S2-FILE017(FILE218):支店長の悩みごと


 なぜ、今暴れている有馬はアルマジロガイストになってしまったのか?

 時は今より1週間前まで遡る……。


「お買い上げ、ありがとうございまーす。またのご来店、お待ちしておりまーす」


 それは閉店時間前、支店長の有馬以外が退勤する直前だった。

 接客を終えた後、広い店舗で働く従業員たちの中で有馬以外でそれまで残っていたのが、卜部、八巻、錦城、上堀の4名だ。


「お疲れさん! 卜部! 八巻! 錦城! 上堀! あんたらな、声にやる気があるのかないのか、どっちなんだい」


 関係者以外立ち入り禁止の事務室で、退勤前の反省会をやっていたところだ。

 それなりに広く必要なものが置かれたスペースのうち、店長のデスクの前に若手の男女と、ベテランの男女が1列に並んでいた。


「えー、でも店長、そんなこと僕らに言われましても」


 このちゃらんぽらんな雰囲気の男性が卜部だ。

 散々、叱責や激励を受けてはきた彼だが、少なくともこの日に限っては怒られるようなことはしておらず、むしろ客から高い評価と感謝を受けて困惑していたほど。


「ねー。別にお客様から「こいつの態度が気に食わねー!」とかのクレーム、いただいてませんし……。今のままでもぉ、大丈夫かなって」


 そんな卜部とは対照的に、しっかりした雰囲気の女性が八巻である。仕事終わりということもあり、結んでいた髪をほどいて下ろしていた。

 表情もリラックスしつつ、突然の店長からの言葉に戸惑いを感じたものとなっている。


「大丈夫じゃないって言ってんでしょ! 次から気をつけな。いや、今から正しなさい」


 良くも悪くも、「」を地で行くのが支店長の有馬という男なのだが、この中の4人とも彼をたまに煙たがりつつも尊敬していた。


「自分も歳ですしねぇ……。どこまで無茶できるか」


「錦城は腰を痛めるまで仕事しないの! 上堀、あんたの分も代わりに誰かやってくれるからさあ!」


 体を痛めている彼らを心配している旨を明かして他の店員を帰らせた後、1人だけ残った有馬は今日の分の業務日誌を書き始めた。

 愚痴混じりでだ――。


「ちッ! はぁ~~~~~~…………。近頃の若いモンは、礼儀ってのがなってない。チャラチャラしすぎなんだ。オレ以外のジジババ連中もだ。うちのやつらには誠意も足らん! お客様からクレームが来たら、全部オレの責任になっちゃうんだぞ……」


 もちろん若手も年配もベテランも、決してその限りではないことは彼も承知していた。

 「周りが頼りにならないから自分がしっかりせねばならない」と、どうにも信用しきれにいたのである――。

 書き終えて、いよいよ帰ろうとしたその時だ。

 勝手にドアを開けて何者かが入って来たのだ。

 その何者かは額に第3の眼がついた赤系を基調とする機械の体を持ち、西洋甲冑とカブトガニを掛け合わせたような姿をしていた。


「おや、たいそうお怒りのようで?」


 いつ、どうやって、なぜここに入ってきたのだ!?

 ……有馬は激しく動揺し、腰を抜かしてしまい立てなくなった。


「あんたの鬱憤を晴らすのにちょうどいいものがあるんだが。興味はおありかな」


「だ、誰だあんたいったい!? 得体の知れないモンなら……」


 3つの目を持つ赤い鎧の怪人は、尻もちをついた有馬に目線の高さを合わせて茶褐色のカプセルを見せつける。

 無機質で端正な顔の怪人だったが、歪んだ笑みを浮かべて何か誘いを持ちかけた。


「オレンジキャップ支店長の、有馬志津夫しづおだな? 意見は求めん。バケモノになって暴れてしまえ!」


 赤色の怪人は有無を言わさず、茶褐色のカプセルらしきものをねじって有馬の体へと強引に取り込ませた!

 こうして有馬志津夫は、重装甲を誇るアルマジロガイストへと変わり、カプセルことジーンスフィアに含まれた悪意や憎悪などのネガティブな感情を増幅させる毒素によって――精神を汚染されてしまったのである。



 ◆



 そして現在。

 そんな恐ろしい怪人にされてしまった有馬も、ようやくディスガイスト怪人という呪いから解き放たれようとしていた。

 倒されてしまえば浄化され、もう凶悪化して暴れまわることも一切なくなる。


「スティンガーXエクスティンクション!」


「ゴロンゴロおおおおおおおお」


 金色のボディにラメが散りばめられた濃紺などを交えた強化形態・ミッドナイトシェードへと変わったゴールドハネムーンこと蜜月は、大鎌モードへと変形させたWワスピネートスピアーで必殺奥義を繰り出して、アルマジロガイストの頑丈すぎるボディをやすやすと切り裂く。

 前もってロザリアが激しく燃え盛る火の玉で炎上させ、アデリーンが冷凍エネルギーをまとうムチで拘束して急速冷凍したおかげで防御能力がゼロになり、それでアルマジロガイストを討伐することに成功したのである。


「そんなバナ……んっん~ッ! ゴホッ、ゲホッ! そんなバカな!」


 アルマジロの遺伝子を宿したスフィアは砕け散り、有馬は傷付きながらも元の姿に戻りされる。

 右腕で大鎌をかつぐと、蜜月はほかの2人の仲間とともにタキプレウスガイストこと兜円次のほうを向いて、大鎌の切っ先を突きつけた。


「次はお前だ。カブトガニ」


「生きた化石をなめるなよ。それから実は、


「カブトガニはカブトガニでいいんじゃなくって?」


 総裁ギルモアから預かった東京クリーン作戦を台無しにされ、追い詰められた彼が得意げに披露したのはちょっとしたムダ知識、否、豆知識なのだがそのことはアデリーンたちは既に知っていた。

 そして、兜円次流の強がりでもあった。


「やっちゃえミヅキさん! あたしも手伝います、こんなヤツ倒しちゃえ!」


 余裕を失くしたこともあり、タキプレウスはだんだんと追い込まれている。

 蜜月が繰り出した激しいラッシュには対応しきれず、弱点の眼を狙ったロザリアの炎の矢ももう凌ぐ術がない。

 まぶた代わりのバイザーを閉じたところで、超高温や超低温の前では無意味だ。

 蜜月が近接攻撃を、アデリーンとロザリアが氷や炎を使った援護射撃を行なうという連係プレーに圧倒された末、額の眼や防御の薄い部分を執拗に狙われたことでタキプレウスは激怒し、咆哮を上げた!


「も、もう許さんからなあああああああぁぁ…………死ねぇえええい!!」


「煌めけ! アークティックブレード!」


「爆ぜろ! プロミネンスシュート!」


「消し飛べ、スティンガーXティンクション!!」


 渾身の一撃を繰り出すも反撃で剣と盾を弾き飛ばされ、タキプレウスはその衝撃から後ずさって膝をつく。

 次の瞬間、タキプレウスめがけて超低温の残撃エネルギーと、超高温の炎の矢、そしてXの軌道を描いた大鎌のひと振りが一斉に放たれ命中。

 彼は大爆発を起こし、ひどく傷ついて青い血を流しながら兜円次の姿へと戻った。


「な、No.ゼ――ロ――……姉妹そろって楯突きおってエエェ!!」


 片目の周りに青アザまでできるほどボロボロになった体で変身を解除したアデリーンへと掴みかかるも、目をひそめた彼女に激しく拒否されビンタで突っぱねられた兜。

 蜜月やロザリアからの視点も冷たく突き刺さる。


「汚い大人と汚い街を一掃するですって? 勝手にそう決めつけてるあなたが、


「グギギギッ! 覚えてろ……っ!!」


 静かな怒りを秘めた目でアデリーンが放つ、一言一句が正論だった――!

 屈辱のままに兜はテレポートで撤退し、彼女たちもまた有馬を連れてそこを後にしたのだ。

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