第35話 襲撃の仮面舞踏会
ビルの前には〈ペルソナ〉の〈超我兵〉や戦車が集結し、最大防衛の布陣を構えていた。
「そこで止まれ民間人! ただちに両手を上げ、名を言え!」
厳戒態勢の中、兵士に誰何される。
「――名、だと? 知りたいなら教えてやろう……俺は……お前達の『闇』さ」
「何?」
「貴様らMASK……死の商人が生み出した戦死者の影。それが、この俺だ」
すらりと日本刀を抜くと、一斉に〈超我兵〉達は銃口を俺へと向ける。
「おい、あの刀は……! 止まれッ、貴様はいったい……ま、まさか!?」
「影を恐れよ……そして
それを合図に周囲からは怒号が飛び交い、重火器による
――覆え、そして変化しろ。俺は、俺の運命をくつがえす……ッ
「――〈マ、ス、カ、レ、イ、ド〉……ッ!!」
解き放たれる雷光の戦陣。
俺は光り輝く殺意の奔流となって敵へと襲いかかった。
◇◇◇
階下で激しい銃撃戦が繰り広げられる中、ユング大佐は必死になって部下に連絡を取っていた。
「どういうことだ! なぜいまだに奴を捕らえることができん!? 電線でもコイルでも何でも良い! 雷を封じる方法を使え! 避雷針のようなものはないのか!?」
「そ、それが……既に奴は、歩兵の姿に変装して侵入してるとのことで……疑心暗鬼にとらわれた兵士達が、既に同士討ちを始めております」
「ナノマシンのID登録があるだろう! 識別信号で見分けられんのか!?」
「その信号すら模写されているようで……シャドウ本人を暴く方法がありません!」
「おのれぇ……クソ! ここは貴様に任せる。私は先に脱出するぞ! おい、そこの貴様!」
「ハッ!」
「先ほど屋上にヘリが用意してあると言ったな? 私をそこまで案内しろ!」
「了解であります!」
足早に作戦本部を離れたユング大佐は、シャドウから逃れるために人知れずビルから退避しようと試みる。
下の階では、未だに侵入したシャドウを暴き出そうと、兵士達が
「ええい、くそ……忌々しい空木の小僧め。親子そろって私に
先ほどから悪態ばかりを付く大佐。彼は苛立ちを隠そうともしない。
やがてセントラルタワーのヘリポートにたどり着くと、強い風が吹きすさんだ。
「ふん。もう夕暮れ時ではないか。たった一人のガキを足止めするのにここまで時間が掛かるとは、使えない部下どもめ」
「……ここら辺で良いでしょう。もう、着きましたよ」
見晴らしの良いタワーの屋上。
オレンジ色の夕日が地平線のはるか彼方に沈みかけ、遠くの空に鎮座する雲は輪郭を
眼下に広がる大都市は
「なんだ? 脱出用のヘリなど用意しておらんではないか! これでは袋小路だぞ! 貴様ふざけているのか? 緊急時なんだ、早くしろ!」
「…………」
「おい! 黙ってないで階級と役職を言え! 貴様、どこの部隊だ」
「やれやれ、まさかこんな間抜けだったとはな。正直、拍子抜けだぞ。大佐」
「な、何だと? 貴っ様ァ、名を言わんか!」
「フッ、まだ分からないのか? ……俺だよ……」
顔に手を当て、ザザザ……と変身を解く。
MASKの兵士に変装していた俺の姿を見た途端、ユング大佐は顔面蒼白となった。
「ま、まさか……貴様は……空木の……ッ!」
「こうして会うのは初めまして、だな? 俺の身内が随分と世話になったようだ」
「く、くそ! このガキめッ、死ねっ……!」
懐から勢いよく拳銃を取り出し、引き金が引かれる。
しかし弾丸が発射されることはない。
「な、なに……?」
「どうした? あんた、早撃ちで有名なんじゃなかったのか? ククッ……もっとも人差し指がないんじゃあ、どだい無理な話かも知れんがな」
そう言って、既に居合い抜きで削ぎ落とした人差し指を指摘する。
銃を引き抜こうとした瞬間に、既に指が切り落とされていたことに気が付いたユング大佐は、今更のように痛みを感じて絶叫を上げた。
「ぐ、ぐぁぁァア!! ゆ、指ぃぃ……っ!? 私の指があああッ! き、貴様ァ……よくもぉ!」
掴みかかってくる大佐を素早く避け、俺はその横っ面めがけて右の拳を思い切り殴りつけた。
ゴッという鈍い手応えを感じながら、勢いを殺さず続けて拳を振りかぶる。
「これは父さんの分!」
すかさずもう片方の手で殴りつけながら、今度はよろめく下顎に拳をぶち込む。
「これは母さんの分っ!」
更に力を込めながら、俺は渾身の拳をユング大佐の鼻っ柱へと見舞い……
「そしてこれは……ッ」
全ての怒りを込め、俺は憎むべき仇に鉄拳を繰り出した。
「シズ姉ぇの分だぁッ!!」
あごを砕かれながら殴り飛ばされた大佐は、断末魔をあげてうずくまる。
「ぅがはァァ! ゲホッ、ぐぇほっ……ぐぐぅ、バカな……こんなガキにッこの私がぁァ……」
左手で胸ぐらを掴み、怨敵を無理矢理起こしながら俺は右手で再び刀を抜いた。
「今一つ殴り足りないが……もう、お前の顔は見飽きたよ」
だめ押しに左拳を腹に叩き込み、その身体がくの字に折れ曲がったところを見計らった俺は頸部めがけて刀を振り上げる。
「グホォッ……あがッ、は……! はひゅっ、やめ……た、助け……ッ」
「お前は、父さんと母さんが同じこと言ったとき……やめてくれたのか?」
底冷えのする声で尋ね返す。
「ひッ……!」
両親は誇り高く、最期まで家族のことを想って死んだのだ。
俺は今こそ……二人の無念を晴らす!
「終わりだ。死ね」
最初から命乞いなど聞く耳持たない。
今ここに、俺はすべての復讐を成し遂げるために断罪の刃を振り下ろす!
「――まて! やめろ夏也ーーッ!!」
しかしその瞬間、聞き覚えのある声が俺の行動を遮った。
「……、…………」
ピタリと刀を止め、ゆっくりと背後を振り返る。
そこには、かつての幼なじみ……白面孝太郎と、彼に付き従う少女、偽静流の姿があった。
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