勇者が魔王を倒した後日譚 ~女魔法使いとの別れと再会~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

「くらええぇっ! 必殺・超絶奥義! ハイパーミラクルアターック!!」


「ギャアアアアァッ!!!」


 俺の一撃を受けて、魔王が断末魔を上げる。

 そして……そのまま倒れた。


「はぁ……」


 終わった。

 魔王を倒したんだ。

 これで世界に平和が訪れる。


「……ん?」


 ふと気付くと、後ろから誰かに抱き着かれた。

 振り返るとそこには……。


「勇者様!」


 女魔法使いがいた。

 彼女は涙を流しながら俺を抱きしめる。


「ありがとうございます勇者様! 世界の闇を払い、私達を助けてくれて!」


「いや、そんな大げさな」


「いいえ! 貴方がいなければ、この世界は終わりでした。本当に感謝しています!」


 そうか、俺は世界を救ったのか。

 もっと胸を張ってもいいかもしれない。

 胸と言えば、女魔法使いの胸が先ほどから俺の体に当たっている気がするけど、これはわざとなんだろうか?


「勇者様、これからどうなさるんですか?」


「うーん、そうだなあ……」


 俺は考え込む。


「世界が平和になったのなら、君といっしょに暮らしたいんだけど」


「まあっ!」


 女魔法使いの顔が真っ赤になる。


「わ、私が勇者様とですか? そんな、恐れ多い……」


「そんなことはない。この世界に召喚された俺を、親身に世話してくれたじゃないか」


「そ、それは当然です! 勇者様に何かあれば、世界を救えないじゃないですか!」


「それでもだ。それに君は美人だしね。正直言ってかなりタイプだよ」


「もう、勇者様ったら!」


 女魔法使いは嬉しそうな声を上げる。

 この感じなら、いけそうだな。

 両思いだ。

 俺がそう感じたときだった。


「……むっ!?」


 俺の体が薄くなっていく。

 光に包まれているようだ。


「なんだこれ?」


「ゆ、勇者様!?」


 意識が薄れていく。

 そういえば……。

 すっかり忘れていたが、魔王を討伐したら元の世界に戻れるという話を聞いたことがある。

 まさか、女魔法使いと両思いになった瞬間に帰ることになるとは思わなかったが。


「どうやらお別れのようだ……。元気でな……」


 俺は薄れゆく意識の中で、女魔法使いに声をかけた。


「いやああぁっ! 勇者様! ゆうしゃさまぁっ!!」


 悲痛な叫びをあげる女魔法使いの声を聞きながら、俺は元の世界に戻っていったのだった。


**********


「知っている天井だ」


 目が覚めると、そこは見慣れた自分の部屋だった。

 カーテンの隙間からは朝日が見える。

 朝の7時前といったところか。


「おーい! 起きなさいよー!」


 階下から母さんの声が聞こえる。

 懐かしいな。

 何年ぶりだ?

 この様子だと、地球と異世界の時間の流れは異なるのだろうか?


「はいよー」


 ベッドから出て階段を下る。

 リビングに行くと母さんが朝食の準備をしてくれていた。


「おはよう」


「あらおはよう。よく眠れたかしら?」


「うん、ぐっすりとね」


 母さんの作った朝ごはんを食べながら話す。

 何だか懐かしい味だ。

 溢れそうになる涙を押さえつつ、食事を終える。

 そして、身支度を整えた。


「じゃあ学校に行ってくるよ」


「はいはい。車に気を付けるのよ」


 玄関を出て自転車にまたがる。

 いつも通りの風景が広がっている。

 俺の住む町は田舎ではないけれど都会でもない。

 駅に向かう道にはコンビニもあるし、大型スーパーだってある。

 通学路もそれなりに人がいるし、信号だってちゃんとある。

 ただ少しだけ車が多いかなと思う程度だ。

 そんな風景の中を進んでいく。


「あれ?」


 ふと違和感を覚えた。

 なんだろう?

 いつもと違う気がする。

 …………。

 ああ、わかったぞ。

 自転車を漕ぐスピードが異様に速いんだ。

 異世界でたくさん鍛錬をした影響だろうか。

 やはりあの世界での出来事は、夢ではなく現実らしい。


「なら、魔法もまだ使えたりしないかな? ……ゲート! なんちゃって」


 俺は冗談交じりに、呪文を唱えた。

 一応は周りの目を気にして、人気のないところに差し掛かったときを狙った。

 ま、何も起きないだろうけどな。

 俺はそう思っていたのだが……。


「……へ? おわあぁっ!?」


 突如として目の前に出現した光の渦に吸い込まれてしまった。


「う、うう……」


 俺は訳がわからないまま、周囲をキョロキョロと見回す。

 そこは部屋の中だった。

 以前、一度だけ来たことがある部屋だ。

 ベッドや机が置いてある、ごく一般的な間取りだと言っていい。

 そのベッドの上では……。


「んんっ! 勇者様ぁ……。どうしていなくなってしまったのですか? 私を置いていかないでぇ……」


 下着姿の女魔法使いがいた。

 彼女はベッドに横になり、枕に顔を埋めて泣いていた。


「え? は?」


 どういうこと?

 俺が呆然としていると、女魔法使いが指を下着の中に入れた。


「勇者様、勇者様。ゆうしゃさまぁ……」


 そのままクチュクチュと音を立て始める。

 おいおい、何をしているんだ。

 まったくけしらかん奴だ。

 このままじっくり見させてもらおう。

 俺はそう思ったが……。


 ガコッ!

 うっかり、足元のゴミ箱を蹴ってしまった。

 大きな音が部屋に響く。


「ひゃあっ!」


 女魔法使いがビクリとする。

 どうやら気付かれてしまったようだ。

 ゆっくりと振り返る彼女。

 俺の姿を見た女魔法使いは、目を見開いて驚いた。


「ゆ、勇者様!?」


「やあ」


 俺は片手を上げて挨拶をする。


「ど、どうしてここに!?」


「いやあ、一度元の世界に帰ったんだが、転移魔法が使えるみたいでな。また戻ってきたんだ」


「そ、そうなんですか!? う、嬉しいです。勇者様!」


 女魔法使いが俺に抱きついてくる。

 下着姿のままなので、刺激が強い。


「俺もまた会えて嬉しいよ。……ところでさっきの続きを見せてくれないか?」


「えっ!? そ、そんなのダメです!」


「頼むよー」


「ダ、メ、で、す!」


 女魔法使いは頬を膨らませている。

 そんな仕草も可愛い。


 その後、俺と女魔法使いは正式に交際を始め、親交を深めていった。

 また、転移魔法の検証もしたのだが、どうやらこの異世界と地球を安定的に転移できるようだ。

 ただし、時空の流れの差異はまだうまく掴めていないので、そのあたりは調整が必要だが。

 これなら、女魔法使いと幸せな生活を送りつつ、母さんに孫の顔を早く見せてあげられそうだな。


「俺たち、幸せな家庭を作ろうな」


「はい、勇者様。今度こそ、ずーっと一緒ですよ」


 俺たちは互いに微笑み合い、晴天の空を見上げたのだった。

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