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「こちらで、お履物をお脱ぎいただいて、おかけください」
チェア周辺に敷かれた絨毯手前で、手を指し伸ばす。
「隣が見えないような壁があって、ちょっとした個室みたいだね」
田原様は靴を脱ぎ、「上着を脱ぎたいんだけど」と背広を脱ぎはじめる。
「こちらをお使いください」
壁にかけられたハンガーを手に取り、差し出す。
「あぁ、ありがとう」
田原様は、ハンガーに袖を通していく。
「スマホをお持ちでしたらマナーモードか電源をお切りください。かかってきたとき、他のお客様に御迷惑になりますので」
「そうか」
壁にかけようとしていた手を止めた田原様は、背広の内ポケットからスマホを取り出し、マナーモードに設定して戻し、壁にかけた。
「ありがとうございます。どうぞおかけください」
田原様がブリティッシュグリーンのリクライニングチェアに腰掛けるのに合わせて、私も立膝をついてしゃがむ。
「施術の前にフットバスに入っていただきます。靴下をお脱ぎいただいて、ズボンの裾を膝上辺りまでまくりあげていただけますでしょうか」
私は自分の膝のところに手を当て、まくりあげる位置を示す。
「ふうん、そこまであげるんだ。脱いだ靴下はどうすれば」
「そちらの籠をご利用ください」
手を指し伸ばして伝えると、「あぁ、これね」と返事。チェアに座って靴下を脱ぎはじめた田原様に一礼して立ち去ると、フロア内を走らぬよう優雅に歩きつつ、さりげなくサロン内を見渡す。もうすぐ施術が終わりそうな席に気づきつつ、間仕切りカーテンがしてあるバックヤードへ素早く入った。
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