【S2-第4話】白虎と獣王の爪

S2-FILE028(FILE229):最強の敵はわたしです


「……カッコつけたって騙されないぞ。もう、テイラーグループなんかの言いなりにはならない。ヘリックスこそが正しい!」


「目を覚ませ剣持さん! あなたはヤツらにつけ込まれただけだ」


 少し怖気付いたネオエッジガイストだが、虚勢を張ってブレイキングタイガーとなった虎姫に抵抗する。

 鋭利で分厚い剣で斬られても火花が上がるだけであり、虎姫は退かない。

 それどころか、受け切るだけでなく華麗に回避も行ない、更に頭上からの奇襲攻撃も仕掛けた。


? それはどうかなテイラー。我らが生み出した生物兵器や、こっちが雇った暗殺者を寝返らせたお前こそ真の悪だ!!」


 即座に白虎のごとき巨大な爪が、タキプレウスガイストの額の目を切り裂いた。


「グァッ」


 彼はうめき声を上げて、切られた箇所から青い血を吹き出して後退する。

 怒ったネオエッジガイストが勢いよく両腕を振り回して風圧を起こし、アデリーンたちを転倒させるが彼女たちはなんとか体勢を立て直す。

 ……ただし、アデリーンと蜜月の胸が大きく弾んでおり、ロザリアを仰天させた。


「むう。テイラーの娘がここまでやりおるとは」


「助太刀しますよ兜さん」


 ブレイキングタイガーとしての虎姫の快進撃は止まることを知らず、ネオエッジガイストもタキプレウスガイストも優位に立てない。

 その強さに禍津や雲脚が戦慄している中、久慈川はまだまだ余裕だし、キュイジーネは不敵に笑っており、ジェルヴェゼルに至っては彼女を試そうとさえしている。


「お前らの手は借りん! カッシィース」


 激痛に抗い、タキプレウスは虎姫を押し除けてでも生身のアデリーンたち3人を倒そうとするが、虎姫が彼女たちを再度変身させるための時間を稼ごうとする。

 斬撃が飛んだことによりアデリーンと蜜月の胸元から乳房が危うくまろび出そうになり、一瞬気まずい空気になったのは内緒だ。


「ブーステッドタイガークロー・ストライク」


 互いに咳払いしてから、距離を置いた敵に対し虎姫は助走をつけてストレートパンチの要領で光速の一撃を繰り出す。

 剛腕となった腕に力を一点集中して繰り出したゆえ、その破壊力は計り知れない。

 タキプレウスは吹っ飛ばされて、ネオエッジガイストに激突しその勢いで後者は壁をぶち破った。


「ブーステッドタイガークロー・ラピッド」


 今度は2体の敵を巻き込んで、秒間で1億回も打撃と爪の斬撃をぶちかました。

 ホワイトタイガーの腕力と瞬発力を更に昇華させただけのことはあり、このラッシュ攻撃もとてつもない破壊力を持っていた。

 アデリーンたち3人も、ヘリックスの幹部たちも、その戦いぶりに思わず目を奪われてしまう。


「剣持さんは任せろ!」


「ええ!」


 アデリーンたちは場所を変えようとするタキプレウスをそのまま追走。

 虎姫は化学薬品や爆発物が放置された火気厳禁のそのエリアに留まったまま、ネオエッジガイストを倒し、彼の暴走を食い止めんとしていた。


「3対1とはね、お前らは騎士道精神のかけらもない!」


 施設の外の敷地へと躍り出たタキプレウスにアデリーンたちが追いつく。

 彼は自身がこれまで悪の限りを尽くしてきたことは棚に上げ、彼女たちを非難する。


「あなたたちにそんなことを言う資格はないわ。もっと多くの人々を敵に回したのだから」


「あんたいつも言ってるよな? ルール無用こそ俺の騎士道だ……とかさ」


「何が言いたい」


 飄々としたと顔と言い回しをするアデリーンと蜜月だが、どちらも言葉の節々に静かな怒りを秘めていた。

 そして、変身する準備を整えている。


「自分が踏みにじってきた人々の痛みと辛さを知れ! ……ってことですよ!!」


 統括して、雄叫びを上げたのはロザリアだ。

 実験のために利用されてきた彼女が後押しをしたこともあり、タキプレウスガイストは苛立ちで顔を歪める。


「ほざくな。踏みにじられたのは、俺のほうだ。醜い嫉妬に駆られた年寄りどもに、俺の努力の結晶を奪われたのだッ! ――だから、それ以上の苦痛を愚民どもに与えてやっているのよ。わからん奴らだな」


 彼は、己がかつて学会にいた頃のことを語る。

 語らねばなるまいと言わんばかりに。

 仰々しい口調だったが、アデリーンたちは惑わされるどころか呆れた顔をしていて――。


「ッうぐぅゥ」


 ため息をついたロザリアが弓を引き絞り放った超高温のエネルギーアローが、タキプレウスガイストが【キングクラブテール】と呼ぶ魔剣を溶かしてしまった。

 溶け切る前に斬撃エネルギーを飛ばすも、アデリーンはそれを氷の壁を作って防ぎ、その間に変身を済ませたのだ。


「出ましたね、自分だけが辛いと思ってる人の発想が!」


 ……その手には乗らないわよ」


「キングクラブテールをよくも! 賢しい奴らめ……! アーチェリーなら俺も自信があるんだよ!」


 怒り狂う兜円次/タキプレウスガイストは無骨で禍々しい弓を構えた。

 カブトガニの一種の学名から引用した、その名も【リムルスボウ】である。

 何本か矢を射るが、アデリーンたちはいずれギリギリまで引きつけて回避し、あるいは弾き返して爆発させた。


「思い知れ! スティンガーアナイアレート!」


「プロミネンスアローッ」


「ノーザンストライク!!」


 一気にケリをつけるため、3人ともそれぞれ必殺技を繰り出してタキプレウスを撃破する。

 大爆発とともに地に這いつくばった彼は、満身創痍で青い血を流しながらまたも施設内へ逃走したのだった。


「か……兜がまたやられたのか!? しかぁし、ネオエッジガイストがいる限り僕らに敗北はありえない!」


 敗れた彼を追って3人のヒーローもまた戻ってきたのを見て、雲脚はマヌケに引き攣った顔をしたがすぐに粋がってごまかす。

 だが、精神的動揺が隠しきれていないことはほかの幹部たちには筒抜けだ。


「じゃ……ジャキ……イイイン」


「もう、やめるんだッ」


 彼と彼女も、ぶつかり合いの末に決着を着けんとしていた。

 両腕の爪から高出力の緑色のビームクローが上乗せされる形で展開され、ネオエッジガイストの両腕から生えた大剣を破壊する。


「分からず屋! 受けてみろ、磨きに磨いた……バイフーインパクト!」


「ジャキイイィーン!?」


 光速のラッシュ攻撃と一撃必殺の大打撃を織り交ぜた奥義を繰り出し、ネオエッジガイストを壁に叩きつけて粉砕!

 爆発四散して、残骸が散らばる中に剣持桐郎が倒れ込んだ。

 無理矢理な強化改造を施されたこともあり、もうボロボロだ。


「ッ! ふふふ……やるじゃない。箱入り娘ではないことがわかって、ホッとしたわ」


 戦いが終わりを告げた後、ほんの一瞬だけ瞳孔を閉じたのも束の間、ジェルヴェゼルは妖しく笑ってそう告げる。

 キュイジーネも、剣持が正気に戻ったのを見て逆に面白がっていたのだ。

 2人そろって、雲のようにつかみどころがない。


「テイラーの娘! お前がどれほどのものか手合わせしてみたかったが、ここは退かせてもらうとするよ。兜! 君も帰ってこい!」


 戦々恐々とするか、あるいは「楽しみが増えた」と思っていそうな幹部たちは引き際をわきまえて去って行く。

 名指しされた彼もそれに合わせて撤収した。


「やったわね、ヒメちゃん。……モチキリくん!」


 うなだれて嗚咽までしている剣持に駆け寄り、変身を解除したアデリーンがネクサスフレームの力を引き出して彼の傷を癒す。

 憑き物が落ちたような顔に……なるには、まだ遠く、アデリーンは狂って以降の彼がやってしまったことを振り返って心を痛めた。


「まだ脈はある。救急車だ」


 蜜月がそう判断する。

 4人で彼を介抱すると、虎姫は病院へ緊急連絡を入れた。

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