第17話 聖樹教会

-聖樹教会-


聖樹教会の場所はベルが知っているらしく、街の中を歩くベルの後ろをクルスは付いていく。

程なくして教会が見つかり、クルス達は扉を開き、中に入っていった。教会内は静まり返っている。


「聖樹教会ってエルフが信仰している教会なんだよね?」


『その通りですわ。聖樹に思いを寄せる大切な場所ですの』


ベルは敬うような表情をしているが、教会には行っていたが信心深いわけでもないクルスは、全く興味がなかった。


「ふーん。それで教会に何しに?」


『もちろん大事な用事ですわ』


若い男性のエルフがクルス達に近づいてきた。


「こんにちは。人族がここに来るとは珍しいですね。どういったご用件でしょうか?」


「こんにちは。ご用件は・・・何て言うか・・・あの・・・」


『司教に話があると言うのです(ニャー)』


しどろもどろになっているクルスにベルが話しかける。


「司教様に話があってここに来ました。会わせてくれませんか?」


「司教様に話ですか。お忙しい方なので・・・」


ここで門前払いは困るので、クルスも食い下がる。


「大事な話なんです。お願いします」


「・・・わかりました。その長椅子にお座りください」


断られずにホッとしたクルスは近くにある長椅子に腰掛ける。


「司教様は誰にでも寛大です。きっとお会いになるでしょう。少しお待ち下さい」


若いエルフが奥に消えていった。


「司教って偉いんでしょ?」


『教主、枢機卿すうきけいの次ですわ。ただ人の教会の職位とは意味合いが違いますの』


よくわからないけれど、普段なら会おうと絶対に思わない人物なのだろうとクルスは思った。


ほどなくして戻ってきた若いエルフに、クルス達は教会の奥にある一室に案内された。

部屋には少し年老いた女性のエルフがソファーに座っている。そのエルフはソファーから立ち上がるとニッコリとした笑顔でクルス達を出迎えてくれた。


「いらっしゃい。そこのソファーにお掛けになって」


クルスは言われた通りにソファーに腰かけた。ベルもちょこんとソファーの上に乗る。年老いたのエルフも向かいのソファーに座った。若いエルフは後ろの椅子に座っている。


「人族の少年をここに迎えるなんてあまり無いのよ。それに行儀の良い猫ね。私はフィーリア、司教をやってるわ。さっそくお話を聞かせてもらうおかしら」


「クルスです。こっちの白い猫はベルといいます。話というのは――」


『その前にお人払いをお願いしてくださいな(ニャ)』


ベルに小声で遮られ、バツが悪そうな顔をするクルス。


「えーと、司教様以外に聞かれるとちょっと・・・」


「・・・わかりました。エルマーさん、遠慮していただける?」


クルスを見ていたフィーリアが少し目を細めた後、若いエルフに視線を向けた。


「大丈夫ですか?」


退席させられるとは思っていなかった若いエルフが少し心配そうな顔でモーリスに聞き返す。


「私は大丈夫です。あとでまたお呼びしますね」


若いエルフは頷くと部屋を出ていった。フィーリアは再びクルスに視線を戻す。


「さて。ここにいるのは私たちだけです。それでどんな大事な話を聞かせてくれるのかしら」


「すいませんでした。話というのは・・・」


『わたくしの言うことをそのまま伝えてください(ニャン)』


ベルが小声でクルスに話す。


「えーと・・・」


業火の訪れ抗えず、とき止まりしの魂

戦火の訪れ過ぎし頃、三つが一つと成す

とき止めしの力よりの魂、復活せん

三度みたび火の訪れ、終わりに近し


ベルが言った言葉をそのままフィーリアに伝えた。クルスは言葉の意味が全くわからなかった。フィーリアは黙ってクルスを見ている。


「・・・どうしてその言葉を?」


「え?」


先ほどの笑顔とはうって変わって真面目、いや怒っているような顔をしているフィーリアにクルスは驚いた。


「クルスと言いましたね。あなたはどうしてその言葉を知っているのですか?」


「それは・・・」


どう返事をすればいいのかわからないクルスは言い淀む。


「それを知っているのはエルフでも限られた者だけです。なぜ人族であるあなたが?」


(どうしてこんな目に・・・こうなったら・・・)


モーリスの追求に耐えられなくなったクルスは真実を話そうと決めた。


「・・・ベル・・・その猫から聞いたんです」


「猫・・・?」


怪訝な顔を浮かべるフィーリア。


『クルス、モーリス司教はご健在かお尋ねになって(ニャー)』


「ベルが言うにはモーリス司教はご健在なのかと」


クルスからモーリス司教と聞いてフィーリアは少し驚いた顔をする。


「モーリスは・・・父は何十年も前に亡くなっています・・・なぜ父を?」


『モーリス司教にはお世話になりましたわ。モーリス司教の子供・・・いつもクレオスの周りを回っていた小娘ですか(ニャン)』


クルスはベルの言葉をそのままフィーリアに伝えた。フィーリアは更に驚く。


「クレオスというのは初代国王のクレオス様の事ですか?私が幼子の頃、クレオス様がこの街に来られたとき、遊んで頂いた記憶があります。もう150年くらい前の話ですよ・・・そういえば、クレオス様と一緒にいた白い猫・・・」


フィーリアがハッとした様子でベルを見る。


『さすがエルフですわ。長く生きているだけあって察しが良い(ニャオ)』


「そういうことですか・・・」


クルスが間に入らなくても、フィーリアにはベルが何を言ったか分かったらしい。


※※※


クルスはフィーリアにこれまでの経緯いきさつを説明した。そして今後の予定を話す。


「冒険者をしながら王都に行って、英雄王の墓参りと元王妃様に会う予定なんですけど・・・」


『元王妃様と謁見できる書状をしたためてほしいからここに来たのですわ』


「元王妃様と謁見できる書状をしたためてほしいので、ここに来たとベルが言っています」


最初の笑顔に戻ったフィーリアがうんうんと頷いている。


「司教である私の書状なら元王妃様への謁見も可能です。喜んで一筆書きましょう。後日お渡ししますね。ところでこれから宿を探すとの事ですが、決めているのですか?」


クルスはこの中から選ぶつもりだと、宿泊場所が書かれた用紙をフィーリアに手渡した。渡された用紙を見てフィーリアは少しだけ目を細めた。


「悪くはないですが・・・」


フィーリアは不意に立ち上がると机に向かう。紙に何かを書いたようだ。ソファーに戻ってくると、クルスに手渡した。封書してある。


「教会の近くに"聖なる宿り木"という宿屋があります。そちらに泊まりください。それは紹介状です」



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