女の香りの中に仄かに香る男の匂い
『あの家に暮らす四人の女』三浦しをん(中公文庫)
在り来たりや平凡と言ったら語弊になるだろうが、この家に住む女性のやり取りを見ていると妙に昔見た朝ドラを思い出させる。女が四人も揃えば話には事欠かないというのが文面を見れば明らか。
性格も趣味趣向も当然違う。これが読んでいてなんとも微笑ましい。居心地のいい家。それが随所に現れているのだから、いつまでもここで暮らしたくなると思うのは当然だろう。それぞれのキャラがしっかり立っているところも見逃してはならない点だ。
像がぼやけると面白みも半減する。読み進めるほどにそれぞれの顔までが浮かんでくるようだ。
刺繍作家である牧田佐知は杉並にある古びた洋館に母親の鶴代と暮らしていた。ひょんなきっかけから佐知は雪乃という女性と知り合い、雪乃は週に一、二度自宅で佐知が開いている刺繍教室に会社の同僚である多恵美を見学がてら連れて来るのだが、多恵美はその場で教室の生徒になることを決めた。
やがてもろもろの事情を経てこの二人が洋館に暮らすようになるのだが、佐知は父親の行方を知らなかった。
つまりはこの家には男性はいないのである。しかしながら、敷地の中にある通称守衛小屋には一人の男性が住んでいて、その男性がこの家のことであれこれと世話を焼く。
この物語は谷崎潤一郎の「細雪」が下敷きになっているとのことで、四人の名前を聞いてピンと来た方もおられるのではないだろうか。ただし、なぞっているだけではなくしっかりとアレンジもしている。
善福丸なるカラスの親玉や川太郎と名付けられた河童などなど、意表を突かれるものも登場して一味違うドラマを見せてくれる。
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