オープニングⅣ

長かったオープニングも今回で最後。


・早暁の旅立ち


 途方に暮れる様に、座り込んでいた僕を、助け起こし問い質す人が現れた。ワリムと名乗った老人は、混乱をきたした僕のたどたどしい説明をきちんと聞いてくれた。

 そしてその後マウアーを秘蔵の魔道具だと言う杖を使い氷の棺に閉じ込めた。


「よいか、心を落ち着けて聞くのだ」


 この言葉の後にワリムさんの説明が始まった、集落が太古の邪悪な女神が原因の霧に覆われている事、ニオ兄さんはマカブの民を利用して吸血鬼になった事。

 激痛が走った左胸に刻まれた黒蓮の印が、その証だという事。

 いまなお、この印を刻まれた集落の皆は眠りながら女神に命を奪われるのを待つ身である事。

 だが、生贄で唯一起きている僕がこの霧の外に出ていれば儀式は完成しないという事も同時に聞かされた。その為、ニオ兄さんも完璧な吸血鬼にはなっていないとも。 

 だがいつまでも完璧な吸血鬼に慣れないでいればニオ兄さんは僕が生きて居る事に勘づき殺しにくるだろう。

 ワリムさんは長年にわたり“始祖神”ライフォスの神官として加護も受けていた事もあり僕の様に生贄の証の黒い蓮の印も受けていない。

 マウアーは不完全とはいえニオ兄さんと血の契りを結んだ事により不完全ながらも目覚めた時には吸血鬼となっているかもしれない、1年間、そのわずかな時であれば魔法の杖の氷の棺の力で変じる事無く眠らせる事が可能だそうだ、それ以上は病魔に侵されたワリムさんの身体が先に参ってしまう可能性がある。

 つまるところ、マウアーを救うにはその僅かな1年間の間に吸血鬼を人に戻す手段を探さねばならないのだ。ただマウアーの吸血鬼化と村の人々の儀式は別物だ、どちらか片方をどうかしても、一方の解決は為されないのだ。


「神の力も、吸血鬼の力も、非才の僕の身では、どうしようもないですよ」

「ああ、人の身に余ることじゃろう、じゃが、〈時の卵〉ならばどうだろう」

「…………〈時の卵〉?」


 〈時の卵〉それはかつて“黄金の魔法王”と名高きマイドゥルスが生み出したる黄金九至宝の一つだそうだ。その力は人や物の時間を巻き戻し、元の状態に復元する力があるそうだ、これを使えば、マウアーの吸血鬼化、魔法陣の儀式、どちらも無かった事にする事が出来る筈だ、しかしそう都合よい代物ではなく〈時の卵〉は一度使う事でその力を失ってしまうとの事だ。


「それでも、それでも可能性があるのは、その〈時の卵〉だけですよね」

「そうだろうの、〈時の卵〉の在り処については、わしも知らん、じゃが」


 〈時の卵〉を探すならばアシム・マハードを尋ねよ、その言葉を最後に語り終えてワリムさんは僕に進退をどうするかを問い尋ねた、妹を助けるか、集落の皆を助けるか、今はそれを決めかねれない、でも僕はここで朽ち果てる訳にはいかない。


「やります、僕は〈時の卵〉を手に入れて見せるッ! そして、皆も妹も全員が無事に助かる未来を掴み取って見せるッ!」

「うむ、儂はここで待っておる、妹さんの事は任せておけ」


 ワリムさんはここでライフォスの結界でニオ兄さんの襲撃から自分を守りながら、妹の棺を維持してくれるらしい、今はそれを信じるしかない。

 霧を避けるが為に集落に戻らずワリムさんから貰った僅かな荷物を頼りにオアシスから小舟を漕ぎ出す、暁が昇る頃、僕は故郷を旅立つのだった。


「っく、なんとしてもゼルガフォートに行かないと……なのに」

「うん? クロノじゃないか! なんだって集落の外に出てるんですか!」

「その声、もしかしてバゼルさん?」


 ワリムさんからゼルガフォートまでの地図こそ受け取っていたが、砂漠には目印となるようなものも無く、僕はこの2日間、波打つ砂の海を彷徨い続けていた。

 星の巡り合わせかライフォスの巡り合わせか、その時の僕はどう思ってたっけか、もう駄目だと思ったその時、集落の顔なじみの行商人バゼル・ドゥワリさんと奇跡の出会いを果たしたのだった、水と食料を分けて貰いながら、僕はここまでの経緯を話した。


「ほ、本当ですか、あのニオがそんな事を、クロノ、よく無事でしたね」

「はい、無事だからこそ、僕はゼルガフォートに行かないとなんです、バゼルさん」

「無論、クロノの勇気に応えさせてください、ゼルガフォートですね」

「ありがとうございます、このご恩は必ず、目的を果たした時には」

「お気遣いなく、そうだ、あの集落じゃ外の世界についても聞いた事ないでしょう、ゼルガフォートにつくまでにその所を説明いたしましょう、それと何も持たないままじゃ危険でしょうから、武具なんかも融通致しますよ」

「何から何まで、ありがとうございます」


 バゼルさんはニオ兄さんの所業と太古の女神の儀式のそれに戦慄を覚えながら、僕の頼みを受け入れてくれた、それだけでなく、集落の外の世界の常識や知識を教えて貰えた、そして7日後。僕はなんとかゼルガフォートの城門に辿り着き、その街へと入る事が出来たのだ、砂の波濤をこれ以上は通さぬと築かれた堅牢な城門の先には何が待ち受けてるだろうかしかし例えなんだろうと、僕は負けてはいられないだろう。


「古いもので商品にするには見目の悪い物ですが、性能は問題ない筈ですよ」

「重ねて御礼をありがとうございます、それとですが」

「ああ、マカブに近づかない様、顔見知りの方々には話を通しておきます」

「大した礼も出来ないのに、頼みごとを任せてすみません」

「危険な場所をいち早く把握できるのは願ってもございません、それと、何かお困りの事が起きたら、私は〈竜のねぐら亭〉と言う宿に泊まっております、いつでも」

「ええ、何かありましたら、その時は、それでは!」


 バゼルさんは最初に会った時の約束の通りに僕に武器と防具、それに加えいくらかの必要物資とガメルを譲ってくれた。僕からはマカブであった出来事をなるべく方々に振れ回って貰う事を頼んでおいた、そして別れ際、バゼルさんはまだ僕に手を差し伸べてくれるそうで、居所を教えて貰った、本当に優しく頼りになる人だ。

 だが、ここからは僕一人で何とかして見せる、待っててくれ、マウアー、皆!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 といった具合でオープニングが終了、長い、長い、まだ判定もしてないんですよ。

まぁTRPGと言えばRP、キャラクターを動かしてナンボですしね。でも次からはとうとうクロノが色々と冒険や調査を始めると言った感じですよ。

 ちなみにクロノはバゼルに色々と教わったから冒険者ギルドや遺跡ギルドの存在は知っている、その上で、自分の目的は冒険では無いという事で“放浪者”を選んだ。

 装備品、持ち物、所持金は女神の霧によって集落に戻る事の出来なかったクロノを慮りバゼルが提供してくれたよ、これはサプリにある通りだな。そして最後に


・冒険の目的

 大前提として「〈時の卵〉の入手」となっている、そしてこの方法以外に「マウアーを人に戻す手段」「マカブの人々を救う手段」これらが見つかる事があれば、より幸福なエンディングを迎える事が出来る筈だ。そして、冒険の中途でニオに襲われる事もあるだろう、その時、ニオを倒せる事が出来るだけの力があれば「ニオの討伐」

これを為す事も出来るだろう、為した暁には、この冒険の発端となった事件に確かなケリをつける事が敵うはずだ。


 さぁ、その為にもまずはアシム・マハードを探し出し〈時の卵〉の在処を聞き出しに行かなければならない


【第一話「陰謀の幕開け」】に続く

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