シニガミ

misaka

1人ぼっちの…

 遠い昔。

 あるところに、1人ぼっちの男の子がいました。


 彼の名前はシニガミ。


 シニガミが触れるもの、話しかけるもの。

 生きとし生けるもの、その全てが等しく、死んでしまうのです。


 両親も、友人も、優しくしてくれた、あの子も。

 みんな、みんな死んでしまいました。


 その度に、幼いシニガミは涙を流しました。


 出会わなければ、知らなければ。

 こんなに辛い思いをしなくて済んだのに……。


 彼にとって『出会い』とは、失うことでした。

 だから彼は決して、出会いを求めることはありませんでした。




 シニガミは現世と呼ばれるこの世界で、命を管理する仕事もしていました。


 色んな人が、色んな想いを抱えたまま、亡くしてしまった命。

 そんな命は天に登らず、現世にとどまろうとしてしまうのです。


 シニガミのもとには、そうした後悔を抱えた命が集まってきました。


 出会いと呼ぶにはあまりにも決まりきった、宿命。

 そのことに、シニガミが何かを思う事はありません。


 けれど。


 後悔を抱えた命がゆっくりと。

 時間をかけて、後悔に折り合いをつけて。

 やがて光と共に、天に旅立っていく。


 その様を見ると、シニガミは心が温かくなって、笑顔になることができました。


 苦しそうに嘆いていた、あの命が。

 怒って叫んでいた、その命が。

 寂しいと泣いている、この命も。


 シニガミ自身に何かできるわけでもありません。


 死んでしまった命は、たった1人でたくさん嘆いて、たくさん叫んで、たくさん泣いて、そして。


 やがては1人で立ち上がり、天に登っていくのです。


 集まってきた命との、そうした『別れ』は、シニガミにたくさんのことを教えてくれました。


 「言葉」が、大切な想いを伝えるためにあること。


 「身体」が、自分や誰かを傷つけるためでなく、支え合い、認め合うためにあること。


 笑うために。

 喜ぶために。

 楽しむために。

 ——生きるために、『心』があること。


 でも、シニガミである彼がそれを教える事はできません。

 彼が働きかけるたび、その命は亡くなってしまうから。


 だから、彼は願うのです。

 人間たちがその事実に気付くことを。


 彼は命との別れを通して、知っています。

 人間が、たとえ1人になったとしても。

 その命には、1人でも生きていくだけの強さがあることを。


 彼は誓います。

 もし、後悔の中亡くなる命がある限り。

 彼らが1人で立つ、その時まで。

 絶対そばにいてあげようと。


 そして、もし、未練を抱えたまま亡くなろうとする命があるのならば。

 そばに歩み寄り、1人で立ち上がることを祈って、静かに見守ってあげようと。




 今日もどこかで。

 人間以上に人間を知り、また、人間を信じる心優しい男の子が。

 死を前にした人間のそばに寄り添っているのかもしれません。


 いつしか彼は”死神”と呼ばれる存在になっていました。


 彼は出会いを望みません。

 ましてや、”会いに来る”ことなど、望んでいるはずがありませんでした。

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シニガミ misaka @misakaqda

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