S2-FILE021(FILE222):データベース更新確認
帰宅したアデリーンは、カファルジドマやアミューズメント施設で買ってきたものをシェアして家族とまったり過ごしつつも、ノートPCを立ち上げてメッセージを確認。
その後、急に通信を入れてきたカイル・コーデュロイに対応すべくテレビ電話システムを起動した。
家族同伴でだ、これには通信先のカイルもやや緊張してしまうというもの。
『やりにくいんですがぁ……』
「我慢して! うちの父と母ともしばらく会ってないでしょ」
『うぉっほん!! ……例のデータベース更新用プログラムを送っておいた。テイラーさんにも同様のものを送信していたが……受け取っていただけたかな?』
それなら既にアデリーンは開封済みで、ダウンロードも終えていた。
業務連絡的なノリで済ませるはずだったが、彼女の後ろから父・アロンソと母・マーサがそれぞれにらんだり、やんわりと圧を利かせたことでカイルの表情が目も当てられぬことになってしまう。
「ええ。今適用してたわ」
『こ……今回は、シム博士やブローリア博士に加えて、チョウ・パイタン博士やマッキンレー教授にもご支援をしていただけた。そしてこれは、我々が命懸けで入手した最新のデータでもある。どうか、存分にお役に立ててほしい』
「白い湯と書いてパイタン、チョウの趙は超とも、ふふふ……」
「そ、それ以上いかんぞアデリーン!?」
「姉様きっと疲れてるんだわ! どうしましょう……」
「こんなお下品なこと言っちゃうなんて、よっぽどの事がないと!?」
「あんまり失礼なこと言っちゃあダメでしょ!」
「なんてね、ふふふふ♪」
センシティブな話題も挟み、珍しくぎこちないカイルを前に画面の前でニヤついたアデリーンは、次に気になったことをあえて訊ねた。
しかし彼女はそんなある意味罰当たりなことを考えながらも、女性科学者で母親や姉、または親戚の叔母のように接してくれたブローニャやパイタンには感謝しており、またゆっくりともに過ごす機会が欲しいとも思っていたのだ。
『ま、まったくあなたって人は……』
「やっぱり、シム博士には直接! ……お会いしてないの?」
『お互いまだ気まずくてね……。オレとしては、もうその件は水に流しましょうとは、以前に声をかけてはいた。彼としてはそうはいかないらしくてね、大変なんだ』
「……まあ、大丈夫なんじゃない? きっと時間が解決してくれるわ。それと、良ければレイネに会いに行ってあげてね」
『はい。……オレも、紫香楽宮さんと玲音お嬢さんとはゆっくり話をしてみたいと思っていたのだ。それでは……お互いに無事を祈る』
「どうか、お元気で。コーディー君」
カイルとの通話の締めを飾ったのは、アデリーンの母マーサであった。
笑顔で手を振ると画面の向こうでカイルもそれに応えて、この場は全員笑っていったんの別れとなった。
「これが、こう言ってはなんだけど一般流通しているモデル。これがヘリックスシティに駐在している幹部メンバーので、これが敵の支部長たちの使っている上級モデルで……」
それからのことだ。
アデリーンが閲覧と確認作業をしている敵のデータの中には、横に対して異様に大きいオオガニの怪人や、死神のように禍々しく金で縁取られた青黒いワタリガラスの怪人。
それ以外にも、偶蹄類に属する動物をモチーフとしながら魔界の悪魔を連想させるおぞましい姿の怪人、マサカリを手にした赤銅色のクマの怪人……などなど、多種多様な異形の者たちも載っていた。
今後こういった者たちとも、戦う必要が出てくるのである。
「しかしここまでガッツリと、深いところまでデータの回収をやってくれてたのかい。コーデュロイさんたちは」
「ええ。父さんたちも、一応見といたほうがいいんじゃない」
手元に食べるつもりのチョコレートファッションのドーナツを置きつつ、コーヒーを差し入れしてくれたアロンソに礼を言って、そのまま閲覧を続けるアデリーン。
そんな姉にエリスとロザリアが少し思案してから、彼女に気を回す。
「姉さん、よかったらシャワー浴びてきても……」
「まあッ。それじゃ、お言葉に甘えて」
家族間で敵に関する情報は共有したほうがいいし、休憩にしようと思った彼女は歌でも歌いたい気分でバスルームに向かう。
まずは、愛する家族にサムズアップを送ってからだ。
◆
アデリーンが束の間の休息をとっている間にも、ヘリックスはまたも惨劇を引き起こさんとしていた。
おとずれ荘で暮らしていた剣持青年を襲い、彼を外につまみ出すとジリジリと追い詰め出したのだ。
「うあああ!? い、嫌だ嫌だ嫌だ! こっち来んな! 来ないでッ!」
「お前を社会不適合者にしてしまった、このイカれた世界に復讐してみたくないか? メチャクチャに荒らして、壊してから環境を正してやりたいと思わないのか?」
「これから、やっと復帰してやり直そうって……! そう思ってたところなんだ! 絶対嫌だ!! あ……あんたたちの言う通りになんて」
兜に襟首をつかまれ、投げつけられ電灯にぶつけられた剣持にキュイジーネが近寄る。
剣持はひどくおびえていたが、厳しく当たられた後に急に表向きは優しく接されたら、誰しも怖くて当たり前だ。
「でも世の中理不尽だらけでしょう? あなたが新しい職場に入れたところで、上手くやっていけるとは限らない」
「そんなはず、そんなはずないだろ! うう」
虎姫たちとのことを思い出し、湧いてくる嫌な思い出は振り切ろうとしたが、そんな彼に兜が再び襲いかかる。
「やれやれだわ」、と、キュイジーネはその場を譲ってやった。
「くどい! これ以上抵抗しても無駄だぞ!」
《エッジ!》
兜円次は、刃物の紋章が記された銀色のスフィアを起動して剣持の体に埋め込む!
強引に取り込まされたために剣持は苦しみ出し、せっかくの楽しく前向きな思い出も辛かった頃のトラウマに塗り潰されてしまう。
「うぁぁぁああああッ」
会ったばかりだが、これから仲良くなれそうなアデリーンとも巡り会えたのに……。
彼の中で、彼女という光が遠のいていくような気がした。
裏切り、猜疑心、それらを引っくるめた被害妄想、自身が置かれた現状を曲解したことにより生じた、歪んだ感情が黒雲のように彼の内面を支配していく。
「ジャキン! ジャキーンッ!」
頭部からはツノ代わりに片刃の大剣、両手指はナイフや手術用のメス、片腕はこれまた大剣、腹部から腰部にかけてはオレンジ色に発光するコアらしき球体、両足の爪先は曲がりくねったサーベルのごとく。
気がついた時、彼は……モノアイを黄色く光らせた、全身刃物のディスガイストへと変わってしまっていた。
「まあまあねぇ。でも、よく似合っていてよ」
皮肉な笑みを浮かべてそう述べたのは、豊満すぎるバストを腕を組んで支えるキュイジーネだ。
その隣に立つ兜円次も、ご満悦だ。
なぜなら、この非道な実験がまずは彼らにとって、想定した以上の効果をあげたからに他ならない。
「ウーッ! アァーッ! 全てがおれの敵だ! 切らせろ! キらせろ、KILLERせろーッ!!」
抑えきれなくなった世の中への怒りに由来する、破壊と殺戮の衝動が、【エッジガイスト】と化した剣持を完全に支配していた。
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