4 ルルウラ=レイの告白

「地球防衛庁?」


 聞いたことがないが。


「馴染みのない名前かも。こちらの地球にはないんだっけ」


 こちらの地球、とは。


「並行宇宙のことはまだ確認されていないんだっけ。

 じゃあ、地球はその並行宇宙の階層にそれぞれ存在して、今のところ、ここを含め七つ見つかっている、ってことから話すべきかな」

「え?」


 ルルウラ=レイは、説明を続けた。


「ぼくも、そのうちのひとつから来たんだ。君たちと同じ〈地球人〉さ」

「ロボットが住んでる地球があるの?」


 ヘイタが声をあげると、ルルウラ=レイは首を振り、


「ぼくも、あなた方と同じ。人間。

 これは、訳あって使っている義体。仮に活動するための身体だよ」

「じゃあ、」

「本当の身体は、隠してるんだ」

「それは、こちらの地球に、ってこと?」


 ユウスケが、静かに言った。


「その通りだよ」

「さっきのコスプレ野郎が君を詰めてたけど。それはそのことに関係ある?」

「あるけど……」

「逃げる場所はもう少し選ぶべきだったな?」


 そのとき。

 目の前には、ふたたび先ほどの男が。


「あっ! コスプレ野郎だ!」

「お前らに用はない。

 ルルウラ=レイ!」

「ザムザム=ギル!」


 ザムザム=ギルと呼ばれたコスプレ野郎。

 その手から、長く延ばされたなにかを察し、ルルウラ=レイをとっさに抱えて飛びのいたのはアオイである。


「命拾いしたな」


 ザムザム=ギルの手には、鞭状の武具がある。


「大丈夫?」

「ありがとう」

「てか、何なんだよ、お前!」


 ヘイタが向き直る。


「こんな、ちっこい奴を追い回して!」

「そいつがいれば、ことが簡単だからな」

「ぼくを破壊すれば、本体に信号が発信される」

「本体?」

「さっき話した七つの地球に関係がある。

 七つすべてを手中におさめるために、なりふり構わない奴らがいるんだ」

「侵略?」

「大帝国レムウル。

 残念ながら、ぼくの地球は彼らの地球担当大臣ソウド=ウルと司令官ランダ=ガリアらにより陥落してしまった。

 しかし、そのときに最後まで使用された最終兵器は、奴らに渡すわけにはいかなかった。本体って、それのことさ」


 本体? ルルウラ=レイの本体? 最終兵器? 人間じゃないの?

 それよりなに、侵略?

 並行宇宙の話すらないこの地球では、それもまだ知られていないのか。


「そう。それでわざわざこちらへいっしょに脱出してきたのが、その坊やさ」


 ルルウラ=レイ。

 その丸い身体に向かって、ザムザム=ギルはじりじりと間を詰めてゆく。


「ブレスレットはあとで回収する。いずれ必要になるからな。

 まずはお前だ」

「アオイ!」


 アオイは咄嗟に鞭の切っ先からルルウラ=レイをかばい、左肩にかぎ裂きができた。


「義体のぼくをかばってくれるなんて!」

「だって我慢できないよ、小さいものが目の前で傷つけられようとするなんて!」

「逃げて手当てをして!」

「こちらの地球も、バカなお人好しばかりのようだな」


 ザムザム=ギルの攻撃からアオイを引き離すために、他の四人も動きはじめた。


「自己犠牲の果てに。どこの地球も簡単だったなあ。命は大事にするべきだぞ。

 手始めにお前たち、まとめて始末することもできるんだぜ。依頼対象はその坊やだが、妨害者の処理を禁ずる契約ではないからな」

「……ブレスレットは、まだあるね?」


 ルルウラ=レイが、小声でアオイに言った。


「外してないと思う」

「みんな。手数をかけるけど、再起動するよ。さっき解除したときの要領で、もう一度ブレスレットに触れて!」


 ザムザム=ギルの鞭の切っ先が、より鋭く五人とひとりに迫る。

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