第22話 鍛冶屋

-聖なる宿り木-


冒険者ギルドを離れ、宿に戻ったクルス達は自室のベッドの上で休んでいた。香箱こうばこ座りをしているベルがクルスに聞いてくる。


『クルス、これからどうするつもりですの?』


「お昼を食べたら、鍛冶屋で武器と防具を買いに行くよ。やっと冒険者になれたのに、装備を何も持っていないのはまずい。それに鍛冶屋の武器はすべての少年の憧れさ」


なるほどと頷くベルだが、鍛冶屋にはさほど興味はなかった。


『それで鍛冶屋の場所はご存知?』


「下に降りたら、ドレイクさんに聞いてみる」


ドレイクとは聖なる宿り木の主人、紳士エルフの名前である。朝、ロビーに立ち寄った際に教えてもらった。ドレイクさんなら、良い鍛冶屋を知っているだろう。


宿の食堂で昼食をとったクルス達は、ドレイクのいるロビーに向かった。クルスの姿が見えるとドレイクは一礼して微笑む。やはり紳士エルフだ。


「クルス様、ベル様。お出かけでしょうか」


「その前に鍛冶屋がある場所を、ドレイクさんに聞こうと思いまして。良い鍛冶屋を知りませんか?」


深く頷いたドレイク。


「この街には多様な鍛冶屋がございます。何か希望はおありですか?」


「そうですね・・・。手頃な価格で、でもデキが良い店を・・・ちょっと欲張り過ぎました」


自分の言葉に苦笑するクルス。それに対してドレイクは思案顔になる。


「クルス様がご希望なさる、手頃な価格でデキ・・・質の良いお店はございます。ただ・・・その店の主人が、少し信念や意志が強い方でして・・・」


「信念や意志・・・つまり頑固な人なんですね」


クルスの頭の中には、自分が理想とする鍛冶屋が浮かんできた。店内には所狭しと並ぶ強い武器に丈夫な防具。そして店の奥の工房では、鍛冶職人の頑固親父が炉から出した真っ赤な金属をハンマーで叩いている。


「その鍛冶屋の場所を教えて下さい!」


※※※


-鍛冶屋-


目的の鍛冶屋は、他の鍛冶屋が建ち並んでいる通りから、さらに1本奥に入った裏路地にあった。ベルが難しい顔をして鍛冶屋を見ている。


『通りにある鍛冶屋と比べて、こじんまりとしますわね』


通りの鍛冶屋は店の前に豪華な武器や防具を並べていた。工房も通りに面して併設されていて、鍛冶の仕事が通りから見えるように、丸見えになっている。師匠と弟子が忙しそうに作業していた。どちらも行き交う人の足を立ち止まらせるための工夫だろう。通りには何軒も鍛冶屋があったが、どこも似たような造りになっていた。

それと見比べると目の前の鍛冶屋は扉しかない。それに店先に鍛冶屋とわかる物は一切ない。


「教えてもらわないと絶対にわからないよなぁ・・・」


まさかドレイクが嘘をつくはずはない。きっと店内は装備でいっぱいなのだろうと、クルスは考える。


意を決したクルスは鍛冶屋の扉を開いた。クルスの目に飛び込んできたのは、小さな店内にカウンターがひとつだけ。


「あれ?」


クルスはもしかして店を間違えたのかと、不安になった。店内を歩いていくと、カウンターの後ろにある椅子に寄りかかって、誰かが寝ているのが見えた。よく見ると立派なヒゲがある。ドワーフだった。


「む・・・?」


クルスの気配を感じたようで、ドワーフは目を覚ました。椅子の背もたれから身を起こし、眠そうな目でクルスを見つめる。


「何の用だ?」


「え・・・?」


戸惑うクルスを尻目に、ドワーフは再び背もたれに身をあずけた。


「ここはお前のようなガキが来るところじゃない」


「あの・・・ここが鍛冶屋だと聞いて・・・」


困惑するクルス。


「誰に聞いたのか知らんが、見ての通りだ」


「・・・」


とりつく島もない。ベルも難しい顔をしている。クルスはあきらめて扉のほうへときびすを返して歩いていく。そして扉の取っ手に手をかけた。


「待て。ここを誰から聞いた?」


突然ドワーフが聞いてきた。クルスは振り返って答える。


「ドレイクさんから・・・」


「ドレイクだと!」


突然の怒鳴り声にクルスは驚いた。


「せ、聖なる宿り木の・・・エルフの・・・」


「そんな事はわかっとる!あいつがなぜこんなガキに・・・」


カウンターの上を見つめながら、ドワーフがブツブツ独り言を言っている。クルスはその姿を不安そうに見つめた。突然、ドワーフがクルスを睨み付ける。


「おい。ドレイクとどういう関係だ?」


「え・・・今、ドレイクさんの宿に泊まっていて・・・」


今度はドワーフが驚いた顔をする。


「お前のようなガキがあの宿に・・・?」


ドワーフが不思議に思うのも無理はない。クルスは村にいる時と同じ格好をしている。クルスはまだ気付いていないが、この街を歩く人の格好と比べるとどこか野暮ったい。そんなクルスでも、宿ですれ違う他の客の格好は、自分は絶対なれない姿だと気付いていた。


「あ、あの・・・ドレイクさんとお知り合いなんですか?」


「古い付き合いだ。あいつの事はよく知っている。あいつがここを教えるとは・・・」


ドワーフが探るような目付きでクルスを見た。


「おい、ガキ。お前はいったい何者だ?」



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