空白の二日間に秘める熱きやさしさ
『半落ち』横山秀夫(講談社文庫)
すべてを自供した「完落ち」に対し、一部しか自供しないことを警察用語で「半落ち」と呼ぶらしい。
長年連れ添った妻がアルツハイマーを発症。その妻が壊れる前に殺してと懇願する。そして梶聡一郎はその願いを受け入れる。夫でもある梶は現職警察官でもあった。職業が違うにしろ決して他人事ではないと思われる方も多いのではないでしょうか。
突き進む高齢化社会に潜む現実を見せながらも焦点は自供を拒む二日へと移っていく。それをただのストーリー仕立てではなく刑事、検事、新聞記者、弁護士の目線で追っていくところが興味深い。と同時に人それぞれが生きていく上での苦悩を抱えているということも痛感させられる。
一見華やかに映る仕事の裏側をもこの「半落ち」は垣間見せ、より読者を苦悩の世界へと引き擦り込んでいく。立場の違いによる隔たり、さらには駆け引きと、唸らせる見せ場も盛りだくさんだ。
自ら出頭した梶がどうして二日間を隠したがるのか。仮に梶と自分が入れ替わったならば…。はたして頑なまでに口を閉ざすことが出来るだろうかと答えに窮する。いや、自問したところで答えなど最初から分かっている。無理だ。そう言わしめるほどの決意はあらゆる箇所から伝わってくる。
強い男なんだと思う。さらに優しさにも溢れている。そんな梶がなぜと思う反面、梶だからこそという言葉も湧いてくる。
嘱託殺人と言えど殺人には違いないが、いつしか梶の行く末をまるで身内のように気にかけてしまっていたりもする。こういう人ほど長生きをして新たな幸せを掴んでほしいと、本を閉じながら願った。
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