おととい来やがれ

新巻へもん

しっしっ

 なんとも締まりのないプロポーズだったけれど、一応きちんと共に人生を歩まんとお申し込みを受けた。

 高校生の頃からずっと続いてきたお付き合い。

「ずるずるいくと危ないよ」

「泥棒猫に気を付けなよ」

 そんな友達の声を聞きつつも、きっとあいつと結婚するんだろうなという予感通りの展開になった。

 家族ぐるみのお付き合いだったので、両家の顔合わせというほど堅苦しいものではなく、二人そろって簡単に報告をすませる。

 どちらの両親も、やっとか、という熱量のない反応で。でも、まあそう思うよねというほどの関係だった。

 二人で住む家を探し、家族だけの結婚式場を予約し、結婚指輪を買いに行く。

 自分にとってはごくごく当然な展開にマリッジブルーになるわけもなく、それでもじわじわと幸せを嚙みしめていた。

 ところがだ、我がパートナーとなるべき男ヒロの様子がどうもおかしい。

 何か言いかけて、やっぱりやめるということが続いた。

 気にならないと言えば嘘になる。もやもやしながら過ごしていると、兄から電話がかかってきた。

「あの男。職場で女から猛アタックを受けているぞ」

 どうも私の浮かない顔から事情を察したらしい。

 ご心配をかけて申し訳ありません、お兄様。本職の方に内偵までしていただいて。

 いるんだよねえ。結婚が決まった途端にちょっかい出してくる男女って。関係を持つだけ持って人間関係壊して次に行くビョーキみたいなのが。

 ヒロだと猫を被っているのを見破るのは難しいかもしれない。

 ちょっとお人好しなところがあるからなあ。

 穏便に収めようとしてずっと付きまとわれているんだろう。

 私は兄から教えられたコーヒーショップに急いだ。

 しばらく見張っているとヒロが出てくる。弱り切った顔だ。

 二人の女がかき口説いていた。

 泥棒猫とそのお友達。二人がかりとは恐れ入る。

 目いっぱいに涙をためた女性の方はちょっと可愛らしい感じ。ただ、ねっとりと絡みつくような媚があふれ出ているのがいただけない。

 まあ、このミキ様の美貌と魅力の前にはミジンコのようなものだがな。

 私は物陰から飛び出すと、ヒロに腕を絡ませて引き寄せる。

「なんなの、あんた?」

 知らざあ言って聞かせましょう。よっく聞きやがれ。

「人様のものに手を出すなら相手を良く見た方がいいわよ」

 きっと睨みつけると泥棒猫の顔色が変わった。

 組んでいる腕に力をこめる。耳に囁かれるゴメンの声。

 私は腹に力をこめて一音節ずつ言葉を叩きつける。

「こちらはね。わ・た・し・だ・け・の・ヒー・ロー・なのっ!」

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