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「どこやろなって、道知ってるんじゃ……?」

 図々しい言い方とは承知していたが、言わずにおれなかった。それだけ風見の笑みが達観していて、ちょっと腹が立つものだったから。

 初名の言うことにしみじみ頷くと、風見は初名の方にぽんと優しく手を置いた。そして、告げた。

「地元のもんやからって、ちゃんと道知ってるとは限らんやろ」

「そ、そんな……」

 初名の抗議など無視して、風見はきょろきょろ周囲を見回していた。迷っているというのに、不思議と困ったり焦ったりといった様子がない。

「なぁ、その御守りやけど、長いこと持ってるんか?」

「はい。かれこれ5年以上は持ってます」

 風見は感心したように唸って、次いで、やけに神妙な面持ちで顔を近づけてきた。

「ものは相談やねんけどな」

「は、はい……」

「御守り……神社に行って新しいのん買うた方がええんちゃうか?」

「何を言うんですか……!」 

 がくんと項垂れた初名に対し、風見は悪びれもせず続ける。

「いやいや、ああいう御守みたいなんは、だいたい一年したら返納した方がええねんで。ちょうどええから新しいのん貰たらええやん」

 急に話す内容が言い訳がましくなってきた風見に、初名は思わず眉間のしわを刻んだ。

「つまりは、探すのは諦めたらどうかって言いたいんですか?」

「そういう選択肢もあるっちゅう話や」

「嫌です。私は、あれじゃないとダメなんです。ダメというか、意味がないというか」

 それまでと打って変わって強い語調で言う初名に、風見は目を丸くした。

「何でか、理由聞いてええか?」

 そう問われ、初名は一瞬、口ごもった。だが強く言ってしまった手前、話さなくてはいけないようにも感じていた。

「……昔、ちょっとだけ大阪に住んでたことがありまして」

「ほぉ、そうなんや。ご近所さんやったんか」

「その時から剣道をやってたんですが、引っ越しすることになって……」

「そら寂しいなぁ」

「だから最後の試合に出させてもらえることになって、すごく嬉しくて、お兄ちゃんと一緒にすごく一生懸命稽古してたんです。だけど、直前の稽古中に他の子とぶつかって転んで、足を傷めて……試合に出られなくなったんです」

「お、おぉ……それは、辛いなぁ」

「そうなんです。応援だけでも一生懸命しようって思ったんですけど、どうしても辛くて……そうしたら、お兄ちゃんが梅田に連れて来てくれたんです」

「ああ、それで露天神社なんか」

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