超短編小説「宿題丸写し作戦」

夜長 明

完全犯罪?

 夏休みの宿題は最終日にやる。そのほうが危機感からせっせと取り組むことができ、効率がいいからだ。というのはもちろん、ただの言い訳だった。

 算数のノートに計算式をひたすら書く。別に問題を解いてるわけじゃない。答え合わせ用のプリントを丸写ししているのだ。とはいえ満点を取るのはいけない。適度にわざと間違えておく。

 作業を始めてから1時間ほど経ったとき、気づいた。このペースでは、間に合わない。

 どうしよう。なんとかして今日中に終わらせなければ。仕方ないので、奥の手を使うことにする。

「ねえアオ、ちょっとこっち来て」

「えー」

「いいからいいから」

 そう言うと、アオはめんどくさそうな顔をしながら僕のところへやってきた。

 僕はアオにこのままでは宿題が終わらないことを伝えた。だから写すのを手伝ってほしいと言うと「べつにいいよ」とのことだった。

 やった。作業効率2倍なら、全部終わらせられるはずだ。

「じゃあまずはこれやって」

 僕はノートと答えのプリントをアオに渡した。


 ✳︎


 なんとか昨日のうちに宿題を終わらせた僕は安心して学校に向かった。扉を開けて、教室に入る。すると近くにいた赤坂あかさか君が声をかけてきた。

「よお、久しぶりー」

「おう。そっちこそな」

 それから夏休みにどこ行ったとか何食べたの話題で盛り上がった。それもひとしきり終わったところで、宿題の話になる。

「夏休みの宿題まじめんどかったよな。日記とかさ」

「ほんとに。僕は昨日、妹に手伝ってもらってなんとか終わらせたよ」

「は? ずりーなお前。おれ兄弟きょうだいいねーんだけど」

「昨日は本当に助かった。僕には妹いてよかったー」

「まあいいけどさ。でもどうすんだ? 字が違ったら先生にばれるぞ」

「大丈夫。僕も確認したけど、簡単には判別できないよ。これは完全犯罪だ」

 赤坂君は「ふーん」と言って自分の席に戻って行った。それから先生が来て、僕は堂々と宿題を提出した。


 ✳︎


 その日の帰りの会で、僕は先生に呼び出された。後で職員室に来いという。

 まさか、ばれたのか?

 不安を押し殺して職員室に入る。先生は言った。

「いちおう確認だけど。ソラ、算数の宿題はちゃんと自分でやったよな?」

「はい」

「そうか。わかった」

 よし。ばれてない。

「ちなみにこれはアオちゃんの夏休みの日記なんだが」

 え、なんだ急に。

「仲が良いんだな」

 それが皮肉だということに、一瞬気づかなかった。そこには夏休み最終日の思い出が丁寧な字でつづられていた。

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