学年一の美少女生徒会長様が毎日ゼロ距離で俺に俺に迫ってくる理由

華川とうふ

どうして俺なんかにそんな迫ってくるんだよ?

「ねえ、お願いだから、私とセックスしよ♡」


 今日も生徒会長である新藤美月が俺にいつものセリフをいう。

 最初に言われたときは、自分はもしかして18禁エロゲの世界に転生でもしたのかと思った。


「会長、そんなことしてないでそこをどいてください」


 俺はいたって冷静に言う。

 すると、生徒会長である新藤美月はやれやれといいながら、僕の上から身軽に降りる。大胆なことをする割には素直なところもあるのが意外だ。

 放課後の生徒会室、さっきから生徒会長は馬乗りになりながら俺をもとめてくるのだ。

 誰かに見つかったら非常にまずい。

 まあ、おそらく生徒会長である新藤美月ならもみ消すことなど造作もないのだろうけれど。

 学年一の美少女で成績優秀、スポーツ万能。

 そして巨乳。

 まるで漫画のキャラクターみたいに完璧な人間、もとい、美少女だ。


 昔はもっとおとなしい感じだったのに……。

「みーちゃん」

 俺は子供のころ、この目の前の完璧生徒会長を近所の猫でも呼ぶような、名前で呼んでいたことがある。

 あの頃の新藤美月は可愛かったけれど、ひっこみじあんで地味でおとなしい子供だった。

 親が知り合い同士のだったから、俺は子供のころ、そんな新藤美月の手を引いてよく遊びに連れ出していた。


 だけれど、俺は親の都合で転校した。

 転校したといっても同じ県内だけれど。

 子供にとってみれば県内だろうと県外だろうと、自分の足で移動できる距離でなければ遠くだ。

「手紙書くから」

 そう約束して、転校した。

 最初のうち、俺と美月は手紙を送りあった。

 けれど、いつしか手紙を送りあうこともなくなってしまった。


 そして、再会したのが高校だった。

 俺と新藤美月の通う学校は中高一貫校で、俺は高校編入組。

 対する新藤美月は中学からだ。

 新藤美月の評判はすさまじく、入学したばかりの一年生にも関わらず生徒会長に抜擢されるという異例中の異例らしかった。


 そんな完璧美少女に育った新藤美月のことを俺はまぶしいものをみるような気持ちでみていた。

 本当にあのみーちゃんと同一人物だなんて最初は信じられなかった。


 だけれど、新藤美月は俺のことに一瞬で気づいたらしい。

 入学式以来、放課後は俺のところにやってきて迫ってくる。

 でも、正直、新藤美月がどうしてこんなに俺のことを好きなのかわからない。


 俺なんてこの学校に入るのはぎりぎりの成績だし、別にイケメンでもない。

 すごく平凡な人間だ。

 いまや、みんなの人気者である特別な存在である新藤美月とは比べ物にならない。

 だけれど、新藤美月はこれでもかというほどさりげなく胸を押し付けてきたり、とにかく迫ってくるのだ。


「なんで……俺なんかにそんなかまうんだよ?」


 俺は思わず本音がこぼれた。

 そう俺はちょっと自分がいやになっていた。

 中学までは公立校にいたからそこそこ優秀だし、友達も多い方だった。

 だけれど、ここは中高一貫で部活とかやっても中学から入っているやつは友達も多いし、カリキュラムだってずっと進んでいる。

 自分がこんなに劣っていると感じたのは初めてだったから。

 そんな俺に学年一の美少女である新藤美月がせまってくるなんてありえない。きっとからかわれているだけか、なにかの罰ゲームなのだ。

 だけれど、新藤美月は俺をまっすぐみつめてこういった。


「それは、あなたが私にとっては最強にカッコいいヒーローだからだよ」


 意味が分からない。


「ヒーローってなんだよ」


 俺はついぶっきらぼうに聞く。

 ヒーローって言葉がでてくるなんて思ってもみなかったし。なんだか子供のころに憧れたことばだから照れくさくてくすぐったかったから。


「子供のころの私のこと覚えている? ひとみしりで誰かと話すのが苦手だった……」


「ああ、覚えてる。よく一緒に遊びにいったよな」


「そう、一緒に遊んでくれた。すっごくうれしかったなあ」


「でも、それだけじゃヒーローだなんて大げさだ」


「えっ、覚えていないの?」


 美月はびっくりした顔をした。


「一度だけ、中学のころ……助けてくれたじゃない」


 うつむいた美月の頬は桃色だった。

 だけれど、美月を助けた覚えなんてない。

 俺たちが最後にあったのは小学生のときのはずだ。

 手紙のやりとりはしていたけれど、中学にはいってすこししてから美月からの返事がこなくなった……。


「中学のころ映画館で痴漢にあいそうなところを助けてくれたじゃない。それともヒーローはいろんな女の子を助けているからそんな小さなこと忘れちゃった?」


 美月が顔をあげると、その瞳は涙で潤んでいた。


「いや、あれって……」


 確かに中学の頃、映画館で痴漢にあいそうな女の子を助けたことがあった。

 だけれど、その女の子は怖かったのかずっとしたを向いたまま何かをしゃべることもなかった。

 暗かったし、それに俺だってわかっているなら何か言ってくれればよかったのに。


「私にとってはあなたはヒーローだよ」


 美月はそう言って、俺に抱き着いた。

 さっきまでの馬乗りやときどき胸を押し付けてくるのとは違う。

 おふざけ一つない、まっすぐに俺の胸に飛び込んできた。


「あなたが、言ってくれたから頑張ったの。嫌なことははっきり自分で言えるように。そして、誰にも負けないように。また再会できたらあなたに好きになってもらえるように」


 美月が胸のなかで俺にささやく。

 なんだか赤ん坊を抱いているときみたいに熱くてやわらかくて、いい匂いがする。不思議な感覚だった。


「たとえ覚えていなくてもいい。私にとってはあなたがヒーローだから。だからっ……私のこと少しは意識して……好きになってくれると嬉しいな……私だけのヒーローになって……」


 とっくの昔から好きなのに。

 そんなに一生懸命頑張らなくても、地味で目立たない小さなころのありのままの美月のことだって好きだった。


 ただ、それを言葉にするのはあまりにも陳腐だから、俺はヒーローらしくしっかりと新藤美月を抱きしめたのだった。


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