S2-FILE010(FILE211):出たわよ!ミッドナイトシェード推参



「チェストォー!」


「うああああああああああ」


 たとえ変身解除に追い込まれようが、このクラリティアナ姉妹は勇ましい。

 不利な状況であれ退くことなく、窮地に陥った蜜月を助けるべくまずはロザリアが生身でドロップキックを敵にぶちかます。

 続いて、姉のアデリーンが敵の顔面を払い飛ばして、ハイキックで天井へとぶち上げ衝突させると、そのまま床に落とし這いつくばらせたのである。


「姉様、【ネクサスフレーム】が!」


 それに目を奪われながらもロザリアが指摘した通り、アデリーンの懐でエメラルドグリーンに染まった拡張パーツが不思議な光を放つ。

 いつも彼女が使い続け、幾度となく奇跡を起こしてきたそのフレームは彼女に対する以上に、蜜月に強く共鳴。

 その証拠にこの3人の胸元に【青く光る雪の結晶】、【金色に輝くハチ】、【赤く煌めくハートを模した翼】の紋章がそれぞれ浮かび上がったのだ。


「あなたに反応してるみたいよ。使ってほしいのかもね」


「う、うっそぉ……冗談……!? 無茶振りすんなってばよ」


「いいから! これにも意志はある!」


 戸惑っていた蜜月へ、有無を言わさずアデリーンが投げて渡す!

 それを阻もうとした不届き者のスティングレイもいたが、こちらはいち早く感知したロザリアによって取り押さえられる。


「ビンビンしてんねぇ、その力を役立ててほしい……ってコトォ!? ……やるしかないかぁぁ」


 ありがたく受け取ったネクサスフレームを右腕に取り付けた黒と金のブレスレット・【ブレッシングヴァイザー】へと装填。

 次に彼女は、意を決した顔をして力を込めた。


「ネクサぁぁぁ~~~~スッ!」


 次の瞬間、ゴールドハネムーンのスーツが夜空を思わせる濃紺混じりで黒々しくも星々の煌めきを連想させる、ラメが散りばめられたものへと変わる。

 それまでは紫色だったカメラアイは青紫色へと変わり、頭部にはスズメバチの触覚を思わせるアンテナ、ボディから腰部にかけてはスズメバチの前脚を思わせるオプションも加わり、まさしく正統進化系の様相を呈する。

 おまけにその腰部にはコートまでついて来て、蜜月からすれば得した気分だ。


「マジかい! スパークルネクサ……ス……ってナリではないな」


 ベタにもほどがあるが、強化変身を遂げた彼女が最初にとったリアクションは両手をはじめ全身をパッと見て引き気味に驚くというものだ。

 ネーミングに迷う蜜月に、アデリーンがこう助け舟を出す。


「【ミッドナイトシェード】とかどう?」


「採用!!」


 その時、スティングレイガイストが起き上がろうとする。

 一発手刀を加えた後、ロザリアは彼を警戒して距離を取り、姉と蜜月のもとへと戻った。


「おのれぇ、それはなんだァ……? たかが姿が変わっただけではないのか」


「と思っていたのか!? 今のワタシにはみんながくれたパワーが、想いの力が! モコモコ湧いてあふれ出てくんだ! あんたなんかにゃ、負けないよ……!!」


 亡くなってもなお天国から見守ってくれている両親、師である【草刈】の孫にして祖父から児童養護施設を受け継いだ【八千代】に、メロニーをはじめとする古くからの親しき友人たち、いつも仲良くさせてもらっている浦和家の面々、日々交友を深めつつある梶原親子、今もどこかでいたずらをしていそうな生意気な家出娘の【宝樹聖花】、かつて闇のシンジケートから守った天才美少女ピアニスト――。

 それだけではない、これまで守って救ってきた多くの人々――彼らとのつながりが、蜜月にとめどなく勇気と力を分け与えた!


「月夜に舞う黄金の影!」


「凍てつく零華の戦姫!」


「天翔ける紅蓮の炎!」


 3人揃い踏みしたヒーローはそれぞれ名乗りを上げ、怨嗟の声を上げ反撃に転じようとしていたスティングレイガイストをたじろがせる。


「ドラァ!!」


 ワスピネートスピアーを手にして、蜜月はいきなりスティングレイを薙ぎ払うと追撃で殴打する。

 連携して、アデリーンとロザリアも射撃で援護を行ない敵を凍らせ燃焼させた。


「デスサイズモード!」


 ここで蜜月は、ワスピネートスピアーが備えしもうひとつの姿を解放する。

 その名が示す通り、穂先が鋭利な刃に変形……死神の鎌デスサイズだ!

 かつて凄腕の暗殺者であった彼女には、ナイフや銃以上にある意味ぴったりだと言える。


「エェ――――イ!?」


「死ぬぜぇ……。ワタシの姿を見た者は、みんな死んじまうぞぉ!」


 専用の長剣【スレイヤーブレード】や、長柄の武器を扱っているときの蜜月はまるで水を得た魚だ。

 重々しいはずのそのワスピネートスピアーをやすやすと振り回し、非物質化による透過能力を用いるスティングレイにその特殊能力を発揮させることなくだんだん追い詰めて行く。


「黙れ! よくも我々を、ヘリックスを裏切ったなァァァァッ!!」


「デリンジャー君を殺しておいてッ!」


 やられっぱなしでは終わりたくないスティングレイは、一瞬蜜月を圧するとどこからともなく蛮刀を取り出して激しく振り回し、そのまま突進をしかける。

 そこから激しいつばぜり合いに持ち込んだ!


「闇の住人は闇の住人らしく、金で雇われクライアントの言うことに従っておればよかったものを……。貴様は、お前はッ! いけしゃあしゃあと情にほだされてぇ!!」


「義理人情もモラルも持ってないようなのが、世迷言を言う!」


「被害者ぶらないでッ!」


 そこにロザリアが、チューンナップを施されたばかりのソーラーアルバレストを引き絞り燃え盛る炎のエネルギーを矢に変えて射出する。

 スティングレイに刺さり大炎上だ。


「そうよ、何人もの命を奪っておきながら! あなたって人は!!」


 そこへ、アデリーンがビームソードと専用のムチ【フロストサーペント】を持った状態で乱入した。

 まずビームソードで斬って蜜月とともに斬撃をありったけ浴びせた後、その冷凍エネルギーを帯びた青いムチによる乱打を見舞ってやったのだ。


「うぐぐぐッ! なんとでも言え。どれほど犠牲を払おうが、どんな手段を使おうが、成功や勝利を収めるのがヘリックスの信条だ。お前らごときに口を挟まれる筋合いはない! それに蜂須賀! お前はジョーンズさんを……いや、キュイジーネ様たちを! 土足で踏みにじったのだ!!」


「キュイジーネを裏切ったつもりはない! ヘリックスという組織があまりにも邪悪すぎただけだ!!」


 度重なるダメージにより声もかすれてきた中で、スティングレイはアデリーンたちに対し反論しながら猛反撃に出る。

 蛮刀を振り回して体当たりしつつ、子エイ型の爆弾も乱射。透過能力を適用したため物陰に隠れてやり過ごすことは出来ず、そのまま通り抜けて爆発するのだ。

 なのでアデリーンたちはノーガードで戦うしかない――が、ここで機転を利かせたアデリーンはビームシールド・【ブリザウォール】を装備して冷凍エネルギーを増幅、吹雪のフォースフィールドを展開。

 届く前に、そもそも届いたところでスティングレイガイストの爆弾は凍り付いて粉々になった。


「くッ……。よくもわたしたちに刃を向けたな、裏切ったなァ!! 絶対にィ……絶対にいィ~~~~ッ、絶対にいいい~~~~~~~~~~~~~ッ! 許さああぁアアア~~ん!!」


 アデリーンがシールドを媒介に冷凍エネルギーを爆発的に増幅させたため、室内に吹雪が吹き荒れる!

 それに体力を著しく奪われてもスティングレイガイストはまだあきらめようとしない。

 裏切り者と見なした蜜月だけでも殺し、クラリティアナ姉妹を連れ去り今度こそ組織の忠実なしもべにしてしまおうというのだ。


「ただ従うだけが忠誠ではない! スティンガースレイ!!」


 彼の主張に少しだけ思うところがありながらも、危うさを指摘して彼女は鎌を用いた必殺奥義を繰り出す。

 エネルギーを集中させ、金色と紫に発光するデスサイズで叩きつけるようにして一閃!

 切り裂かれたスティングレイガイストは大きく吹っ飛び、スパークし始める。


「エェェ――――イ、きゅ、キュイジーネ様、【ジェルヴェゼル】様……ぐうわあああああああああああああああああああ!!!!」


「っ! やはり【大西洋の魔女】か……」


 スティングレイが爆発した瞬間に口にしたのは、アデリーンたち3人にとっても聞き覚えがあり、の名だ。


「はぁ、はぁ……くそッ……! 貴様らさえいなければ! もう何もかもオシマイだ」


 消えかかった残り火が燃えている傍らに、エイのジーンスフィアが転がり落ち砕け散る。

 手を伸ばそうとした寸前でそれを目の当たりにした満身創痍の東雲は、その現実に絶望し床を叩きつける。

 哀れな今の自分自身にどこか酔ってさえいた。

 が、そこにアデリーンたちが近寄り彼はおびえながら警戒する。


「そんなに慕ってもらえたなら、彼女たちも光栄なんじゃなくて? でもね……それだけの信念や忠誠心を持ちながら、非道な悪事に走ったのがあなたの最大の間違いよ」


 まだ抵抗しようとした彼をアデリーンがビンタして、ロザリアはジーンスフィアの破片を回収。

 そして、蜜月は泣きじゃくる東雲を複雑そうに見ながらも彼の罪状を――ミツバチと満月のエンブレム入りのカードに書き記した。


 【この者、連続透過殺人犯!】


「これでデリンジャー君も、ちったあ浮かばれるはずよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る