猫の手借りた婚活男

戸森鈴子(とらんぽりんまる)

猫の手借りた婚活男


 俺は今、出会い系アプリを真面目にやっている。


 結婚したいんだよ!

 

 此処では『自分の容姿の写真を載せた方がいい』と、婚活仲間に聞いたので俺は髪を切った後にマスクをして写真を撮った。


 プロフィールも頑張って書いたぞ。

 あまり金のかかる趣味が好きだと嫌われるらしい。だから健康的なイメージを持ってもらえるように俺は『ランニング』と書いた。

 年収はちょっと……過去にボーナス多かった時の金額で……嘘じゃないしな。

 とにかく婚活! ってことで努力したんだ。


 俺はもう親もいないしさ……やっぱ子供いっぱいの家庭って憧れるんだよな。


「それなのにさぁ! なんで『いいね』しかもらえないんだよ!?」


 俺は部屋で一人叫んだ。


『いいね!』の意味はただのツバつけ。

 唾はつけるくせに結局メールも来ない……すなわちデートなんてまだ見えぬ先の果ての楽園……。


 俺はイライラしてストロング缶チューハイを呑む。


「はぁ……一体どうしたらいいのか……わからないよ~~にゃん丸~~」


「にゃあ~」


 俺の相棒、にゃん丸……。

 雌なんだけどね。


「にゃん丸、ニャオジュ~チュ食べるか?」


「にゃん! にゃにゃっ!!」


 ペロペロ系ジュレのお菓子をあげると、にゃん丸は目の色を変えたようにペロペロ舐める。

 ジュ~チュに手を添えるようにしてさ~可愛い~~!!


「はは……中毒になる美味しさなのかなぁ~」


「にゃ!」


「可愛い手だな……あ、よっし」


 俺は、にゃん丸の手を撮影した。

 そして出会い系アプリのアイコンにしたんだ。


 可愛い肉球!


 そんでもう吹っ切れたから、趣味は『猫You Tube見て酒を呑むこと』って書いたし『愛猫にゃん丸命!』とも書いた。


 そしたら……何人かとメールが続いて、なんとなんと! デートする事になった!!


 これぞまさに、猫の手を借りた結果……だよな!

 にゃん丸サンクス!!


 そしてデート当日!! 


「にゃん丸いい子にしててな~デート行ってくるからな!」


「にゃ~~ん……」


 少し遠くの人が溢れる駅前の土曜日の夜。

 俺はもう口から、心臓が出そうになるのを堪えながら彼女が来るのを待った。


「あ……あの……丸君……ですか?」


「ひゃ……はいぃ」


 俺は名前をにゃん丸からとって『丸』にしていた。

 後ろから可愛い声が聞こえて……やばい! どうしよう!

 マスク……取らない方が……いいよね!?


 心臓が十個あるみたい!!

 ってドキドキしながら振り返った。


「……え……榊君……?」


「え……前下?」


 なんと、そこには俺の婚活仲間の……同僚の前下がいた。


「う、うそ~……」


「う、嘘って……お前が……キミコちゃん? って前下貴美子そのまんまじゃねーか!!」


「あ、あんたこそっ 丸ってなによ丸って~~!!」


 うっそ! こんなラブコメ的な展開あるか!?

 前下……会社じゃ全然何も思ってない、男同士みたいな感じだったのに……?

 今こうしておしゃれをしている前下を見てたら……俺……!!

 

 TOKIMEKI……トキメキ……ときめき!!


「は~~い!! ご主人に近づかないでくださいねぇ!?」


「「えっ!?」」


 前下と俺の間に突然割り込んできたのは、女の子!?


「きゃ!? なに!?」


「な、なんだ!?」 


 俺は、その子を見て驚いた。

 ぴこぴこ猫耳が頭に!

 頬には猫のヒゲ!

 顔は人間だけど、手は猫の手で肉球まで付いて……尻尾はモフモフ……猫娘!?


 着ている服って……待ってそれ『ミラクル過激殺戮少女』の超絶レアビッグパーカーじゃなあい!?


「にゃ~~ご主人~」


 猫なで声で女の子は言う。


「え……っ……ご、ご主人だって?」


「はい~、この前ご主人が撮ってくれた前足の写真を~~こっそり『全宇宙前足コンテスト』に応募したんですにゃ」


 繰り返すが人の多い駅前だ。

 この異様な猫娘に、まわりはザワザワと騒ぎ出す。


 ってか全宇宙前足コンテスト……??


「そしたら、全宇宙で第一位受賞! ご褒美プレゼントで猫娘になって人間のお嫁様になる権利が与えられたんですにゃ~~ん!! 最高の前足写真ですにゃ!!」


 前足の写真……?

 確かに……この子の猫手……。

 白の毛並みに茶色の水玉模様……右前足には俺が『しめじ』と呼んでる可愛い丸い模様!!


「……にゃん丸……なのか……?」


「にゃ~~ん!」


 やっぱり、にゃん丸!! という事は……!!


「じゃあそのパーカー俺のじゃねぇかぁあああ!!」


「きゃ~~!! バレたにゃ~~ん!!」


「限定超絶レアだって知ってるだろ!?」


「だってぇ~これしか可愛いのなかったですにゃん!」


「だからって……!」


「はぁ!? なんなのあんた達!! きっも!! バカにして!! ふざけんなこの野郎!! クソが!!」


「ま、前下!? 違うっぶげっ!! がはっ!!」


 俺は前下にビンタされてキンテキまでされて倒れ込んだ。

知らないやつらにスマホで写真撮られそうになったけど……そいつらを蹴散らしてくれた、にゃん丸に手を引かれて家に帰った。


 会社は嘘ついて三日休んだ。


 最初は前下との事がめっちゃショックだったんだけど……。

 その間に、にゃん丸とは、まぁ……にゃんにゃん色んな事があって……にゃんにゃん……ぐふふ。


「ご主人~」


 敷きっぱなしの布団で俺達はまたゴロゴロ抱き締め合う。


「にゃん丸……明日から仕事だけど、会社で俺すげー噂流されてるぞ」


「んにゃ~じゃあ会社なんか辞めて、にゃん丸と猫カフェやるにゃん~」


「思考が、めでたい……まぁ猫だしな」


「にゃ~~ん優勝賞金もあるにゃ~」


「とは言っても、これから考えたら稼がないとなぁ」


「頑張るにゃ」


「うん、可愛い嫁さんと未来の子供のためにね」


 猫の手を借りた結果、俺の場合はこうなった。

 子供何人生まれるんだろう?

 まぁ、こんな幸せもあるよね。


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