第6話 ダイラのタイヤ

岡本太郎の、「芸術は爆発だ!」とぎょろ目&両手で巨大な何かを掴もうとするジェスチャーは幼少ダイラに衝撃を与えた。


この強烈で摩訶まか不思議な存在との出会いは、ウルトラマンや怪獣映画、SF映画から現代美術に興味が移行していったきっかけとなった。


「自分の中にをもて!人生の岐路に立った時、なほうの道を選べ!」


1983年、映画ではET,スターウォーズが大ヒットし、東京ディズニーランドがオープンした。YMOは大衆に迎合した「君に胸キュン」をヒットさせたが、テクノカットオジサンたちは迷走していた。子どもたちはデパートのファミコンに群がり、アルフィーは、大切な人を失い、張り裂ける思いを歌っていた。


高校生のダイヤは、文化祭で演劇を企画し、脚本と舞台美術を担当した。


アバンギャルドで奇抜な劇は、当時の生徒や教師を驚かせた。


劇のクライマックスでは、巨大なミラーボールに様々な角度からスポットライトを当て、反射させ、体育館を宇宙空間に変化させた。西城秀樹のを爆音で流し、爆竹とロケット花火で異様な空間を演出し会場を騒然とさせた。


バブルな時代と共に、期待と不安で膨張する生徒たちのエネルギーを表現したかった。


な道を選んだ、後悔はなかった。


少々毒が強すぎたか、演劇部顧問から叱られ、思いを寄せていた人からは距離をとられた。


明くる日は、自宅で、を見ながら、わらべの「もしも明日が…。」をラジカセで聴いてしんみりした。


美術大学に入り、課題制作で行き詰った。


彫刻棟の屋上で空を見上げながら、太陽の塔の壁に小さな穴があり、その中を覗くと、銀河鉄道999が天を突き抜け、四方八方に光が拡散される空想をしていた。


「モニュメントを消せ」


ぼーとしていると、そんなメッセージが降りてきた。


松澤侑まつざわゆたかが「オブジェを消せ」と啓示を受け、その後、言語のみで実験的にアートの終末表現を試みていたことは知っていた。


美大の教授や講師たちの彫刻作品は、記念碑的な巨大モニュメントが多かった。


学生たちがつくる作品にも、そんな影響が漂っていた。


ある日、ダイラの作品にタイヤがついた。


殻を破った瞬間だった。


時や場所と共に移動するダイヤのタイヤには、モニュメントは受け入れないという強いメッセージが込められていた。


追いかける存在から、に変わった。










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