ずっと続くサキュバスとの愛

「いらっしゃい沙希亜ちゃん、凛音ちゃんも」

「おはようございます」

「お邪魔します」


 それはとある休日のこと、沙希亜と凛音は朝から翆の家にやってきた。

 こうして二人でやってくることはもはや珍しい光景ではなく、本当に仲が良いんだなと翆の母である碧は彼女たちを歓迎していた。

 まだ翆と彼女たち二人が同時に付き合っていることは伝えられていないが、心のどこかで少しばかり察していたのも確かだった。


「どうぞ二人とも」


 本格的な夏ということもあって、沙希亜と凛音は出来るだけ風を感じられるようにと涼しい恰好をしているが、あまりにもスタイルの良すぎる彼女たちは女の碧であってもドキドキせざるを得ない。


「……あの子、なんか凄いわね」


 そんな二人を部屋に招く翆もいつの間にか大物になったんだなと、碧は息子のことを思いながら微笑んだ。

 さて、そんな風に母親に思われていた頃のことだ。

 翆は今日彼女たちが来ることは知っていたが、約束した時間よりも少しだけ早かったので出迎えが出来なかった。


「早かったな」

「すぐにでも会いたいから」

「そうだよ」


 朝から熱い愛を語るように二人は翆に寄り掛かった。

 既にあれから数ヶ月が経つことになるが、サキュバスの故郷に向かってから二人の求愛は更に勢いを増し、同時に翆も彼女たちに対する想いが強くなったのは彼らを見ていればすぐに分かる。


「……なあ二人とも」

「なあに?」

「う~ん?」


 別にこれから恒例行事でもあるエッチをするわけでもないのだが、翆に問いかけられると二人はもっと体を密着させてくる。

 相変わらずドキドキするのは変わらないが、翆は最近になって考えていたことを二人に告げた。


「サキュバスの幸せ制度について考えたんだ」


 それはずっと引っ掛かっていたことでもあった。

 二人にもそうだし璃々夢にも一切相談せず、ましてや連絡先を交換したルージュにも全く話をしていないことだ。


「働かなくても一生分以上のお金が送られることは聞いたし、そんな楽を出来るのは言っちゃなんだけど凄く魅力的だった。生きるためのそういった部分に心配をすることなく、二人をただ愛していればそれで良いんだから」

「うん」

「そうだね」


 普通の人間社会ではあり得ないほどの楽な制度は魅力的だ。

 だが、翆はそんな制度を提示されても一方的にそれを享受するというのがどうしても素直に頷けなかった。


「もらえるものはもらいたいと思うけど、俺は大人になったら普通に働くよ」

「分かったわ」

「うん。良いよ」


 二人は翆の考えに一切の反対をしなかった。

 絶対にそんなことはせずに、一日の始まりから終わりまで傍に居てほしいと言われると思っていただけに少し意外だった。

 翆が目を丸くした様子に二人はクスッと笑い、まず最初に沙希亜が口を開いた。


「確かに残念ではあるけれど、翆君の決定に異を唱えることはしないわ。確かにそんな感情が一切沸くことがないようにドロドロに溶かし尽くそうって姉さんと話してたけど、もう私たち二人でも翆君には勝てないから」

「……えっと」


 別に勝った負けたを論ずるつもりはないが、確かに最近は翆も自分で実感出来るほどに二人を負かすことが増えたのだ。

 もちろんそれで満足できないとかそういうことは一切なく、お互いにいつも大満足して終えることが出来るので良い成長とも言えた。


「翆君がそうしたいならそれが良いと思う。私たちも母さんの仕事を手伝うことも視野に入れてたからね」


 そう言ったのは凛音だった。

 ここに来て一つ思ったのだが、翆は璃々夢がどんな仕事をしているかを知らなかったので首を傾げていた。


「母さんはモデルの事務所をやってるんだよ。言ってなかったね」

「……あ、そうなんだ」


 璃々夢の手伝いということで所属するモデルについてフォローしたりすることもあれば、翆にもしも出会うことがなかったらモデルとして活動することも考えていたらしく丁度良いとのことだ。


「ま、母さんは絶対に私たちをあまり目立たせることはしないと思うけど」

「うん。そんなことに時間を割くなら翆君の傍に居ろって言うと思う」

「……なるほど」


 璃々夢もかなり翆のことは気に入っているので、出来る限り翆のことを考えてくれているらしい。

 実を言うとあれから時々本番をしない行為を璃々夢としていたが、つい最近になって辛抱出来なくなった璃々夢を抱くに至った。

 このことに関しては沙希亜と凛音も承知しており、ルージュの時と同様に逆に歓迎する空気だった。


『……なるほどね、これは愛してしまうわね。それに……あ~あ、これは困ったものだわ』


 それから璃々夢から何とも熱い眼差しを向けられることが増えてしまった。

 このことについて翆もサキュバスである彼女たちと触れ合うことでかなり察せられるようになってしまったため、璃々夢の心の機微についてもドエライことになってしまったと頭を抱えたこともあった。


「……まあでも、幸せなことに変わりないんだよな」


 そう、本当に今は毎日が幸せだった。

 今までも普通に高校生として充実した日々を送っていたのだが、変化としてはそこに色を添える彼女たちが加わっただけに過ぎない。

 それなのに口に出しても有り余るほど毎日が幸せだった。


「うおおおおおおおっ!!」

「きゃっ♪」

「わわ♪」


 二人を抱きしめながら翆はその場に横になった。

 そのまま両腕で二人を思いっきり抱きしめ、その柔らかさと温もりを思う存分楽しむことにした。

 二人とも決して翆から離れずに彼女たちも強く抱き着いた。


「二人とも、俺はマジで二人が好きだ。沙希亜、凛音……これからもずっと俺の傍に居てくれ。ずっとずっと愛してる」

「えぇ! 私も愛してるわ!」

「うん! 私も愛してるよ!」


 それからまだ朝というのは変わらないが、二人の力によってあまりにも強力過ぎる防音の結界が部屋中に展開された。

 そんな中で三人が何をするのか想像に難くなく、もしかしたら夕方くらいまでやってしまうのではないかという勢いすらも感じさせる。


 サキュバスは夢魔というのが一般的な通り名だが、確かに彼女たちは翆に夢のような時間を運んでくれた女神には違いない。

 これからもずっと、人である翆とサキュバスである彼女たちは決して離れることなく過ごしていくのだろう。

 それはきっと幸せな光景になると、誰もが見ても断言できるに違いない。


「きょ、今日の翆君いつもよりも……っ!?」

「サキュバスなのに意識飛んじゃいそ……っ!!」


 ……まあまだ三人とも若いけど、あまり無理をしないことを祈るだけだ。

 翆も沙希亜も、そして凛音もずっと幸せに……そう願うだけだ。





【あとがき】


ということで今作はこれに完結となります。

区切りとしてはちょうどいいかなと思ったのでこのような形になりました。


現実世界にサキュバスを混ぜるという試みでしたが、楽しんでいただけたなら幸いです。

それではまた別の作品か、或いは既存の作品でお会いしましょう!

ありがとうございました!

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美人転校生はサキュバスだった。秘密を知ってからエグいくらい愛される件 みょん @tsukasa1992

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