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「こちら、ホットパックといいまして温かい枕のようなものが入っております。首元か腰のどちらかに当てさせていただきますが、どちらがよろしいでしょうか」

「それじゃあ、首元に」

「では、後ろ失礼します」


 田原様の首元へとタオルに包んだホットパックを置き、オットマンの後ろへと移動する。チカちゃんが、フットバスをバックヤードへ運んでくれたのがみえた。

 ありがとうと彼女に視線を送り、テンピュールを敷いて折りたたみ椅子をセットする。


「それでは本日担当いたします、雨宮と申します。途中気になることがありましたら、ご遠慮無くお申しください」


 足元に自分の時計を置いて時間を確認。手元の籠から青いボトルを持ち、田原様の右足に掛けたリードを外すと左手の甲を脛に当て、片手で蓋を開けては手のひらにパウダーを出す。蓋をして籠に戻し、両の手のひらを合わせるようにゆっくりすり合わせてから、薬を塗るよう圧を加えつつふくらはぎから足裏へとパウダーをつけていく。

 田原様の右足を掴みながらリードを右足に掛け、つづいて左足のリードを外し、左足を掴んでから左手の甲を脛に当て、青いボトルを片手に持ちながら蓋を外し、手のひらにパウダーを出していく。右足同様、ふくらはぎから足裏へまんべんなくパウダーを付けてリーダを掛け、左右の足裏だけを出して前準備の施術をしていく。

 老若男女、様々な方がサロンをご利用される。これまで男性客はもちろん、年配のお客様にも施術をしてきた。個人的に寝たきりやホームの方にも施術経験があるので、田原様のような高齢の方に施術するのは初めてではない。


「力加減は大丈夫でしょうか」

「ああ、大丈夫。もう少し強くてもいいけどね」

「このくらいでしょうか」


 握る力に少し圧を加えてみる。


「うん、そのくらいで」

「かしこまりました。ごゆっくりお休みください」


 店内に流れるゆったりとした音楽とエッセンシャルオイルの香りが漂う中、田原様が呼吸するたびに、かすかに胸辺りが隆起する。そのタイミングをみながら、じんわり痛気持ちいい刺激を心がけて施術していく。

 かすかな寝息が聞こえる。お疲れだったのかもしれない。目を覚ました時は元気になっていますようにと、小さな願いを施術に重ねていった。

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