公園で

サヨナキドリ

不良と男の子

「ん?」


 いつもより早く帰れた、高校からの帰り道。意外な光景が見えて足を止める。遊具が3つくらい、ぽつんぽつんと置かれている小さな公園に、クラスメイトの石川がいた。校則で禁止されているのにずっと髪を金髪に染めている、いわゆる不良だ。


 その石川の前には、小学生に見える男の子がいた。私は近くの電柱の陰に隠れて様子を見る。いくら石川が不良だとはいえ、小学生相手にカツアゲやらするわけもないけれど、それでも絵面は穏やかではない。


 そんな私の心配をよそに、石川と男の子は和やかに遊んでいて、そうこうしているうちに5時を告げる鐘が街に響いた。


「またね〜!」


 大きく手を振る男の子を、石川は座ったまま見送る。


「ずいぶん懐かれてるんですね。どういう関係なんです?」


 私は電柱の陰を出ると、石川に訊ねた。別れる、ということは兄弟では無さそうだけれど。私の姿を見た石川は、驚いたように少し目を見開いて、それから彼が去っていった方を眺めて語りはじめた。


「俺、部活とか入ってないから暇でさ。この辺をぶらぶら歩いてたら、ここよりちょっと大きい公園で、あいつらが遊んでてさ。鬼ごっこしてるんだけど、ずっとあいつが鬼で。その時は別に気にもしなかったんだけど、別の日に見てもまたあいつが鬼で。次の日も、またその次の日もずっと。……あいつ、足が遅いんだよ」

「なるほど。それで助けてあげて、あんなに懐かれたとか?」


 私がそういうと、石川は小さく笑って言った。


「まさか。別に何もしなかったよ」

「薄情者!」

「見ず知らずの小学生の揉め事に、高校生が口突っ込むとかナイだろ。……それで、あいつに聞いたんだよ。『鬼ごっこはつまらなくないか。辛くないか』って。そしたらあいつ、笑って言うんだよ。『つまらなくない。明日は捕まえるから』って」


 そう言って石川は、彼が帰って行った方を見つめながら言う。


「すげえ奴なんだよ、あいつ」


 そこまで聞いて、私は納得した。


「なんだ。あの子があなたに懐いてるんじゃなくて、あなたがあの子に懐いてたんですね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公園で サヨナキドリ @sayonaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ