第7話小テスト


バラさんは執行とか何とか言い出したとたん眩しくなった。一部何言ってるか分からなかったけど。


めちゃくちゃ光ってる。その光がパーっと広がり俺も含めて包み込み何も見えなくなった。


「終わったよぉ。感想はあるかなぁ?」


何が終わったんだ?と思い辺りを見渡すと赤髪の女性やボスらしき人、横に立っていたはずのばあちゃんまでいなくなっていた。


急に腹痛でトイレな訳はないだろうし、バラさんの、さっきの光が何かしたとしか思えない。


「あの、ここにいた人達はどこに行ったんですか?」


「夢幻に行ったよぉ。あぁ夢幻の説明していなかったねぇ。でもまぁ、説明は別の機会にでもしようかぁ。それで感想は?ちなみにぃ、この村の人達全員が夢幻落ちだよぉ。だからぁ、この村には僕達魂だけしかいないよぉ。」


むげん落ち?危険な響きだ。しかも村人全員て。なんか思ってたのと違うんだが。スゲー恐いよバラさん。


「恐くないよぉ。魂は一部のアホを除けば同胞だよぉ?仲良くしようじゃないかぁ。調整というのは〜バランスを取る事〜、とても簡単な事のように感じると思うけどぉ、意外と難しいんだぁ。」


バランス?村人全員消して何とのバランスを?いやいや、まずは村人は死んだのか?


「あの、村人は死んだんですか?むげん?落ちは要するに地獄に落ちだってことですか?」


「僕は〜、神でもなければ、閻魔様でもないよぉ。夢幻ね、ゆめまぼろし。死んだと言って差し支えないよぉ。ここに戻す方法は知らないしぃ、少なくとも肉体は夢幻じゃあどうなるか分からないしぃ。」


こいつサラッと。やっぱヤバいじゃん。意味が分からん。


「何度でも言うけどぉ、僕達は同胞。傷つける訳ないよぉ。それにぃ、これは仕事だからねぇ?その辺の快楽キラーマシンとは違うからねぇ。」


その辺に快楽キラーマシンはいないと思うけど。


何の罪もない人をサラッと殺すって、どうしたらいいんだ。お願いすれば助けてくれるのか?


何で笑ってるんだこいつ。ああ、心を読まれてるのか。あまり見ないで下さい。考え事の最中です。


うんうん、て。


助けてあげないと、可愛そすぎるよ。ばあちゃんいい人だったし。兵隊さんも仕事しただけだしなー。


いや、ダメだ。忘れよう。これじゃあ繰り返すだけだ。前世で学んだはずだぞ。義理や人情より利と快楽が至上って。


困ってるからと、愛しているからと与えても、返ってくるものは猛毒を丁寧にラッピングした返礼品だけだったじゃないか。


ふぅ~。そうだぞ、ここで村人が助かるようにお願いして、どうなる?俺は人外。信用される訳がない。そもそも信用が無いんだから利を得る事なんて出来ない。寧ろまた攻撃されかねない。


お前の仕業かぁー!ってね。


残念だが、彼らの事は忘れよう。


少しだけ、やっぱり・・・。


いや、これでいいはずだ。もう、繰り返したバカを見るのは止めよう。頼む俺。


「ほうほう。人間の処遇には納得したんだねぇ。随分葛藤してたけど良い考えだねぇ。僕は利を与えられるよぉ。快楽は君自身で頑張らなきゃいけないけどねぇ。」


「利は早く死ぬ事です。だから、仕事を頑張って覚えますので、よろしくお願いします。」

「うんうん。分かってるよぉ。それでどこまで話したっけぇ?」


「バランスを取るのは難しいって事は聞きました。」

「そうそう。バランスねぇ。例えばぁ、11本の木がありますぅ。切るとしら何本切るぅ?バランスを考えてねぇ。」


11本なら1本でいいんじゃないか?


「1本がいいと思います。」

「理由は〜?」


「10本にすれば均等にバランスが取れるからです。5本と、5本。2本ずつを5個という感じですか?」

「なるほどぉ。では~、10本ならどうするぅ?必ず切る事ぉ〜。」


「2本切ります。」

「模範解答だねぇ。良く出来ましたぁ。ではもう一問〜。王様と御妃様とその息子〜、そしてそこの国民100人ならどうするぅ?」


急に人間が103人か・・・。


均等にするには一人だけ削るのか。そしたら2で均等に割り切れるよな。逆に105人に増やせば3で割れるけど、増やす魔法ってあるのか?一旦人数を減らす方で考えよう。誰を減らすか、か。


支配層の混乱は国民に大きな影響を与えると思う。消費税が上がっただけで日常があんなに変わったしな。王族が急に消えましたなんて、王国で起きたら日本よりもヤバそうだ。だから、国民から1人かな?


「国民から1人。老人がいいと思います。」

「優等生だねぇ。思考過程もいいと思うよぉ。では~、ある村の話をするねぇ。君ならどうバランスを取るか教えてねぇ。」




国王の寵愛を受けた下賤の民は身籠った。当然子供について認知される事は無いと誰もが思ったが、国王は随分その民にご執心だったらしく、妻として迎えたがったそうだ。


だが、妾ならいざしらず妻としては家格が釣り合わない。というか下民がなる事は無い。それでもと国王は半ば強引に5番目の妻として迎えたそうだ。子供も認知した訳だ。


当然、名家の息女である妻達は激怒。彼女らの家も権力や権威を用いて国王を扱き下ろす。だが、国王は動じなかった。この程度予想していたとばかりに。


だが、予想できなかったのは王太子が激怒する事だった。帝王学に心血を注ぐ王太子にしてみれば、ただの下民が王族になれる訳がない。これは貴族支配の根底を揺るがす害であると認識した。


ましてや認知された子まで身籠っており、自分との政争の具になりかねないと判断した。正当な貴族の血を引く者と王位を争うなら構わないが、下民が正当な王族に弓引くなどと考えた訳である。


彼は宰相や王妃達を纏め、更には王妃達の家、自分に味方してくれる諸侯を派閥に加え、半ば反乱の様相を呈した。


だが、王太子にしてみれば政権の簒奪が目的ではない。寧ろ善政を敷く国王にはまだ続けて欲しいとすら思っていた王太子は、国王に対して下賤の民の女、並びに腹の子を弑する事を迫った。下賤の民の女と、王位など比べるまでもないと考えての選択を迫ったのだ。


国王は本当の愛を感じていた。地位や権力という見えないものより愛という見えないものを選んだ。


国は乱れた。国を二分した内乱は国王派が辛くも勝利した。


しかし、下賤の民の女に対する風当たりは国王派といえども相当なものであり、処刑はしなくてもいいが、王妃の地位の返還と政治と関わりの無い辺境の村へ飛ばすようにと迫られた。


国王派として戦い、忠の篤い部下ですら国王に与する対案を出せなかったのを見て、分かったと言うしかなかった。


王太子、王妃達、並びに名家の諸侯たちは、処刑や、爵位剥奪、蟄居に、幽閉、この王の治世においては立て直しができる展望など見えなくなった。


下賤の民の女は深い森近くの小さな村へ送られた。


腹も膨らみそろそろ生まれる時期であった。


深い森は魔物の生息領域であり他国とも接していない。政治とは無縁で、魔物対策を考えていればいいと言う場所だった。


村人は誰ひとり、この女が国を乱した原因だと知らされなかった。


それから何年も経ちその村は随分と大きくなった。下賤の民の女が来てからは魔物が寄り付く事は無くなり、腹にいた子は快活な青年へと成長した。当然王の落胤だとは知らされていない、ただの青年だ。


そして村人は人間の血を少しずつ減らして行き、ついにはこの村が半魔の村となった。


下賤の民の女が魔人だった事が1つの要因であるが、何より集まった魔人が人間とほとんど変わらないという事実の方が大きかった。


初めは姿を人間に似せて生活し溶け込んでいた。だが、ちらほらと魔人の血を受け継いだ者達が生まれ始め、魔人だと明かす者も増えていった。


殆どはだからなんだとか、息子が頑丈になってよかったという反応だったが、中には当然忌避する者もいた。


魔人の容姿は受け継がず、大きな魔力に強靭な肉体を受け継いだ。そう、見た目はただの人間であった。

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