　棚からリードと消毒用のスプレー、布巾を手にしてフロアに出ると、さきほど施術が終わったばかりの席へ行き、籠のなかや周辺に忘れ物がないか確認した。

　リクライニングチェアとオットマンの位置を直し、アルコール消毒して拭いていく。オットマン上の枕をきれいに均し、新しいリードに取り替える。アルコール消毒したブランケットの端と端を持って合わせて折りたたみ、皺も反り返りのないようオットマンに載せた。

　消毒用スプレーと布巾を戻しにバックヤードへ戻る途中、フィッティングルームの扉が開き、お客様が出てみえられた。

「ショートパンツをお預かりします。開けたままで結構ですよ」

　スプレーと布巾を足元へ置き、ひと声かけてショートパンツを受け取ると、あちらへどうぞと受付の方へと手を差し伸ばして促す。と、担当したスタッフがバックヤードから出てくるのがみえた。

　すれ違ってバックヤードへ入り、棚にスプレーと布巾、ショートパンツは回収袋へ入れて、受付へと向かう。

「いらっしゃいませ」

　お客様に笑顔で一礼すると、会計済んでるからと受付に立つリーダーがカウンターの上を滑らせて、カードに貼った付箋を私の見える位置に移動させる。

　書かれてある『田原・Ｆ』の文字を一瞥。

「ご案内できますか」

　リーダーにうなずいてから、

「お待たせ致しました、田原様。ご案内させていただきます。こちらへどうぞ」

　笑顔を絶やさず、田原様をサロン奥の席へと案内した。

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