【KAC20227】一期一会の唐突な出会いと別れ

宮野アキ

別れは唐突に

 とある国に、エルデルと呼ばれている街があった。


 その街には、冒険者ギルドと呼ばれている組織の支店があり、冒険者ギルドは街の住人が依頼を出せば何でも、代わりに仕事を担ってくれた。


 家の掃除や街のゴミ拾いなどの清掃雑務から、他の街に行く時の護衛や危険生物の魔獣討伐などの荒っぽい仕事まで何でも受け付け、その仕事を冒険者ギルドに所属登録しているクラン、又はチームに依頼を出す。


 そんなギルドから一人の男性が出て来た。


 彼の名前はレルン・アイストロ。


 レルンは冒険者風の恰好をした黒髪、細目。腰には、長物の刀と短刀を腰のベルトに差していた。


 そしてレルンはたまにはいつもとは違う道でクランに帰るかと考え帰り道を変えた。


 その場所は少し人通りが少なく、閑散としていた。


 そんな道をレルンは物珍しそうに歩いて居ると――


「……揉め事?」


 裏路地の奥、女性と男性の怒鳴り合う声が聞こえて来る。


 レルンは何を揉めているんだと思いながら。聞き耳を立てる――


「いい加減離して!!」


「離すかよ!借金を払って貰わないと困るからな!!」


「だから、そんな借金知らないって言ってるでしょ!!」


「言い逃れるつもりか?ここにお前の名前、ローズ・サルファートって書いてあるじゃねぇか!!」


「あの詐欺師が押し付けた借金を払う気なんてあるわけないでしょ!!」


 と聞こえて来た。


「…………はぁ、行くか」


 軽くため息を吐くと、レルンは声がする路地裏へと走って向かった。


 するとすぐに口論を続けていた小汚い格好の男性と腰に数多くのポーチを付けた長いブロンドをポニーテールにした茶色い瞳の女性の所へと辿り着く。


 男女はいきなり現れたレルンに驚き、戸惑いを見せる。


「――!!」


「なんだてめぇ!部外者はさっさと失せな!!」


「そうはいかないよ。俺の夢は、世界中の人々を幸せにすることなんだ。目の前に困っている女性が居るのに助けない訳にはいかないよ」


「なに世迷言を言って嫌がる!さっさと失せろって、言ってるんだよ!!」


 そう言うと男はレルンを殴り付けようと襲いかかる。だが、レルンは殴り付けようとしている男に怯むことなく短刀だけを抜き、軽く振る。


 すると男の上半身の服がいきなり消し飛んだ。


「――!何をしやがった!!」


「そんなに驚くなよ、簡単な風魔術でお前の服を切り飛ばしただけなんだから。でも、次は服じゃなく別の物が刻まれるよ。……命とかね」


「――!!…………」


 レルンの言葉に男はたじろぎ、冷や汗を流しながら一歩ずつ後ろに下がって行きながら女性とレルンを見比べると――


「……くそ、覚えていやがれ!!」


 そう捨て台詞を吐いてこの場から、逃げて行った。


 それを見送るとレルンは短刀を納刀すると腰から崩れ落ちていた女性に手を差し出す。


「怪我はない?」


「あ、ありがとう。怪我はないわ」


 女性はそう言うとレルンの手を取り、立ち上がると改めて頭を下げた。


「改めて、礼を言うわ。私の名前はローズ・サルファート。旅商人兼トレジャーハンターよ。助けてくれてありがとう」


「俺はレルン・アイストロ。冒険者でクランリーダーをやってる。……差し支えないなら教えてくれないか?一体、どうしてあんな奴に襲われたんだ?」


「……実は――」


 ローズはこうなった事の経緯を話した。


 隣街で商売をしていた時に儲け話を持ちかけられて、それに投資をしたらしい。


 だが、その投資の話は詐欺で金を奪い取られたそうだ。


 しかもそれだけじゃなく何故かその詐欺師の借金の肩代わりをする事になってしまった。


 仮に仕方なく借金を払う事にしても資金は全部持ち逃げされ、トレジャーハンターの活動しようにも目ぼしい遺跡は既にものけの殻になっていて稼げない。


 そうなれば逃げるしかないと考えてこのエルデルまで逃げて来たとの事。


「――とまぁ、そんな感じ。せっかくここまで逃げて来たのにもう追ってが来てるなんて思わなかった。……これからどうしよう」


「……ねぇ、ローズさん」


「うん?なんだいレルンさん」


「よかったらうちのクランに来ないか。うちのクラン発足したばかりで部屋は余ってるし、人手も足りないんだ。商人としての力を貸してくれないか?」


「……それは私にとっては願ってもない提案だけど……いいの?発足したばかりで私みたいな厄介者が加入したらクランが潰されちゃうよ」


「それは大丈夫簡単に潰される事はないよ。それにうちのクランのメンバーは一癖も二癖もあるからね。ローズさんの厄介事ぐらいうちのクランが引き受けるよ」


「……そうかい。それじゃあ、しばらくお世話になるね」


 ローズがそう言うとレルンは笑い掛け手を差し伸べ、握手をする。


「これからよろしく、ローズさん。クランに着いたら他のメンバーのシオンとマースを紹介するよ」


「シオンとマースね。その二人にあるのが今から楽しみだわ」


 そして二人は握手した手を解くと裏路地から出て行った。



◇  ◆  ◇



「……やばい。寝ちまってた」


 目を擦りながらレルンは机に突っ伏していた体を起こして辺りを見渡すが、誰も居なかった。


 あるのはソファーと机と椅子、部屋の奥には依頼を出すカウンター。


何処か冒険者ギルドに造りが似ているここはレルンがリーダーを務めているクラン【六対の翼】の本拠地。


 どうやら留守番をしている間に昼寝をしていたみたいだと、レルンは思いながら立ち上がると軽く柔軟する。


「それにしても懐かしい夢をみたな。ローズと初めてあった時の夢か……もうあれから七年経つのか、懐かしいな」


 そう先ほど見た夢の事を考えていると、クランハウスの入り口が勢いよく開かれた。


 腰に数多くのポーチを付け、うなじで切り揃えたブロンドと茶色い瞳をした女性、ローズが機嫌よく入って来た。


「はぁ〜さすが、マースが発足したサーカス団だよ。めっちゃ楽しかった!!」


「お帰りローズ。楽しめたようで良かったよ」


「あ、レルン。今帰ったよ!そうそう、レルンに話しがあったんだった」


「どうしたローズ、改まって……また何か変な奴に絡まれたのか?」


「今回は違うよ。……実は私、このクランをだったいしようと思ってるんだ」


「――!!いきなりどうしたんだ!何かあったのか!?」


「う~ん、何かあったと言えばあったかな。前の依頼でイガルとキガル達と一緒に魔獣調査の為に南の方に行ったじゃない」


「あぁ……それがどうしたんだ?」


「実は、そこで私が長年探索してみたかった動く遺跡。【移動要塞サイクロップス】の移動した痕跡を見つけたんだよ!!」


「え!?本当なのか!!」


 【移動要塞サイクロップス】は世界中を歩き回る不思議な遺跡でその建築物の詳細はまだ誰にも解明されておらず、中には莫大な財宝が眠っていると言われている。


 トレジャーハンターなら一度は夢見る幻の遺跡。


 その痕跡を見つけたローズはトレジャーハンター魂に火が付いた様だった。


 レルンもそんなローズの勢いに引っ張られていたが、冷静になる為に軽く咳ばらいをしてからローズに問う。


「ローズが長年追い求めていた遺跡の痕跡を発見出来たのは俺も嬉しく思うが……でも、なんでわざわざクランを脱退する必要があるんだ?」


「……そうか、レルンは知らないんだね。トレジャーハンターは冒険者以上に死と隣り合わせな仕事なんだよ」


「…………」


「過去の遺産。神代の時代、下手すればそれよりも前の道の遺跡を探索するわけだからね……ぶっちゃけいつ死んでもおかしくないのさ。なのに私がこのクランに所属してレルン達が代わりにギルドとクランの年会費を払って貰うのは違うとは思わないかい?いつ帰って来るか分からないのに」


「……そう……か」


 レルンはローズの言葉を聞いて天井を見上げる。


 そして、何か吹っ切れたのか深いため息を着くと、ローズに笑顔を向ける。


「ローズの話しは分かったよ。それがローズの幸せの道なら応援するよ。たとえどんな過酷な道だとしてもね」


「おう、ありがとうな。レルンならそう言ってくれると信じてたぜ!!じゃあ、私は行くな!!!」


「おい、ちょっと待てよ!もう行くのか!!」


「当たり前だろ!【移動要塞サイクロップス】は常に動き続けるからな。痕跡が残ってるうちにいかねぇとな!!」


「……そうか。出会いも唐突なら、別れも唐突だなローズ…………七年間クランを支えてくれてありがとうな、お前が居なかったらクランはここまで大きくならなかったよ」


「……はは、ありがとうなレルン。生きてたらまた会いに来るよ!!」


 ローズはそれだけを言い残すとクランを出て行った。


 突然ローズがクランを脱退したがレルンは決して悲しい気持ちにはならなかった。


 だってローズとはまた会えると何処かで確信を持っていたから……レルンはローズの去る後ろ姿を笑顔で見送った。

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