小路くんか桂さんと一緒に並びたかったでしょうに、僕になってしまって申し訳ないです」

「全然気にしてないよ! むしろ、わたしの方こそ……」

「いえいえ、こちらも気にしてないので」

「というか、駿河くんと二人きりでお話しするのって初めてじゃない?」

「言われてみればそうですね」

 駿河くんと同じ授業がいくつかあるけど、咲ちゃんか君彦くんが一緒にいる。連絡先は交換して知ってるけど、メッセージでやりとりすることもないし、二人きりだと不思議な感じだ。

「ずっと訊きたかったんだけど、駿河くんと咲ちゃんって受験の時にお友達になったんだよね?」

「はい。筆記用具一式を忘れた桂さんにシャーペンと消しゴムをお貸ししたのがきっかけで」

「じゃあ、本当にマンションのお部屋が隣だったっていうのは偶然なの?」

「ええ。僕らはマンションで再会するまで、連絡先も交換してませんでしたし」

「わ~! ロマンチックだね~!」

「そうですか?」

「ロマンチックだよ! マンガみたい!」

 咲ちゃんから「引っ越してみたら、偶然駿河が隣の部屋に住んでて」って聞いたとき半ば信じられなかった。でも、咲ちゃんが嘘つくわけないし。駿河くんにも確認せねばと思ってたから、ようやく訊けてよかった。

「わたし、駿河くんと咲ちゃんがお話ししてる姿、おもしろくて好きだなぁ。なんだか漫才みたいで」

「普通の会話ですよ。反対に僕は佐野さんと神楽小路くんのやりとりに羨ましさがありますね」

「本当?」

「ええ。お二人とも思いやりがあって、相思相愛なんだなと伝わります」

「嬉しい! でも、咲ちゃんと駿河くんもお互いのこと好きなんだなって思うけど」

「えっ? あー……一緒にいてくれますし、少なくとも僕のことは嫌いではないんでしょうね」

 そう言うと、黙り込む。変なこと言っちゃったかな……。まごまごしていると、「佐野さん」と改めてわたしを呼んだ。

「もしなにがあっても、桂さんと仲良くしてあげてくださいね」

 駿河くんの大きな瞳がメガネを通してびっくりしているわたしを見ている。

「う、うん。もちろん仲良くしていくけど……?」

「もし桂さんに彼氏が出来たら、僕は一緒にいてあげれません。同性の佐野さんしかいなくなりますから。佐野さんと二人きりでお話する機会は次あるのかわかりませんので、今お伝えしたかったんです」

 どこか切ない顔をする駿河くん。

 わたしがワガママを言えるなら、二人ともずっと一緒にいてほしい。出来れば、付き合ってほしいけど、友達のままでも。こんなに相性がいい二人もいないと思うんだけどなぁ。そう思っても、駿河くんへ何も気の利いた言葉は出なかった。黙りこむわたしに、

「変な話をしてしまって、すいません。あ、もうそろそろレジが見えてきましたよ」

 と慌てて、レジの方を指さす。

「スモークチキン、どんな味か楽しみだね」

 にこやかに言うと、駿河くんも「ええ、とても」と笑った。

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