悪事は見習うな。だが男ならこう生きろ

『蘇える金狼 完結編』大藪春彦(角川文庫)


 大金を手中に収めんと東和油脂に勤める朝倉哲也は、その目的に危険を顧みずに突き進んでいく。上司である小泉の二号をヘロインで誘惑し、情報源として利用。さらには請け負った殺人をネタに会社から二百万株をせしめることに成功する。


 そもそも一般的に考えればこのあたりで万々歳なはず。サラリーマンが一生掛かっても手に出来ない金額だからである。もっとも私ならば二号も誘惑できずにストーリーはジ・エンドでハードボイルドのハの字にも満たない。


 しかし、この朝倉の野望はまだまだ続く。先の見えない荒野を歩いて行くかのようだ。まるで男ならこうあれと、なよなよした俗にいう草食男子を揶揄するかのごとく、強靭な肉体と何事にも屈しない精神で暴れまわる。


 そんな朝倉を憧れととらえるか、あるいは現実逃避して自らを朝倉に重ね、ひと時の非現実を楽しむのか、この辺りは答えに迷うところかもしれない。


 それにしても銃や車の描写はこだわりを感じる。こだわりよりもむしろ愛情と言っても過言でないほど、きめ細やかに書かれている。それと道路。現代の道路状況とはかなり違っているだろうが、文面通りに進めばその建物が見えてきそうなほどリアルだ。実際、そこを歩いたのか車で走ったのかと何度も考えさせられた。


 はたして平社員の朝倉がどこまで上り詰めるのか、完結編にはそんな期待がある反面、思わぬ結末が待っているのではないかと、期待と不安が交錯し、それがまたスリリングな展開に拍車を掛けてくれる。


 何があっても立ち止まらずに進め。この蘇える金狼の二巻からは力強いエールも感じ取れた。

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