気高い彼女の優しい話

夢裏徨

気高い彼女の優しい話

 私は僕は自分は、魔法が使えた。


 魔法と呼ばれる力は、カミと呼ばれる存在にお願いすることで発動する。物心ついたときから私にはカミの姿が見えたし、お話もできたから、お友達感覚で気軽にお願い事をした。それを見た周囲の大人たちは、大層驚いた。


 けれど、それも昔の話。

 否、今だって彼らは彼女らは私の傍にいてくれる。お喋りして遊び回って、そしてからかわれる。凹んで泣きそうになって、別の子たちに慰められる。

 魔法を行使しようとお願いすれば、たまにやってくれる。そこはカミの気分次第だ。だから——カミとお話できない子たちが何気なく魔法を発動させているのを見てはもやもやした。あの子たちのお願い事は聞いてくれるのに。


 いつしか、銀髪は魔物を引き寄せる、などという噂が流れるようになった。銀髪の子は、カミに好かれた子。何度転生しても僕の髪はやっぱり銀色で。魔物を引き寄せるどころか、魔法の一つも使えない、カミとお話できるだけの、ただの落ちこぼれ。


「さっさとあっち行きなさいよ! 魔物を呼ばないで! あたしたちの家族を危険な目に遭わせないで!」


 そう、家から村から街から叩き出されるのも慣れてしまった。

 カミはやっぱり傍で戯れていて、水や食料の調達できる場所をちゃんと教えてくれた。だからひもじくも寂しくもなかった。けれど。


 街道から外れた林の中でうずくまっていれば、誰かが通りかかった。カミを連れた懐かしい気配に顔を上げる。彼女は立ち止まり、私を見ていた。

 聞き分けのないカミに指令を出せる人。切れ長な琥珀色の瞳が、強い意思を灯している。


「お帰りなさい」


 久しぶりに出した声は掠れていた。彼女にちゃんと届いただろうか?


「お帰りなさい、ティルラ」


 僕は彼女を知っている。

 強い人。強くて弱くて優しくて気高くて、やっぱり強い人。


 腕を伸ばせばためらいながらも応じてくれた。壊れ物でも扱うようにそっと触れてくれた。嬉しくなっていっぱい語った。驚き、はにかみ、時に顔を真っ赤にしながら聞いてくれた。

 そして、彼女は寂しげな顔をする。


 私は知っている。彼女は私を守るために、私から離れようとしているのだと。けれど私を悲しませたくなくて言い出せずにいるのだと。


 大丈夫。自分は心に決めている。

 彼女と一緒に行くんだって。

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