レンタル猫の手、借りてみました

ゼパ

第1話

私の名前は夏目薫、女子大生である。

普段は小説を書く日々を過ごしながら生活している。


突然だが、私は猫が好きだ。といっても、猫を飼う金も時間もない。

もちろん猫アレルギーもない。

ある日、ツイッターを見ていた時だった。

あるではないか、猫と戯れる方法が。

私はレンタル猫の手という文字に惹かれ、借りてみることにした。


「ピンポーン」


部屋に鳴り響くチャイムが私の楽しみを増加させる。

私の目の前に現れたのは一人の男性とケージにいれられた一匹の猫だった。

男性の方に興味はない。すぐさま私の部屋へと連れ込んだ。


「猫の手入りまーす」


ラーメン店の厨房かよ!

と思いながら待ちかねた猫との戯れが訪れる。


「それではこれから30分間、猫とごゆっくり」


と男性が言うとタイマーをスタートした。

すぐさま、両手で猫を抱えようとした時だった。


「あ、猫は触らないでください」

「なんで!?」

「猫の手だけレンタルですので」


なんでだよ!そういう名前で営業してるだけかと思ってたじゃん。

想定外の事態に私は少し慌てていた。

いやそもそも猫の手だけ借りても何にも・・・

いや待てよ?

普段当たり前のように見ている猫なのだが手だけを借りたいというニーズなのか?

だとしたらコイツ天才なのでは?

と思いつつそっと猫の手を触れてみることにした。


「シャーッ」


猫が私の手に反応して鳴き声を上げながら私の手を引っ搔こうとしてきた。

全然触らしてくれないじゃん!

レンタル猫の手とは?と聞きたくなる理不尽さが芽生えた瞬間だった。

だが、私はなんとしてもこの猫の肉球を触りたくなってしまった。

猫は深く爪を伸ばす。私に警戒心を抱いているのが容易にわかる。

絶対あの男、飼い方間違えてるでしょと内心では思いつつ声には出さない。

この猫を屈服させる方法がある。この時のために事前に買っておいたのだ。


「私の奥の手、Amazonの猫じゃらし(税込1399円)で勝負だ」


といっても、やったことがないので一定のリズムで上に振ってみる。

数秒後、どうやら猫じゃらしに興味を持ち始める。私だけが。

どうしたらこの猫は猫じゃらしに興味をもつのだろうか?

そもそも猫は猫じゃらしに興味を持つのだろうかと。

やばい、このままでは私の税込1399円が無駄になってしまう。

そっと顔を動かすと、奥のほうで男性の顔がにやついているのが見えた。

猫に対しての笑顔なのか、それとも私を嘲笑う笑顔なのかは定かではなかった。


私は少し考え猫を釣るかのように猫じゃらしのさきっぽを近づける。

すると猫は目を見開けながらその場で立ち尽くす。

どうやら興味がなかったわけではなかった。

しばらく緊迫した状態が続く。が、私が猫じゃらしを引っ張ったことで状況は好転した。

ついに猫が猫じゃらしを追っかけ始めたのだ。

ふふふ、これではさすがの猫様でも手も足も出ないか。

だって猫じゃらしだもんな。

しばらくの間、私は猫と猫じゃらしで遊んでいた。

きっと男性からすれば滑稽な姿だったと思うが気にはしていない。


「これで猫の体力が少しでも奪えていたらいいんだけど・・・」

疲れ切っていたのは私のほうだった。

大人にもなって無邪気に猫と遊んでいただけだったからだ。

が、すべては猫の手を触るためだ。

そっと猫に近づく。猫は先の戦いで体力を消耗しているようだった。

ゆっくりとゆっくりと、私は手を伸ばしてみる。

先ほどと違って猫は引っ搔いてこなかった。

その手にそっと触れてみる。

小さなその手は柔らかかった。そして肉球が気持ちよかった。

私の猫に対する思いはこの小さな手の中に詰まっていたのだ。

あぁ、なんという幸せ・・・


と思っていた瞬間も束の間、どうやら30分が終わってしまったようだった。

そんな、私と猫の時間が・・・

ようやく懐いた猫に心を奪われてしまったが貴重な体験をすることができた。


「もう少しだけ触ってみたかったなぁ」


そう思いながら私は小説を書き始める。

が、猫のことを思うばかり、手がすすまなかった。


「あぁ、猫の手借りてぇ・・・」

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