また、あした。

芦田朴

また、あした

ぼくは、隣町にある農業高校にいた。


 ここはぼくが普段通っている高校より、偏差値はかなり低い。校内は広いわりに生徒の数は少なく、雰囲気もどことなくのんびりしていた。


 一日署長というのがあるように、ぼくの高校では「一日転校生」という取り決めが始まった。

この取り決めは一日だけ他校で転校生として授業を受け、転校生の境遇に対していっそう理解を深めるという目的らしい。そしてこの転校が『一日だけ限定』という事は、私と先生以外には秘密にされ、生徒たちに知らされる事はなかった。


 ぼくはどこかのドラマで見たように、黒板の前に立ち、先生に促されてみんなに挨拶をした。ぼくが挨拶をすると、席についているみんなの視線が突き刺さり、鼓動が高鳴った。

 

 ぼくは一日だけの転校生だから、席は廊下側の1番奥の隅だった。ぼくが席に着くと、隣の女子が「よろしくね」と言って微笑んだ。


 ぼくは準コミュ障だ。昔から極端な人見知りで、初対面の人と話すのが苦手だ。だから高2になった今でも、今の学校に馴染めず、友達はいなかった。友達がいないことが定着すると、ぼくはクラスの部外者だった。授業中沸き上がるクラスで起きる面白い事も、テレビを見ている感覚だった。ぼくだけブラウン管の向こう側にいるようだった。

 

 こんなぼくだから本当は「一日転校生」にクジで当たった時は憂鬱で仕方なかった。いろいろと参加しない理由を考えたが、転校先が隣町の農業高校と聞いて、行くことに決めた。


 この学校には、中学の時ぼくに唯一優しくしてくれた女子がいたのだ。

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また、あした。 芦田朴 @homesicks

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