S2-FILE016(FILE217):メガロポリスを炎にそめて

 楽しいボウリング対決を終えたアデリーンたちはしばらく遊んだ後、解散。

 ある者は家族そろっての団らんを、またある者は自宅で雑誌に載せたい記事の編集を、またまたある者は演劇サークルの台本のチェックを、またまたまたある者は早めのテスト勉強を――それぞれがやるべきことをやった。



 そして、2日後――とあるビルの屋上にて。


「俺から言わなくともわかっているな? お前が当作戦の要だ。やれ……」


 赤いロングヘアーに白いコート姿の伊達男・兜円次が両脇にラバースーツ姿の女性秘書と、素顔を隠した男性を伴って指示を下している。

 男性のほうは、これから――東京クリーン作戦を再開しようとしていたのだ。


 《アルマジロッ!》


 茶褐色でアルマジロの紋章が刻まれたカプセルをひねり、不気味な電子音声が鳴ると同時に彼はアルマジロガイストへと変身した。

 同動物をモチーフとし、その全身は分厚い装甲で守られている。


「わたしもお力添えします」


「海老名君!! 俺自らが行く。君にまで手を汚させるわけにはいくまい、海老名君くらいは組織の綺麗どころでいてほしいからな……」


 名前を呼ばれた海老名は、彼の言う通りに従い一礼してから後方に退く。

 髪型は緑のメッシュ入りの金髪であり、凛とした佇まいからは美しさと気品が漂っていた。

 そこに三者三様の威嚇射撃を行いながら、既にスーツを装着済みのヒーローたちが到着する!


「させないわよ!!」


 3人ともまだメットを被っておらず、アデリーンをセンターに、両隣を蜜月とロザリアが固める。

 メットの有無を問わずこういった光景は、もはや彼女たちの定石だ。

 そんな彼女たちと対峙した兜と海老名は、それぞれカブトガニのジーンスフィアと、カブトエビの紋章が入った白のジーンスフィアを握りしめる。


「あれぇ~~、海老名ちゃんも一緒? 海老名ちゃんの前で街をぶっ壊してぇ、カッコつけようっての? 女の子のエスコートの仕方がなってねえなあ~~~~」


「黙れッ! もう来たのかッ。このせっかち娘ども! これから地ならしの続きをしてやろうというのに!」


 《タキプレウス!》


 生意気に笑う挑発してくる蜜月に茶化され、いきり立った兜は、ワインレッドに染まったジーンスフィアをねじり、赤と緑の邪悪なエネルギーに包まれると全身を震わせ異形の騎士めいた姿へと変身。

 カブトガニと西洋甲冑の要素を組み合わせた、恐るべき上級クラスの怪人だ。


「言語道断!!」


 上司とアルマジロガイストが身構えてるそばで、海老名はなかなか変身する機会を見出せない。

 隙を見せたらやられる、というシビアな状況下に置かれているためだ。

 珍しく武器を持つ前に兜のほうがしかけたが、アデリーンに啖呵を切られて避けられた上に顔面に反撃を食らいのけぞった。


「ならば死ねぇぇぇ~~ッ」


 いきり立つ兜は、その手に魔剣と盾を持って仕返しをする。

 だがそれも巧みに回避したアデリーンたちはメットを装着し、いわばフルアーマーとなり彼らを驚かせた。


「アブソリュートゼロッ」


「ゴールドハネムーン!」


「そしてあたしはエターナルエンプレス」


 名乗りを上げた彼女たちに、アルマジロともどもおされて後ずさった上、気が立っているタキプレウスガイストだったが、それでも秘書の海老名に先に離脱するようジェスチャーで指示を送る。


 《トリオプス……!》


(……まあ、いっか。どうかご無事で)


 彼女は即座にその意図を理解、ジーンスフィアを起動しかけたもののすぐにディスガイストへの変身をキャンセルすると撤退した。

 彼女がなろうとしていた【トリオプスガイスト】の強さと能力がどれほどのものかは、未知数なのである。


「いつもいつも我らの邪魔ばかりしてくれるっ! シリコニアンにエンブリオンども、行けッ!」


 タキプレウス/兜がギザギザの刀身を持つ長剣【キングクラブテール】を前に向け号令を出すと、簡素な姿の戦闘員や、異なる虫同士を掛け合わせて生み出されたキメラのような生体ロボットの軍団が飛び出す!


「グルルルーッ」


「ズモモ!」


 東京クリーン作戦を早く進めたい兜はアルマジロガイストを連れ、アデリーンたちの相手は戦闘員軍団に任せビルから飛び降りた。


「相手になら―ん!」


 しかし今更、この程度の敵に遅れを取る彼女たち3人ではなく、エンブリオン1体を除いたほかの戦闘員は雑兵のごとく蹴散らされた。

 そのエンブリオンもビルの屋上からアデリーンたちが降下すると同時に地上に落とされ、叩きつけられ気絶したのである!


「そんなに阻害するのが楽しいか! ただの破壊ではなく将来のため必要な破壊なのだ!」


「あれこれ理由つけて虐殺がしたいだけだろこのイカレぽんちがァーッ!!」


 すぐ目を覚まして抵抗を続けるエンブリオンにはロザリアが対処に当たり、アデリーンと蜜月はより格上の敵であるアルマジロガイストとタキプレウスガイストに向かっていく。

 蜜月のほうが組みかかったのは後者だ!

 自身の悪事を正当化しなくては気が済まない彼を、蜜月は切って捨てる。

 素早い動きで背後に回ったり、回避と同時に頭上を狙うなどして、堅牢な防御を上手に突破していった。


「街を荒らさないで!」


「ズモモモモモォー!? な、No.13めェェェェ……」


 エンブリオンを超高温エネルギーの矢で貫き、その上で更にパイロキネシスにより発した炎を重ね敵を大炎上させる!

 ロザリアはこのようにしてエンブリオンを撃破し、姉と蜜月の援護に駆け付けたのだ。


「コンクリートに埋もれさせてやる、ゴロンゴロォォー! 鋼鉄! 大回転!!」


 アデリーンたちも知らぬ間にアルマジロガイストは強化改造を施されており、丸まって転がり出せばトゲを生やして殺傷力と破壊力を高め、防御面でも物理・エネルギー系含むあらゆる攻撃も弾くほどになっていた。

 しかも、浮遊しながら走行できるようにもなったのだ。


「タイヤが空を飛ぶな!」


「いいぞッ! そいつらを潰して肥やしにでもしてしまえ!」


 戦いながら人々が逃げ出した街を破壊しまくるアルマジロガイストを見て、先ほどまでかんしゃくを起こしていたタキプレウスも一転して上機嫌だ。


「この鎧が街を荒らして人を轢き潰した悪い鎧かッ! フン!」


 一休み入れようとした隙を狙ってアデリーンたちが一斉攻撃をしかけた。

 しかし、確かに硬く、蜜月が振るったスレイヤーブレードが弾かれる。

 より強い武器か、装甲を貫けるような特殊な攻撃が必要だ。

 もしくは、関節部をナイフで縫うようにえぐるか――。


「ゴロンゴローッ! オメーらが何をやっても当たらんよ……うっ!」


 余裕を見せていた矢先、突然脇腹を押さえ苦しみ出すアルマジロガイスト。

 様子がおかしい彼の姿を見たアデリーンたちの脳裏によぎったのはつい先日のカーショップチェーン店での出来事だ。

 そういえば支店長を務めていたも、こんな感じで辛そうにしていたような――。

 彼女たちの疑問がまたひとつ、確信に変わろうとしている。


「急にアレだけどさ! 店長の有馬さんでしょ。オレンジキャップのさ!」


「知らんぞ。誰だそりゃあ!?」


「らしいよバカタレぇ……。爆発物転換ビィィィィームッ!」


「なんてビームを!」


 これまで兜が何度も額の眼から放った【エクスプロードレイ】とは、まったく性質の異なる怪光線がほとばしる。

 アデリーンたちは回避したが、背後にあったガレキや崩れたベンチに命中した。

 彼女らが見た感じでは何も変化は起きておらず、こけおどしに思われた。

 だがそれも、最初の一瞬だけで――アデリーンがすぐ異変に気付いたのである。


「あまりその辺を刺激しない方がいいぞー。全てがドカーン! ……と、消し飛ぶのだ!」


 身構えて、場所を移そうとするアデリーンたちだが、タキプレウスガイストにはお見通しだった。衝撃で起爆させるべく、即座にまた別のレーザービームを発射したのだ。

 彼がわざわざ宣言してばらした通り、対象を爆発物に変える邪悪なエネルギーが作用して大爆発を巻き起こし彼女ら3人を吹っ飛ばした!

 ――が、すぐ対応できたこともあり体勢を整え着地する。


「ヒヤヒヤしたぁ……スゥーッ」


「かくなる上は、これ使ってミッドナイトシェードに強化変身よ!」


 ロザリアが大きく息を吸い込んでクールダウンした傍らで、アデリーンは戦況を一変させるべく蜜月にエメラルドグリーンに光る強化パーツ・ネクサスフレームを渡すと、同時に提案した。

 仮面の下で凛々しく、強い意志を秘めた目つきをして――。


「なんだとぉ~? 蜂須賀め、貴様みたいな裏社会のゴミまでパワーアップかあ!?」


「おったまげて腰抜かすなよ」


 ここでひっくり返されては都合の悪いタキプレウスガイスト/兜はまた怒りの矛先を向けるが、蜜月のほうは憤りを感じながらもあくまでもクールに言い放つ。

 アデリーンから渡されたバトンを受け取ったその目は本気だ。

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