S2-FILE009(FILE210):東雲追撃戦


 大爆発の余波で起きた熱風と潮風とを背に受けて、アデリーンたちは水上で加速。

 そのまま、空を飛んで逃走中の東雲を追いかける。

 漁港の周辺には海洋施設もあったがそれらは破壊されており、海の上にはその残骸も浮かんでいた。


「逃げるな東雲ッ!」


「このアマ……さっきから好き放題言ってくれるが! ヘリックスオートバイ部隊、出ろ!」


 スティングレイガイストとなった東雲がエイの顔で口笛を吹いた時、どこからともなく水陸両用のバイクを駆る謎のバイク乗りたちが姿を現す。

 両耳にアンテナ付きのフルフェイスのヘルメットを被り、ライダースーツを着込んでいるように見えるが――アデリーンは彼らから発せられるを聞き逃さない。


「【ライドバイカー】だッ! エンブリオンに代わってそいつらが遊んでくれる!」


「海に沈めー!」


 あるものはバイクに備わった機銃を掃射し、またあるものはアクセル全開で幅寄せ運転なども辞さない姿勢でアデリーンたちに急接近する。

 追うつもりが追撃され、ライドバイカーたちを引き離さんとアデリーンたちはマシンのギアを上げて更にスピードアップする。


「そこっ! まとわりつかないの!」


「しつこい男は! 嫌われる!」


「ぐわっ! ガガーッ!!」


 機械仕掛けのバイク乗りたちを振り切って、なおも攻めてくるものはマシンに搭載された武装で破壊して撃退。

 それからもスティングレイガイスト/東雲とのカーチェイスは続く……。

 海面に浮かぶ残骸をジャンプ台がわりに飛び越え、ウィリーの姿勢のまま体当たりをかまし、それらを繰り返した末に東雲は進路上の先にあった建造物へと逃げ込んだ。

 鉄骨のアーチや物資を輸送するレールだったもの――、かつてはフル稼働していたのだろうが、外部から破壊、あるいは放棄された今では見る影もない。


「油田施設の跡地か……」


「誰もいないから隠れるにはもってこいね」


 その入口で停車して、アデリーン、蜜月、ロザリアの3名は海に浮かぶ廃墟の内部へと足を踏み入れる。

 敵も疲弊していたか、入ってすぐの部屋でスクラップにもたれて息を乱している。

 彼女たちに気付いたスティングレイは唇を噛みしめた顔で振り向いた。


「くそッ、しつこい連中め。どこまでついてくる気だ?」


「もちろん水平線の彼方まで」


「まあいい。ここでケリをつけてやるか!」


「空は飛び回れても、もう【すり抜け】はさせないぞ! お前がやったんだろ!?」


「ふっ……。だからなんだ。組織の誇りに懸けて、貴様らを倒すッ!」


 所業に怒りを露わにするアデリーンと蜜月から指摘と追及を受けるも鼻で笑った彼は、背部のジェットエンジンで再び宙に飛びあがって戦闘態勢に移行する。


「スティーヴンは倒せなかった。……あなただけでも!」


「お前らにただでやられてやるわたしではない。エーイッ!」


「来ますッ」


 地上にいるアデリーンたちめがけ、飛び回りながらの突進や爆撃を繰り返す。

 障害物に当たりそうになっても、自身の能力を利用してすり抜け、何事も無い。

 素早い動きの隙を突いたアデリーンたちから攻撃を受けるも、彼はめげずに組み付いた。


「デェイヤアアア」


「凍れ!!」


 2人の味方が見ている前でアデリーンがその手から冷凍エネルギーを放ち、スティングレイを凍らせる!

 すかさず、彼女たちは連携して凍った敵を攻撃し続け、的確に追い込んで行く。


「うぐ……デェヤアアアア!!」


 だが彼は氷を割って脱出し、空を飛んだ!

 天井にぶつからない程度の高度まで上がった彼は、子エイ型の爆弾を何発も射出して地上のアデリーンたちを狙う。


「これでも食らえ。フッフッ! エエエーイ!! そらそら!!」


 地上を爆撃するだけでなく、時たま降りては3人を殴り飛ばし、ロザリアに至ってはスクラップを透過して冷たい床に叩きつけられる。

 危うく海に落とされるかもしれなかった――。


「貴様らまとめて打破してやるからなッ」


 勢いに任せて宣言するも、彼は飛ぶのに疲れていったん休憩を挟もうとしていた――が、その考えが甘かった。

 アデリーンたちの攻撃フェイズに突入し、氷と炎、毒を伴う体術と剣技や射撃に槍術が目まぐるしく彼を攻め立てたのである。

 燃やされては冷まされ、凍らされては熱され、余裕ぶっていた東雲の態度にも焦りが見え隠れし出す。


「ふーッ、ふーッ。フン、このわたしがこれほど追い詰められるとはな……。だがお前たちもここまでだ。行くぞ蜂須賀!」


「おとなしく腹くくれ!」


「いい加減負けを認めたらどうですか!?」


「こしゃくなマネをしおって……。エーイ!!」


 ビームソードに槍の穂先、フランベルジュの先端を突きつけられた彼は苦々しい顔をすると、唸り声を上げて自分の周囲を含む広範囲に雷撃を放ち破壊する!

 更に、蜜月を重い一撃で殴り飛ばして壁を透過能力ですり抜けさせると、海のすぐそばまで追い詰めてしまった。


「ミヅキッ!」


 先ほどのスティングレイの反撃が予想外に高威力だったためか、変身解除に追い込まれ――傷付きながらも起き上がったクラリティアナ姉妹が蜜月が吹っ飛ばされた方向へ向かえば、そこで彼女が必死にしがみついているさなかだ。

 卑怯にもスティングレイガイストが彼女のその手を踏みにじり、突き落そうともしていた!

 どれほど彼女に対して憎悪を向ければ、そんな非情なことができるのか――。


「さらばだ! 海の藻屑と消えるがいい!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る