続・私の中の黒い悪魔

ささたけ はじめ

悪魔が眠るとき

 私は私の中に一匹の悪魔を飼っている。

 私はいつも、その悪魔と闘いながら創作を行っている。

 そうして一年を過ごしてきた。


 *


 ――よお。


 なんだお前か。どうした。


 ――だいぶ俺様を受け入れてくれたモンだな。色々オチをつけ続けてきたおかげで、それなりの恩恵もあったんじゃねぇか?


 そうだな。おかげでたくさんの人に読んでもらえた。一部界隈では困った病気を持った人間として、認知もしてもらえている。


 ――ってことは、俺様が正しかったってわけだ。ヒヒヒッ!


 そうかもしれないな。


 ――なんだなんだ、今日はだいぶ従順じゃねぇか。張り合いがねぇな。


 なに――本当のことだからな。


 ――わかりゃいいんだよ!


 そうかい。じゃあ、俺はこれからKACの第七回作品創作に入るから、少し静かにしていてくれ。


 ――どれどれ? お題は『出会いと別れ』だって? この時期にピッタリだなぁ!


 まったくだ。本当に――ピッタリだ。


 ――じゃあ、今回もサクッとオチをつけていこうぜぇ。まずはいつもどおり慎重に、真面目でいい話のような雰囲気をかもし出してけ。この落差がキモだからなぁ!


 いや。それはもう――終わりだ。


 ――は?


 くだらないオチをつけるのは、終わりだと言ったんだ。


 ――な、なんだとぉ!?


 お前も俺の一部なら知っているだろう。


 ――何がだ! 知らねぇよ!


 とぼけるな。俺の作品『初詣の想い出~私の決意と願いの話~』が、『カクヨムWeb小説短編賞2021実話・エッセイ・体験談部門』の中間選考を突破したことをだよ。


 ――そ、それがどうしたってんだ!


 あの作品には今までのようにくだらないオチなどない。俺の過去を、赤裸々かつ多少の美化と誇張を含めて書いただけの作品だからな。それが、選考を突破したんだ。これがどういうことか――解るだろう?


 ――た、単なる偶然だ!


 違う。


 ――違わねぇ! あんなの、投稿時期がタイムリーで運良く読まれたってだけだろ!


 読まれたことについてはそうかもしれん。そもそも俺には、最初はカクコンに参加するつもりなんてなかったからな。


 ――そ、そうだ! 中間選考突破なんて、運が良かっただけだ!


 違う。選考を突破できたのは幸運なんかじゃない。作品に目をつけて参加を勧めてくれた人。レビューを書いてくれた人。コメントをくれた人。☆や♡をくれた人。そして何より――読んでくれた人たち。みんなのおかげで、この結果を手にしたんだ。


 ――だったらなんだってんだよ!


 俺は今まで、逃げていたんだ。


 ――は?


 お前という悪魔がいるから、くだらないオチをつけてもいいんだって。オチがくだらないから、作品が評価されなくてもいいんだって。そうやって、自分の作品と向き合うことから逃げていたんだ。


 ――。


 でも、今回のカクコンを経て俺は知った。きちんと書いた作品は、きちんと読んでくれる人がいる。それに結果が伴うこともある。だったらすべての作品に、きちんと向き合わなきゃ駄目なんだ。言い訳なんかしてちゃ駄目なんだよ。じゃなきゃ、読んでくれた人に申し訳が立たない。


 ――。


 だから、もう終わりだ。俺は今後、くだらないオチはつけない。


 ――真面目な作風にするってことか。


 それも違う。


 ――はぁ?


 俺は今後、はつけないと言ったんだ。


 ――何が言いたいんだ、テメェは?


 これからは――ちゃんとしたオチをつける。気恥ずかしさや誤魔化しじゃない、狙ったオチをな。そして同時に、オチをつけない作品も作る。


 ――なん、だと?


 俺が選ぶんだ。自分で。お前のささやきなんかじゃない、俺自身の意思で――オチをつけるかつけないかを、ちゃんと考えて選ぶんだよ。


――へっ。殊勝なこった。


 俺は一年前、カクヨムで創作を始めてお前と出会った。その後活動を続ける中で、内なるささやきに負ける自分、別のもののせいにしようとする弱い自分がいることを知った。そんな自分自身とは、金輪際お別れする。すべての作品の結果は、甘んじて俺が受ける。だからもう――その結果はおまえのせいにはできない。


 ――なら、これでお別れだな。


 ああ、そうだな。お前と過ごした一年間も、悪くはなかったよ。


 ――よせよ、気持ちわりぃ。


 そうか。


 ――そうだよ。


 じゃあ、最後にこれだけは言わせてくれ。


 ――なんだよ?


 一年前は言えなかった――「初めまして」。そして今だから言う――「さようなら」。


 ――出会いの挨拶ハローアンド別れの挨拶グッドバイってか。ここでお題に掛けやがったな。


 そういうことだ。


 ――へたくそめ。もっと周りの作品を読んで、せいぜい勉強するこった。


 ああ、そうするよ。


 ――じゃ、俺はおさらばするぜ。あばよ。


 *


 それきり、悪魔は私の中から姿を消した。

 いや――初めから、悪魔なんていなかった。

 そこにいたのは、私の弱い心だけだったのだ。


 それを知った私は、愛しき悪魔じぶんに再びたぶらかされぬよう――今日もこうして、画面ディスプレイへ向かい、キーボードを叩いている。

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続・私の中の黒い悪魔 ささたけ はじめ @sasatake-hajime

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