第6話バラさん執行する。

そこそこでかい建物に来ました。石造りの塀に囲まれたくすんだ銀色の平屋。ここからでは一面にしか見えないが、たぶん四角錐だろうの屋根が目立つ。子供が作った簡素だけど無駄にデカい家って感じ。門扉は両開きの鉄格子でオシャレとは言えないが堅牢そうな印象を受ける。


兵のボスらしき人が門の守衛に頷く。それを合図に守衛は鉄の閂をスライドさせめちゃくちゃ重そうな門が開いた。


ぞろぞろと兵に囲まれ、ばあちゃんが俺の手を引く。


椎の実型にくり抜かれた石壁に古ぼけた木製の扉、目を引くのはドアノッカーで、狗のような獣の装飾がしてあり、動作の邪魔にならないようにノッカーを咥えている。これは正直カッコいい。異世界って雰囲気がプンプンする。


ボスらしき人がノッカーを数回リズミカルに打ち鳴らす。扉の建付けが悪いのか、打ち付ける力が強いのか扉もリズミカルに揺れ、軋む。


内開きの扉はやはり建付けが悪いようで、ギシギシガタガタさせながら開かれた。中から誰かが開けたようだ。


「応接室を準備してあります。」

「ご苦労。」


赤髪の女性がボスらしき人と何やら会話しているが、何を言っているかサッパリだ。俺はとりあえず玄関で立ち尽くす。下手に動いて刺激しない為だ。


周囲の兵は外で待機するようで、ばあちゃんに手で「どうぞ」と示され、1つ頷き中へ進んだ。


長く広い廊下を進む。左右にはドアノッカーの代わりに文字が書かれている、さっき見た扉が等間隔にあり、変わった構造に窮屈さを覚える。ただの家でなく、兵隊の詰め所か何かだろう。


ズンズン奥まで進む。先導するのは赤髪の女性で、その後にボスらしき人、その後ろに俺、横にはばあちゃんがいる。ちなみに、手は離してくれた。


奥まで進むと正方形のホールに出る。ボスや赤髪の女性のように鉄製の胸当てや篭手を付けている者もまばらにはいるが、古代ギリシャの服っぽいやつと合わせて布を右肩を出して纏った男がやたら多いのが目につく。


兵隊の詰め所以外にも何か機能があるのかもしれない。


今思えば、ここにいる人達の服装は教科書で見た古代ギリシャっぽいやつだな。中世ヨーロッパが転生の定番かと思ったけど、中世も古代も分からんしいっか。


さて、黙々と付いて行ってるが、これは連行なのか招待なのか分かりません。もはや逃げること能わずな状況なんだが、通されたのはソファーのある一室。壁にはよく知らないおじいさんの姿絵がある。豪華な服飾と斜に構えた立ち姿からめっちゃ偉い人、つまり王様だろうね。村にまでこんな肖像画があるのか。あの国みたいだ。


ボスらしき人がばあちゃんに一つ頷く。訳が分からずキョロキョロすると、ばあちゃんが手を引いてソファーへと誘導してくれた。座れって事だよね?とりあえず座る。


俺が座ったのは二人がけのソファーでなんかの皮で出来てるんだろうが程よくしっとり、それでいてきめ細かく肌触りがいい。めっちゃいいやつじゃないの?これ。


正面にも同じソファーがあり、赤髪の女性が座る。正面に座らないのか。嫌われてる?いや、違うな。俺がソファーのど真ん中に座ってるからだ。ばあちゃん座るかな?どうぞ、と端へ寄り一応身振りで促したがかなり引かれた。引かれた?恐縮してるんだろうが、そこまで行くと俺が変態社長みたいじゃないか。


という事で、ばあちゃんに席を譲ろうとしたフリをしつつ端に詰めることに成功した。一応、赤髪の女性とは正対しないように逆サイドに詰めた。メンチの切り合いは勘弁だからです。


ボスらしき人は俺の後ろにいる。扉がある以外何もなかったはずだけど、まだ誰か来るのか?あー、もしかしたら、村長とか長老とかだろう。俺なんか、無抵抗とはいえ人外もいいとこだしな。偉い人に判断を仰ぐのだろう。


コンコン、来た来た。ちょっと緊張するな。お上りさんだと侮られたくないので空をじっと見つめる。視線が彷徨いそうになるが我慢する。赤髪の女性をチラチラ見て、気があると思われるのも心外だから、視線の置き場所はここでいいはずだ。


扉の方でボスらしき人と誰かの会話が聞こえる。その誰かの声が子供の様で拍子抜けした。それと同時に誰だか分かった。この世界に来て初めて話したし、色々教えて貰ったのもこの魂さんだ。何より、この状況を作った張本人ならぬ張本魂だ。


それで、疑問に思った。人間が嫌いというより見下していたが、何しに来たんだろうかと。


俺は死なない。それを前提に放り出したのは分かっている。ちょっと泣きそうだったし今は怒ってるけど、理解してる。社会学習、そう俺の為なんだろう。


で?上手くまとめられたようだから迎えに来たって事なのか?


うーん?人間を見下す奴がわざわざ村に来てまで俺の為に骨を折ってくれた、といえばそうなんだろうけど釈然としないな。


教育方針がブレブレなんだよな。自分の思想は心の奥に留めて仕事に集中すべきなのに。だから、こんなに変な社会学習になったのかな。


村を巡り人と交流。それから、俺のすべき仕事を宿に泊まりながら指導、こんな感じでもいいと思うんだけど。あのボロ負け且つ無様な入村劇から何を学べばいいんだろう。俺が弱いことは分かった。人間は強い?ばあちゃんは優しい?何だろう。





「分かったよぉ。さっさと始めようかぁ。」


コータ君は殺さなかったたんだねぇ。死なないから無抵抗に殴られ続けたのかなぁ?


ふむふむ。この村での試練とか思ってるねぇ。他にも指導法があっただろってぇ?早めに心の隠し方を教えよう。


転生してアホになるヤツではない事は分かったけど、僕らの仲間になれるかなぁ?頼むよぉ?


ボフッ。人間の唯一称賛できる点はソファーを作れるところかなぁ?ハハハ。


ん?何しに来たって顔だねぇ。ふむふむ。人間嫌いなのに、わざわざ俺の為に?ハハハ。前世はどんな悪人かと思っていたけどぉ、たぶん天性のお人好しだねぇ。それでだいぶ痛い目見たってところかなぁ。


それだけで"ガワ"があんなになるかねぇ。気になるなぁ。


さーてぇ、コータ君は何が始まるのかソワソワみたいだけどぉ、せいぜい僕のお眼鏡にかなうよう頑張ってねぇ。





「コータ君。お疲れさまでしたぁ。早速だけどぉ仕事の実地訓練をしますぅ。パチパチ〜。」


な~に言ってんだ。目の前に座ったボスらしき人が怪訝な顔してるぞ。


恐らくだが、バラさんはこの村でのチョイ有名人。何故なら、ボスらしき人、つまりは、この場の権力者が頼ったからだ。人外の対処に困った、そしたらバラさんが運良く村にいる!だったら頼んでみよう!


つまり、バラさんは力を持った人間だと思われてるんだろう、と推測してみた。


そして、俺とも会話できるバイリンガル。もしかしたら他の言葉も話せるかもしれないけど、現状ね。


だからこそだ。とりあえず、そこのオッサンと話せよ。話したそうにしてるぞ。


「君は調整人バランサーになってもらうという事は既に伝えたよねぇ。では~、何を調整するのぉ?疑問思っているねぇ?」

「いえ、あ、はい。まあでもなんとなく想像はできます。」


社会学習をさせるも、人間嫌いなバラさん。たぶん人間に関わらなくちゃいけなくて、関わるうちに人間の汚い腐りきった部分を何度も何度も何度も経験したんだろう。だから、俺が調整するのは・・・。


「ふ~ん。じゃあ何だと思う〜?」

「人間を調整するんじゃないですか?」


「おぉ!良く出来ましたぁ。実は人間だけではないんだぁ。この世界が君の調整すべき場所でぇ、そこに在る全ての生物や事物、更には地形、災害、天候、とにかく何でも君が調整すべき対象なんだぁ。唯一、調整不可なのは君自身だねぇ。」


「えーっと、まぁ、なんとなくは分かりました。でも、何でも調整って具体的に何をすればいいんですか?」


「見ててぇ。お手本を見せてあげるねぇ。」


「"調整人バランサー bあ3gwpttgおTj が執行するぅ"」

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