S2-FILE027(FILE228):独走!
剣持がネオエッジガイストへと変貌してしまう少し前……。
「敵の警備がザルで助かりました。リュウヘイさんもアオイさんも、ここまで来ればもう大丈夫……って、タマキさん!?」
テイラーグループの社長・虎姫の秘書の環が、丘の上の地区まで車に乗って駆け付けたのだ。
彼女は運転席の窓を開いて、話に応じる。
「説明は後ほど、お二方は早く乗ってください!」
「ありがとう……ございます」
「また後でね。必ず帰ってきて!」
彼女に2人を保護してもらい、見送った直後のことだ。
ロザリアもまた、ネオエッジガイストのおぞましき気配を感知して身の毛がよだったのである。
「っ!? ものすごいネガティブな力を感じる、モチキリさんに何かあったのね……」
姉たちの助けとなるべく、ロザリアはただちに炎の翼で飛び立った。
◆
そして今。
「おれは! この力で! バカにしたヤツらを! おれを裏切ったヤツらを! 見返して! ズタズタにして――――全部刻んでから、おれも死ぬ!!」
両腕に備え付けられた大剣を擦り合わせて火花を散らし、素顔もむき出しのままネオエッジガイストは宣言する。
悪意ある者たちに利用され、憎しみに染められた者の成れの果てだ。
「バカ言ってんじゃないよ。死ぬな! ワタシと一緒に罪を償うんだ!」
「蜂須賀ぁ……スクープ欲しさにハイエナみてーに嗅ぎまわりやがって、お前に何がわかる!!」
彼の攻撃はより激しくなり、壁や柱へつけられた傷は更に深く、かすっただけで2人のヒーローは洒落にならないほどのダメージを受けてしまう。
鋼鉄製のドラム缶も少し斬られただけで大爆発を起こし、天井も一部崩落した。
「あんたにこれ以上過ちを犯してほしくないんだよ! ヘリックスなんかの手先になって何人も殺して、挙句何もかもぶっ壊そうとして、剣持さんはそれでいいの!?」
「うう、グギギギギギギ……惑わすなァ! 地走激震斬!!」
暴走が止まらないネオエッジガイストは、地響きを起こすほどの力で地面を叩きつけてアデリーンたちに大ダメージを与える。
施設全体が揺れたため、幹部たちのうち何名かはバランスを崩して転倒。
良からぬことをしでかそうとした不届き者には、その場で制裁が下された。
「射撃もこの通り、接近戦は相手のほうが有利。冷熱だとか毒だとか、あと電気、その辺は効くと思うのだけれど……」
ビーム系と実弾を織り交ぜた遠距離攻撃も、パワーアップに際して敵のボディ表面に特殊な加工が施されたか弾き返されてしまう。
反射された弾丸の一部は幹部たちのいる上層にも届き、先程の天井落下と合わせて彼らに危機意識を持たせるには十分すぎた。
もう少し早くに自覚するべきだったが……。
「乱打百烈剣! ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキイイイィィィ~~~~~~~ンッ」
激しく武器を振り回しての連続斬り。
それはもはや半分ふざけているようにしか見えないが、しかし、アデリーンたちを圧倒し、変身を解除させるまで追い詰めたのは事実だ。
それだけ、エッジのスフィアの改造に携わった兜円次の技術力が優れていた証拠なのだ。
「こ、これはいけるぞ。ネオエッジガイストとなった剣持桐郎は無敵だ、ぜひ新たな幹部メンバーとして……」
そこに外側から窓ガラスを破って、ロザリアが駆けつけた。
姉と友人が再度変身するための時間稼ぎくらいは、彼女はやってのけるつもりだ。
はじめてエターナルカイゼリンへと変身したあの日姉たちに救ってもらった恩を、彼女なりの方法で返したいのだろう。
「No.13めッ! いい時に限ってお前のような子どもが首を挟みにくる!」
炎の矢が兜の頬をかすり、彼は冷や汗をかき周囲も警戒心を強める。
だが、ジェルヴェゼルとキュイジーネだけは不敵に笑っていた。
「アデリーンッ!? あんたもどうせおれを見捨てるんだ! そうだろ……!? 絶対に……絶ッ~~~~~~~~~~~~~~~~対にそうだ!!」
そんなものは決めつけだ。
ロザリアに怒り狂う兜のことは無視して、アデリーンは再三の説得を試みる。
「…………被害妄想もいい加減にしてよね。私、あなたにそんなこと言われたくて、お友達になったんじゃないのよ」
「ウソだ。あとで手のひら返すためのでまかせだ」
「今のあなたはマテリアルスフィアの毒素で精神を蝕まれて、マイナスの感情が増幅してしまっているの」
「前の剣持さんなら絶対やんないことを平気でやるようになっちまったのは、そのせいだ」
「これ以上はあなたの体がもちません……。だから、すぐにスフィアを廃棄してほしいの。あたしたちからのお願いです! どうか……」
3人が指摘したことは事実であり、暴走状態に陥っていたはずの剣持の心にも届いたようで――彼も気付かぬ間に自身の目から一筋の涙がこぼれ落ちていた。
つまり、それは――。
「自分らが気に入らねーからおれにそんなことばっか言って、ううッ!?」
幾度となく彼の頭が痛むのは、良心がまだ残っている証拠なのだ。
それを快く思わないのが、彼を怪物に変えた側の人間である兜円次だ。
「貴様ら、余計なことばかり吹き込みおって! もう許せん……」
《タキプレウス!》
ワインレッドに染まったメタリックな体に変わった、彼の顔で光るのは3つの目。
異形の騎士と化した彼は、その魔剣とも称すべき禍々しい形状の剣を振りかざさんとしていた。
「メンタル弱者め、そこをどけッ!!」
カブトガニの甲羅を模した盾で敵の攻撃はすべて遮断して、頑丈な装甲はネオエッジガイストの鋭いボディも物ともしない。
半ば見切りをつけたような言葉を投げかけた彼は、アデリーンと蜜月に再度変身させる時間をも与えまいとケリをつけようとした。
「十文字残酷剣……」
タキプレウスが奥義を繰り出す寸前、アデリーンは氷の防壁を作ってその場は耐える!
十字の軌跡を描いて放たれたその衝撃波の破壊力たるやすさまじいものがあり、アデリーンたちを施設内部の奥へと大きく吹っ飛ばした。
「化学薬品に爆発物がいっぱいだわ。うっかり引火でもしたら」
「あたしたち一巻の終わり……ってコトォ!?」
苛立ちを隠そうとせぬ唸り声をあげて、タキプレウスガイストたちが追いつく。
ロザリアはまだ変身したままだが、アデリーンは自前の再生能力があるとはいえ逆転狙いでネクサスフレームを使用せざるを得ない。
だが、一番危険なのは蜜月であり、数々の修羅場を潜り抜けてきた彼女といえども今回ばかりは打つ手なしかと思われた。
「チッ、貴様らのしぶとさにはうんざりだ。早いとこ逝け……!?」
その時だった!
施設の外壁を豪快にぶち破り、シルバーホワイトに輝く大型バイクが乱入してきたのである。
乗っていたのは、フルフェイスのヘルメットを被ったライダースーツの女だ。
しかもタキプレウスとネオエッジガイストを、突き飛ばしていった!
「ウギギ……だ、誰だこれーッ!? こいつ誰だこれ――――ッ!?」
そうとしか言いようがない。
タキプレウスガイストが取り乱したのを聴いてただ事ではないと判断したほかの幹部メンバーたちも駆けつけたが、声は荒げずとも感想は彼と同じだ。
察しのいいものは、そのライダーの正体に気付いてしまい、「なぜこんなところに!」と不快感を覚えずにはいられない。
「間に合ったねえ。待ってたんだぞ、この時を!」
その知性と気品の漂う凜とした声に、アデリーンたちは当然聴き覚えがあった。
ヘルメットの下の素顔は、銀髪でアイスブルーの瞳を持った女性だ。
「貴様は……」
「ジャキン!? あんたまさか……!?」
「ちょっと、危ないわよヒメちゃん」
そう、虎姫・
既に片腕には、専用の変身デバイスまで取り付けている!
「ご心配どうも! けどね、言っただろ。何が起こっても、君たちは何も心配することはない。……ヘリックス! 今日からわたしが、お前たちの最強の敵だッ」
芝居がかった大胆不敵な口調でタキプレウスたちを煽っていく虎姫は、もちろんネオエッジガイストが剣持桐郎であることも見抜いている。
彼を救うべくここまできたのだ。
「【独走】!」
「なんの光ぃぃぃぃ!?」
シルバーホワイトとブルーシルバーの輝きが辺り一面を包み込む!
あまりのまばゆさに悪しき者どもはたじろぎ、アデリーンたちはその輝きの中に一縷の希望を見出した。
「閃烈のニューフェイス! ブレイキングタイガーだ!!」
ホワイトタイガーを模した、銀と黒を基調とするメタル・コンバットスーツを装着した女戦士の両手には手の甲を覆うほど長く大きなカギ爪が備わっている。
赤く光るカメラアイは、目の前で慄いている邪悪の化身の姿をはっきりと捉えて見逃さない。
その邪悪を打ち砕くために生まれてきたのだ。
「ブレイキングタイガー……だと……!?」
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