第1話

春、日本では子供が大人に一歩成長する季節。幼稚園児は小学生に、小学生は中学生に、中学生は高校生にそれぞれなっていく。


4月某日、久しぶりに降りる駅には桜が満開に咲いている。周りを見ればたくさんの真新しい制服に身を包んだ新入生がいる。右を見れば中学では見たことないくらいの美人な子が、左を見ればこれまた中学では見たこともないくらいのかわいい子がいる。この期間だけはどうしてもいろいろ期待してニヤニヤしてしまう。


そう、今日は入学式。それも俺の入学式だ。


高校の入学式はどんなもんかと期待したが、どうやら中学までとさほど変わりはないようだ。壇上では校長が、夢に向かって~うんぬんかんぬんと、挨拶をしている。これから始まる青春にワクワクして毛ほどの苦痛も感じなかったが。入学ハイってやつ。だるい長話もだるい授業も数日間はとても短く感じる。そんなこんなで入学式が終了すると、呼ばれた順に教室に向かっていく。俺は1年5組だった。


「1年5組」とアナウンスが流れ教室へ向かう。

教室につくと、このクラスは当たりだと思った。かわいい子も美人な子もそろっている。席につきワクワクしていると、担任が入ってきた。

「入学おめでとうございます!私は花塚あきといいます。担当科目は地理をやってます。」

そこから一通り挨拶を済ませると、入学案内を配り始めた。

「それじゃ、今年一年間よろしくお願いします。」

昼前には入学式は終わり、もう帰る時間だ。



「なんだこれは……」

入学式から帰ろうと、正門に向かうと見渡す限りの在校生の部活の部員がズラーっと列をつくって大声で勧誘を行っていた。正門前のバスケや柔道、ラグビー部なんかの勧誘の声が玄関にいる俺の耳にも響いてくる。遠目から見ても何かめんどくさいオーラを感じる。…行きたくねぇ。


一瞬考え、一旦校内巡りして、裏口があればそこから出ようと決め、新入生の塊から一歩抜け出した。正直塊の中ですきをついて素早く抜ければ抜け切れたかもしれないから、相手にしたくないより、好奇心って感じだ。



校内を歩くといろいろな発見があって楽しい。前来た時はやることが決まっていたし、そんな余裕もなかったから改めて見ると、この高校の大きさを感じる。県内有数のマンモス校。普通科と工業科の二つがあり、校舎は新旧合わせて3つと小さな棟が少しといったぐあいだ。クラス分けは普通科の中でも頭の良いクラスから悪いクラスまで細かく分かれ、工業科も数クラスに分かれる。5組の俺は中の中ってとこだ。


ただだからこそ、迷いやすい。俺みたいな土地勘の全くない奴がてきとうに歩いていいはずもないのだ。・・・つまり、今自分がどこにいるのかよくわからなくなってしまった。「まずい」と内心焦るが、校内でスマホをつかって入学式にスマホ没収だなんて嫌すぎる。


「どうしたの」


ふと、背後から声を掛けられ顔を向ける。制服をきた少女だ。すらっとしているが、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。正統派な美人といったいで立ちである。胸元のリボンの色が緑なところを見ると、上級生のようだ。

「ちょっと迷ってしまって」

俺はきっと砂漠に現れたオアシスを見る目で彼女をみていたのだろう。そんな俺を見て彼女はクスっとわらった。

「そうなんだ。じゃあいっしょについて行ってあげよっか」

「お願いします」

間髪入れずに答えると、またクスっと笑った。


「でも、どうして迷ったの。みんなについていけばいいだけじゃない」

雑談のつもりなのか、彼女から話しかける。俺はどうしてこうなったのか、ことのあらましを伝えた。

「じゃあ、裏口からいっこか」

と彼女は言った。あんまり裏口ってほど正門と離れてないけど、ともつけたしたが。


彼女についていき、階段を降りると、正門側から見て右側を進んだところにあるドアを開けた。

「あっち側に見えるのが通学路でしょ?」

と指さす方向には、確かに今朝歩いた道が見える。お礼を言おうと向き直ると、また歩き出す。

「一緒についていくって言ったからね」

と言った。


「今日はありがとうございます。おかげで正門を抜けずに済みました」

俺は深々と頭を下げた。お礼と謝罪の意味を込めてだ。

「いいのよ」

と笑う。あ、でも、とつづけた。

「もしお礼したいんなら、明日とか私の部活に来ない」

「え、どこですか?」

こんな美人と一緒に部活できたら最高だ。内心ワクワクしながら尋ねる。

「応援団部なんだけど」

と、彼女は言った。

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