第17話 デートのお膳立て

  ◆◆◆


 それから数日後。

 あれからシズ姉ぇは、なぜか毎日のように俺のアパートへ遊びに来た。

 不意を突いて訪問してくるせいで、ろくに本拠地のホテルへ戻ることができない。


 それはすなわち、ゲリラ活動を共にする〈セルフ〉の仲間と情報を十分に交換ができず、復讐や〈悪魔〉の調査が難航することを意味していた。


 彼女が自分のところにやって来るのを嬉しく思う一方で、俺は複雑な気持ちになる。

 毎日のようになにかを持ってくるシズ姉ぇは、きょうはノートPCを持ち込んでいた。

「パソコンがあれば他の娯楽はすべてまかなえる」とは彼女のいだったが、目の前に映るものを見て俺は言葉を失っていた……。


「……シズ姉ぇ。一応聞いておくけど……これは何だ」


「ふっふ~ん。聡明そうめいなる静流おねーさんは考えました! 友達と交流せず、なおかつエッチ本のない生活を送る夏也くんに最適なプレゼントはいったいなにかとっ!」


「で、その考えた末の贈り物が、エロゲーってわけか……。どんな判断だ」


 金をドブに捨てる気か?


「まあまあ、気にしない気にしない。このゲーム、〈シタインデスケード〉っていう人気作なのよ? 通称シタゲ。タイムトラベルものなんだけど、男の子ってそういうの好きそうじゃない?」


「……〈時空漂流シタインデスケード〉? ……まんまだなおい」


 二人でノートパソコンのディスプレイを眺めながら、かちかちとクリックする。

 どうやら秋葉原を舞台にしたSFアドベンチャーらしい。


「あっ、選択肢出たよ! 可愛いな~。これはもう、この娘から告白を受けるっきゃないわね!」


「…………」


「ねっ、ねっ。この娘を攻略してみようよ~! 一番この娘が可愛いって!」


「断る」


「えぇ? どうして あんた、メイドさんの方が好みだっていうの」


「この告白してきたキャラは男だろ。何で男が巫女服なんか着てるんだ? おかしすぎる」


「失礼ねえ。男の娘よ! 夏也もさっきまで悶えてたじゃないっ」


 見た目が女の子キャラクターなのに中身が男の設定って、どういう層にうけているんだ?

 なまじ出来が良いだけにこちらの認知が歪んでくる。

 

「こ、これは可愛さという名の暴力だ! 俺はノーマルでいい……」


「わっがままだなぁ。じゃあ夏也は、どう見てもと、どう見てもだったら、どっちが良いの!?」


「そもそもそんな発想に結びつくことが論外だ」


 シズ姉ぇのムチャクチャな質問にあきれていると、携帯に電話が掛かってくる。


(! この相手は……)


 着信画面に映った名前は、孝太郎だった。

 あれからあまり孝太郎と言葉を交わす機会がなかったが、なにか掴めたのだろうか?


「もしもし」


『あ、夏也かい? 良かった、ちょっと相談したいことがあってさ』


 MASKにおける〈悪魔〉についてなにか分かったのだろうか?

 俺は電話に集中する。


『実はきょう、シズ姉ぇをデートに誘おうと思ってるんだ。それでなにか知恵を借りれないかって』


「…………なに?」


『いやぁ恥ずかしい話なんだけど、僕らまだ手も繋いだことなくてさ……で、キミは転校初日からモテまくってるみたいだろ? だからアドバイスが欲しいんだよ』


「孝太郎……学園で行われている実験とやらはどうなった?」


『え? それ? ああ、それは特に何も問題ないみたい。進展はないよ』


「…………そうか。なら、もう切るぞ」


『ちょ、ちょーと待ってよ! 頼むよ夏也、僕を助けると思ってさ!』


「他のヤツに聞けばいいだろ……」


『みんな僕がMASKの嫡男だからって、あたりさわりのないことしか言えないんだよ。その点キミなら僕に気兼ねないし、シズ姉ぇの好みだって分かってるだろ?』


 だからと言って、よりにもよって元許嫁だった俺にアドバイスを求めてくるとは……肝心なところでは図太い神経をしているなこいつは。


 とはいえ、偽りの友情ごっこかまけている時間はない。俺の目的は両親の仇を討つことだからだ。そいつらをまず片づけないことには、〈悪魔〉の調査も始まらない……。


「いいだろう、なら一つ交換条件だ。俺の父さんが左遷させられたあと、開発主任の後釜になったヤツがいるだろう? そいつがだれなのか、教えてくれないか?」


『えっ、それは……知っているけど、どうしてそんなことを聞くんだい? そういう個人情報はあまり人に話せるようなことじゃ』


「昔のMASKは、俺の父……空木博士のワンマン運営だと言っていただろ? で、それが現在、街を巻き込んでの治安悪化に繋がっているわけだ。かつての責任者の息子としては、今の責任者の名前ぐらい知っておきたいというのも当然じゃないか?」


『……まあ、そういうことなら一応名前だけは教えておくよ。ただし絡んだりするのはやめてくれよ? 空木博士の後任となったのはね、外国人のワイズマン博士だ』


「ワイズマン……」


 そいつが父の後任になり、現在の兵器開発主任になった男か。


『で、その……さ。デートに着ていく服装なんだけど何がいいかな』


「ああ。それならうってつけのものがあるぞ」


 俺は、未だにノートPCの前でハァハァしているシズ姉ぇをチラリと見やる。


「――巫女服を着てこい。それなら大ウケ間違いなしだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る