私だけのヒーロー 

卯月白華

あめのあと

 彼女だけのヒーローが、居なくなった。

 ある日突然、消えてしまった。


 田中たなか琵愛亞ぴゅあにとって、兄はヒーローだ。

 いつも自分を守ってくれる、彼女だけのヒーロー。


 兄に言ったら最後、嫌な奴もイジメる奴もどうにかしてくれた。

 とっても可愛いから女には嫉妬されるし、男にはすぐ好きになられてしまうのが琵愛亞ぴゅあの悩み。

 そんな困った人達から守ってくれて、色んな人に慕われている兄が琵愛亞ぴゅあの誇り。

 ちょっとやんちゃだけれど、とっても強い、琵愛亞ぴゅあにとっては優しい思いやりのある兄だ。


 兄と兄の仲間と小学生の頃から深夜に出かけるのが楽しかった。

 バイクに乗せてもらって、他の車の前をゆっくりフラフラするのも。

 美味しいものをたくさんたくさん食べさせてもくれる。

 お金だってみんながくれるからいっぱいもってる。

 そんな兄だから誰も目が合わせられないんだ、すごいんだとしか考えない。


 あの日。

 消えてしまったあの日だって、お願いをしただけなのに。


 高校生になった日から、彼女と相思相愛になっている少年との仲を裂こうとする女。

 その女を、ちょっと彼の前から居なくなってもらおうとしただけ。


 彼と琵愛亞ぴゅあは秘密の両想い。

 名前だってお互い知らないけど、必ず同じ道ですれ違うしすれ違った時に目が必ず合うし合わなくても好きだよ愛してるってお互いに絶対心で言い合ってる。


 なのにあの女は、彼との逢瀬の場所にいつもいっつも現れて。


 だから、兄にあの女が琵愛亞ぴゅあの敵だと伝えた。

 琵愛亞ぴゅあをイジメるのだと。

 琵愛亞ぴゅあに嫌がらせをするのだと。


 何一つ嘘なんてついていない。

 琵愛亞ぴゅあはそう信じて疑わない。


 だってあの女は嫌な目で琵愛亞ぴゅあを見るし、あの女は琵愛亞ぴゅあを無視するし、あの女は琵愛亞ぴゅあが親切に彼にどうして近づいてはいけないのかをとっても丁寧に伝えたのにやっぱり言う事を聞かないんだから。


 やっぱりあの女が悪いんだ。

 琵愛亞ぴゅあだけのヒーローが居なくなったのは、あの女が悪い。


 警察にも話を聞かれていたみたいだし、問い詰めてやらないと。

 とっても強い兄を卑怯な手段で何かしたんだと言うのが琵愛亞ぴゅあの結論。


「私だけのヒーローを取り戻すんだ」

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私だけのヒーロー  卯月白華 @syoubu

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