4・秋色コーデ

 数日後、クレアの元にアヤカから返事の手紙が届いた。ほのかに期待はしていたが、まさか本当にこちらの申し出を受け入れてくれるとは思わなかったので、少し驚いた。


 手紙によると、デートの日程は次の週末で、待ち合わせ場所はあのレストランの前だった。また、手紙の追伸にはジュリも同伴することが書かれており、彼女は「アヤカ先輩はあげません!」と言っているらしい。クレアが「デート」という表現を使ったために、妙な対抗心を抱かせてしまったようだ。


 そして週末、クレアはあのレストランの前で二人を待っていた。


 今日はこの街の景色に似合うファッションとはどんなものか、お手本を見せるつもりでいつも以上に気合いを入れた服を選んだ。ベージュのブラウスと組み合わせた深緑のハイウェストスカートは、この日のために新調したものだった。


 だが、まだ安心はできない。ジュリがアヤカにどのような服を着せるのかまだ解らないし、彼女も一緒に来るとなると、二人が並んだ時の相性も重要になってくるだろう。クレアが絶対有利という状況ではない。


 ファッションで負けても、オリーブタウンの歴史や文化に対する知識では負けないようにと、観光名所について予習もしてきた。この時ばかりは文明の利器インターネットに頼ったが、オリーブタウンの魅力を存分にアピールできるデートプランが作れたと思っている。


 クレアがあれこれと考えを巡らしていると、レストランの脇の街灯時計の針がカチリ動き、正午を告げるチャイムが鳴った。


 チャイムの音に混じって、二人の少女が話す声が聞こえた。彼女たちの声はだんだんとこちらに近付いてくる。


「あの子がクレアさんじゃないですか?」


 片方の少女がクレアの名前を口にする。来たか……!


 クレアはスッと息を吸って顔を上げる。予想通り、アヤカとジュリが並んで歩いてくるのが見えた。そして二人のファッションに思わず息をのむ。


 ジュリは山吹色のワンピースに白いカーディガンの組み合わせで、相変わらず秋らしい雰囲気のファッションだ。一方のアヤカは黒のスキニージーンズに赤いブラウスシャツを合わせたコーデ。アヤカの脚の長さを強調するとともに、女性らしい柔らかな雰囲気も加えてクールになりすぎないようにしている。


 やはり、ジュリは後輩と言うだけあって、アヤカの魅力を深く理解した上で服を選んできたのだ。ここはドローとしておこう(負けは認めたくなかった)。


 クレアが呆然と立ち尽くしていると、それに気付いたらしいアヤカが声をかけてきた。


「ねぇ? もしかして、キミがクレア・キャロル?」


 クレアが無言で頷くと、彼女は「やっぱり」と声を漏らした。アヤカはその後に続いて何か話そうとしたが、ジュリが彼女の言葉を遮るように口を開く。


「どう? クレアさん? 私のアヤカ先輩はかっこかわいいでしょ?」


 彼女はフンスと鼻の穴を広げて胸を張る。クレアはジュリの言葉に同意するしかなかった。


「うん。すっごくかわいい! それにカッコいい!」

「やった!」


 先輩を褒められてジュリは嬉しそうだった。一方のアヤカの方は普段あまり着ない服に戸惑っているのか、崩れてもいない襟を直したり、ほどけてもいない靴ひもを結び直したりしていた。


「それで、デートって言っても、どこに行くの?」


 じれったくなった様子のアヤカが尋ねてきた。クレアは次の一手として用意していたデートプランを話す。


「えっと、先ずはイヴリン・リデルの住んでいた家に行きましょう」


 クレアがイヴリンの名前を出すと、「あ、私その人知ってる!」とジュリが反応を示す。ジュリにウィンクを送り、クレアは続ける。


「私の好きな画家なの。彼女の家はちょっとした美術館に改装されてるから、そこで私が一番気に入ってる絵を見せてあげる」


 一番気に入ってる絵とは、もちろんグロリアーナ城と港を描いたあの絵だ。しかも、イヴリンの家に飾られているのはオリジナルだ。それを見れば、クレアが空軍基地を恨めしく思う気持ちも分かってくれるだろう。


「ついてきて」


 そう言って、クレアはアヤカたちをイヴリンの家に案内した。

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