S2-FILE022(FILE223):刃物人間はすべてが憎い
クラリティアナ邸のバスルームはとても広い。
ホテルの大浴場にも勝るとも劣らない――とは、誇張表現だが、それでもスペースが多めにとられている。
贅沢にも、彼女はそこで熱湯と冷水のシャワーを交互に浴びて身を洗い流している。
長いブロンドの髪も透き通るような肌もしっとりと濡れており、なんとなくセンシティブな雰囲気を醸し出していた。
鼻歌まで歌う彼女がもう少しだけ浴びていこうと思った時だった、超感覚がディスガイストの反応をキャッチしたのは。
「ね、姉さん! 事件です! 練馬区内でディスガイスト発生しました!!」
「それホント!? ちょっと待っててね」
エリスも知らせに来てくれたので、適度に拭いてあとは自然乾燥に任せることに決めたアデリーンは着替えを済ませてリビングへ移動する。
そこには、彼女がいつ出動してもいいようにアロンソたちが待機してくれてもいたのだ。
「あたしも同行します!」
「わかったわ。今すぐ出ます」
下着の上にワンピースやジーンズのみと軽装だったが、上着もちゃんと着て現場に向かうことにする。今は時間が1秒でも惜しい。
「くれぐれも気をつけてね……」
心配してくれているマーサとアロンソ、ひとつ下の妹エリスにウインクを返してから、アデリーンは末っ子のロザリアを連れて自宅を発った。
◆
アデリーンが向かっている間にも、都内・練馬区のSB771地点に出現したエッジガイストは暴れており、人々を見境なく襲っては殺傷。
女性に対しては――――衣服のみ刻んで裸同然で放置するという嫌がらせを行い、悦に浸っていた。
「ジャキン! ジャキン……ジャキィーン!! 脱げっ! 死にさらせーッ!」
今もこうして、またひとりギャルが脱衣を強制させられてしまう。
日焼けした肌は艶っぽい雰囲気を際立たせているが、エッジガイストが下卑た笑いを浮かべたのは――下着がその肌に映える、刺繍の入った金色だったからだ。
「へ……ヘンタイッ」
「デュゥフフフ。ナマ言ってるとぶっ殺すぞ、ヒヒヒ……」
銃声が響いた時には、エッジガイストは転倒。
ギャルの前には、金髪に青い瞳のアデリーンと、プラチナブロンドの髪をなびかせる赤い瞳のロザリアが立つ。
「やめなさい!!」
「あぁ~~~~~~~~~ン!?」
アデリーンは自身がかばったギャルにこの場から逃げるよう、「逃げてください」と後ろに視線をやってつぶやく。
彼女が逃げたのを確認して、再び敵のほうを向いた。
ロザリアもそれを間近で見て安心する。
「ジャキン……誰だァ、ズタズタに切り裂いてぇ、ウゥッ!?」
(この感覚、スキャンの内容と照らし合わせたら……。まさか)
エッジガイストはその時、アデリーンの前で様子がおかしくなった。
アデリーンはというと、妹とともに変身して解析を行なった直後に彼の正体に感付き、仮面の下で衝撃を受けた。
「姉様、この人って……!?」
「そうなの。私がお友達になったばかりの人、のはずよ……」
「お前、あんたぁ、いったい何者……ノオオォッ」
「惑わされるな! やれエッジガイスト!」
全身から火花が噴き出すほどに苦しむエッジガイストを見かねて、高台のほうで見物していた白いジャケットの男が歪んだ顔で叫ぶ。
その隣にいる、茶色のロングヘアーの女はそんな彼に呆れていた。
「へへ、そうだよな。おれを混乱させよーと、おかしなことばかり言いやがって……ジャキィィーン!!」
モノアイを光らせ、エッジは片腕と一体化した大剣を全身ごと縦に回転しながら振り回し体当たりする。
アデリーンはそれをかわしてビーム銃を撃ち込み、ロザリアは炎の翼で飛んで空中から炎の矢を放つ!
超低音と超高温を同時に喰らい、怒り狂うエッジガイストは地団駄を踏んで次の攻撃に移った。
「裂刀衝撃斬!」
エッジガイストが円形の衝撃波をいくつも飛ばす。
アデリーンは回避するもかすってしまい、ロザリアもギリギリ直撃しかけて危ないところだった。
「裂刀斬撃波!!」
今度は地面に片腕の大剣を叩きつけ、地を走る衝撃波を放った。
アデリーンもロザリアも直撃してしまい、宙に打ち上げられたところをジャンプしてきたエッジガイストに追撃されてしまう。
「今すぐスフィアを捨てて、変身を解いて! そんなお手手じゃ握手もできない!」
「そうよ、お箸だって持てないわ!」
アデリーンとロザリアから心配されたように、彼の片手はマニピュレーターとかではなく、今やナイフやメスなどの集合体のような、触れる者を傷つけてしまう構成となっている。
元に戻らない限りは、不便としか言いようがない。
「お前らにはぁ、全然関係ねーだろッ! ぶった斬ってやるゥー!!」
著しい興奮状態に陥ったゆえ、怒りがおさまらないエッジガイストは一心不乱に大剣を振り回し、時にはモノアイからもビームを放射して自分以外のすべてを襲う。
広場の壁も、石柱も、ゴミ箱も、ベンチも、あらゆるものがズタズタに切り裂かれた。
クラリティアナ姉妹のメタル・コンバットスーツも、あまりの鋭い切れ味に火花をあげる。
「全部ズタズタにしてやるゥ~! ぶっ壊す、そうだぁ。何もかも徹底的に切り刻んで、ぶっ壊してぇ……キヒヒ、ウァーッ!!」
「そこまでッ!!」
その時、メタリックゴールドに光るパワードスーツをまとったゴールドハネムーンが馳せ参じた。
大剣を振り回す相手に対抗するべく、スレイヤーブレードで鍔迫り合いに持ち込む。
「どけぇ!!」
「どかない。剣持さんなんだろ!? ボイチェンしたってわかっちゃうよ、声を出すときのクセとかで!」
アデリーンには既に正体はバレていたが、蜜月から改めて指摘されて、敵が動揺しだす。
その手も震えはじめた。
「け、剣持? 誰それ?
それが虚勢と咄嗟に出たウソであることは、彼を知るアデリーンと蜜月にも、彼をまだよく知らないロザリアにもわかった。
「人違いなんじゃないの~? ふふふ……」
高台の手すりで頬杖を突きながら、微笑むキュイジーネが煽る。
蜜月が鍔迫り合いに打ち勝ったのを見た彼女は、少し機嫌を悪くしたかと思えば、目が笑っていない笑顔のまま戦いを見つめる――。
「裂刀衝撃斬ッ!!」
隙を突かれて射撃と斬撃の集中攻撃を受けたエッジガイストは、またもや円形の衝撃波をいくつも飛ばす。
「やっぱり、今の剣持さんに接近戦挑むのは危険すぎる!」
蜜月からの進言通り、全員、射撃用の武装に持ち替えて、遠距離に特化した戦法で挑むことに決めた。
いくつかは剣を振られて弾き返されたものの、一瞬生じた隙や関節部を狙撃したことで大ダメージを受けて、三度彼はいきり立つ。
「ジャキィ~~ン!!」
なんと、全身から鋭い刃が触手のように伸びて、うねって、辺り一面を無差別に攻撃し始めたのだ。
「今度はオールレンジ攻撃ってかあ!?」
しばらく、文字通り手が出せない状態が続くも、敵も疲れてきたのかだんだんと動きが鈍りだす。
「射抜く!!」
勝機だ。
姉たちのために突破口を開けるように、ロザリアが超高温エネルギーで作り出した炎の矢を放つ。
「シューティングエンド!!」
「デストロイドバレッジ……」
片や極太のアイスビーム、片やビームと実弾の乱れ撃ち。
互いの必殺ショットを見舞って、彼女たちはとうとうエッジガイストを撃破する。
「ジャキィィィ――――――――――ン!?」
断末魔の叫びとともに大爆発して、爆風と炎がおさまった時に晒された敵の正体は、彼女たちが思った通り――社会復帰を目指す若者・
「ほんとにモチキリくんだったのね……」
「エッ? ああ……やっぱり剣持さんだ」
彼であることを確認して安堵するも、スフィアがまだ砕け散っておらず、敵の幹部も高見の見物を決めていたことだし、アデリーンたちは油断せずに警戒心を強める。
「ブラボー、ブラボー……。さすがはクラリティアナとその仲間たちだと褒めてやりたいところだ」
そこに、アウターを肩掛けしたサングラスの男が現れてエッジのマテリアルスフィアを回収してしまった。
「だがここまでだ。このスフィアは返してもらいますよ」
「久慈川ぁ! テメーッ」
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