終幕

別れ

 これが、事故後二十万年が経過したキューブ内の生物達の一部である。


 彼等はヒトの末裔であるホモ・キュブリストを除けば、ヒトの手により連れてこられた種を祖先に持つ。母なる星から遠く離れた場所で、帰る事も出来ない彼等を、哀れに思うかも知れない。

 しかしその哀れみは無用なもの。

 キューブに棲まう彼等は、キューブで生まれた存在だ。キューブこそが母なる大地であり、キューブの環境に適応した。今更新たな星に連れて行かれても、彼等からすれば住心地の悪い場所でしかない。

 生まれた場所が何処であるか、自分の起源がなんであるか。普通の生物は気にしない。そんな事は気にする必要もないからだ。生まれた場所で生き、より多くの子孫を残したモノだけが繁栄する。ルールも秩序も決まりもない生物界で、唯一の『法則』がそれ。キューブの生物だろうと例外はない。

 これからもキューブの中で、生き物達は世代を重ね、進化し、時には絶滅し、命を繋ぐのだ。


 ……さて。少し、話を変えよう。


 今回観察したキューブは、六つある中の一つが事故で分離したもの。では他の五つはどうなっただろうか?

 結論から述べると、彼等は無事移住先の惑星を見付けた。地球から旅立って一千九十九年後の事である。

 移住先の惑星は生命こそ存在しないが、原始的な地球と酷似していた。そのため移住可能と判断され、光合成生物の放出などを経て惑星を改良。ヒトの生活に適した環境となった後、文明が作り上げられた。

 しかしこの試みは失敗した。

 新たに作り上げた環境は、地球ほど複雑な生態系をしていなかった。そのため気候が容易く変化し、安定しない。また特定の化学物質の分解を行える種がおらず、汚染物質も蓄積していく。

 環境汚染と大気変動。未熟な文明はこのダブルパンチに耐えきれず崩壊してしまう。そして未完成の惑星環境は、ヒトの生存に適したものではない。

 移住した星でのヒトは一千年と持たずに絶滅。野外に放った動植物も滅びた。とはいえ微生物は流石に息絶えてはなくて、星の生物の『起源』として繁殖を始めている。


 ヒトの移住は失敗した。では地球のヒトはどうなったのか?

 そちらも、終わりを迎えている。


 そもそも何故ヒトは地球からの移住を考えたのか? それは地球環境が限界を迎えていたからだ。汚染と破壊により、海洋無酸素化や酸性化などの様々な環境問題が起こり、ヒトが生きていくのに向いていない世界となりつつあったのがキューブ製造時の地球情勢。

 移住先が見付かればそのまま全員で移動する算段だったが、計算よりも環境変化が激しく、最後まで持たなかった。文明は維持出来なくなり、細菌とそれに類する原始的な生物ばかりが栄える。尤も、持ったところでその移住先は文明の存続に適さない地だったが。

 ヒトは絶滅し、生き延びた小さな生物が細々と地球を覆うのみ。


 ヒトの血縁は、今や壊れたキューブの中にしかいない。

 しかしそれを悲しんだり、哀れんだり、理不尽に思う必要はない。生命とは様々な環境に分散しながら、それでも唯一適応的だったモノが生き残るのが常。事故に遭ったキューブのヒトが、偶々そうだっただけ。

 それが、この世界のヒトと生き物が辿った道なのである。

























 と、いう具合でとある世界の生物を見てきたが、どうだったろうか?


 興味深かったか? 面白かったか?

 そうであるなら、私としても嬉しく思う。


 ……さて。そろそろ君の意識も現実に戻る頃だ。


 名残惜しいが、話の切りも良い。ここらで話を終わらせるとしよう。

 そしてもしも君がまた此処に来たなら、また別の生き物の話をしようではないか。


 どんな生き物が良いかな? 今回は地球の生命から進化したモノだったが、次は異星の生物について取り上げよう。それも狭い箱庭の中ではなく、広い宇宙を舞台にする存在。


 単身で星をも破壊する、宇宙の悪魔が誕生するまでの進化を、じっくり紹介するとしようか――――

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箱庭の生態系 彼岸花 @Star_SIX_778

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