第6話 私も大人になったら空売りとかしてみたいなぁ

 家に帰りのんびりと時間を過ごす。

 結局ふわりちゃんは自己流で勝負すると聞かなかったので、基本的なことだけを教えて解散となった。


 まあ50万円の範囲で勝負だし、お家もお金持ちなら人生がどうにかなるわけでもないし、そこまで心配しなくても大丈夫かな。

 一度負けた方が今後のためにもなるかもしれないし。


 ベッドの上でそんなことを考えていると、「ただいまー」とお姉ちゃんが帰ってきた声が聞こえる。

 私はさっそくお姉ちゃんのところへむかった。


「お姉ちゃん、おかえりなさい」

「あら、どうしたの香奈ちゃん。なにか嬉しそうね」


「えっとね、私ね、お友達ができたの!」

「あらそう、よかったわね~。香奈ちゃんが幸せそうで私も嬉しいわ」


「うん。まあ実はまだお友達じゃないんだけど」

「え? どういうこと?」


「株で勝負して、私が勝ったらお友達になるの」

「……香奈ちゃん、今日は一緒にお風呂に入ってお話ししましょうか」


「あ、ごめんなさい。今日はもう入っちゃった」

「が~ん」


 というわけなので、お話は晩御飯の時にすることになった。

 お母さんも一緒に3人でご飯を食べる。


「ちょっと変わった子なんだけどね、やさしいんだ」

「そう、今度私もご挨拶に行かないとね」


「え~? そんなの大袈裟だよ~」

「ふふふ、そうね、香奈ちゃんのお友達だものね。……こっそり見せてもらうわ」


「え、何か言った?」

「ううん、何も。ちょっと寂しいって思っただけよ」


「寂しい? 私のお姉ちゃんはお姉ちゃんだけだよ? お友達ができてもそれは変わらないよ」

「お姉ちゃんのこと好き?」


「大好きだよ」

「はうぅ!! 私も香奈ちゃんのこと大好きだからね!」


 そんなやり取りをお母さんはニコニコしながら何も言わずに見守っていた。

 やっぱり姉妹の仲がいいとお母さんも安心だよね。


「あ、そういえば、その子お姉ちゃんのこと知ってるみたいだった」

「え?」


「風早ふわりちゃんって言うんだけど、お姉ちゃん知ってる?」

「……ああ、あの子ね」


「やっぱり知ってるんだ?」

「まあ、ちょっとね。まさかふたりが出会ってしまうなんてね……」


「お姉ちゃん?」

「これも運命かもしれないわね」


 よくわからないことをつぶやきながら、お姉ちゃんは私の食べかけのおかずをひとつ盗んでいった。

 なので私もお姉ちゃんのおかずを一品いただくことにする。


「それで株で勝負するって言うのはどういうことなの?」


 と、いきなりお姉ちゃんは話を変えてくる。

 びっくりして、奪ったおかずを落としてしまった。

 私のお皿の上だったのでセーフだ。


「あらあら、あんまりそういうのはよくないよ~? マイペースでやらないと」


 お母さんの言うように、勝負にこだわって自分のスタイルが崩れるのはよくない。


「大丈夫、私はいつも通りやるだけだから」

「そう、ならいいけど」


 お母さんはそれだけ言うとまたニコニコしながらご飯を食べている。


「まあ香奈ちゃんが負けるところ想像できないけど」

「そうかな?」


「うん。損はしないと思う。相手が勝つにはもっと稼ぐしかないってことね」

「ふわりちゃんならやりそう……」


「大丈夫よ、香奈ちゃんなら。それより勝ったらお友達というのがよくわからないけど」

「えっと、ふわりちゃんはお友達を作らないらしいんだ。奴隷ならいいとか言ってて」


「……奴隷?」


 お姉ちゃんの視線が鋭くなる。

 このままだとふわりちゃんの命が危ないのでちゃんと説明する。


「私はならないけどね。そういう約束だから。でも私が勝ったらお友達になってくれるって」

「そう、さすが香奈ちゃんね。負けないようにするなんて」


「うん、なんかお姉ちゃんのおかげみたいだけど」

「ふふふ、今度会いに行ってみるわ」


「う、うん」


 なんだろう、ちょっと怖い笑顔だ。


「そういえば、香奈ちゃんは今なんの株持ってるの?」


 私たちの話に区切りがついたところでお母さんが話しかけてくる。


「いろいろ持ってるけど、一番新しいのはこの前上場したVチューバーのところだね」

「珍しいわね。そういうの触らないと思ってた」


「えへへ、もともと好きだったからってだけなんだけど」

「いいんじゃない? 楽しんだ方がいいと思うし」


「でもちょっと上がりすぎてる感じもするから、そろそろいったん売ろうかなって思ってる」

「じゃあ私はそのタイミングで空売りするわ。売ったら教えてね」


「お母さんそればっかりだね」

「だって香奈ちゃんが買うと上がるし、売ったら下がるでしょ~?」


 お母さんが苦笑いしながら言うと、お姉ちゃんも「確かに」と同意する。

 自分でも思ってたけど、ふたりもそう思ってたんだ。


「私も大人になったら空売りとかしてみたいなぁ」

「あはは、香奈ちゃんが空売りしたらどうなるのかなぁ」

「それはもっと下がるんじゃない?」


「「「あはははは」」」


 今日も楽しい時間が過ぎていく。

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星花女子学園投資研究会~株から始まる百合物語~ 朝乃 永遠 @natunoumi

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