短編68話  数ある強く信じしあの笑顔

帝王Tsuyamasama

短編68話  数ある強く信じしあの笑顔

「いってぇー!」

「だいじょうぶ?」

「すげーいってぇー!」


恵美めぐみ! ばーんっ!」

「きゃーやられたぁ~」


「ぅえっ? なんで俺はうまくできないんだっ?」

「ゆっくんは、ここを通していないからだよ……ほらっ」

「すげー!」


「恵美髪長いなー」

「どのくらい長いのがかわいい?」

「いや、よくわかんねーし」


「もうゆっくん速いよぉ~」

「急げ! ナイギャモ(ナイトオブギャモン盤賽の騎士たち)始まっちまうよ!」


「ゆっくん一緒に帰ろっ」

「おう!」


「おはよーゆっくん……何してるの?」

「あ待て! ミニ四駆のパーツ落っことしたんだ! 動くなよ恵美……」

「一緒に探」

「待て恵美!」


「これっ。生活の時間で余った布を使ったの。お守りー……みたいな? あ、あげるっ」

「お!? 恵美この顔俺!? すげーな! さんきゅ!」


「……また、会おうね。こっちでまた会おうねっ……」

「ああ……泣くなよ。俺もまた来る。必ず来る」



 お互い親の事情で、小学校卒業とともに引っ越した、俺である南川みなみかわ 雪郎ゆきろう御堂みどう 恵美めぐみ。それはもう、幼稚園時代からの仲良しだった。

 もともと一学年の人数が二百人を超える小学校だったからか、転入や転校は、毎年のように何人かあった。

 慣れてしまっていたためなのか。まだ引っ越し先の住所がわからない、っていう情報を最後に、わかったときに伝える手段を考えないまま、お互い離れ離れになってしまったのは。

(せめて、年賀状の一通でもできてりゃなぁ……)

 お互いの引っ越すタイミングが同時だったため、住所も電話番号も知らない。引っ越し予定の大雑把な地域くらいは聞いたけど、そんなんでとても探せるわけでもないし。おじさんおばさんがどういうところで仕事しているのかー、とかも知らないし。


 引っ越した先で、中学校に入学。小学校までと違い、学校には学生服で通うことになる。

(恵美もセーラー服着てるんだろうか)

 最初こそ、知らない人ばっかり見慣れない景色ばっかりって感じで、ちょっと不安なところもあった。

 とはいえ学校生活に慣れてきたら、なかなかノリのいいやつが多くて。授業や学校行事や部活とかをこなしていくたびに、新しい友達は増えていった。

 中には、まぁそのなんだ。恋バナ恋愛話とかさ、そんなこと聞いてくる女子とかもいたけど。いるって答えたら、恵美のことを聞かれそうだから、そういう話をされるたびに「いない」とは答えていた。

(ここには! いない。みたいな!?)

 ……正直なところ。恋愛とか、そんなによくわかっていないところもあるかと思う。

 だから、こういう話題のたびに、恵美との楽しかった思い出がよみがえってくるけど、本当にそれは恋っていうやつだったんだろうか?

 ……そう疑問に思ったって、いつまで経っても恵美がそばにいるような感覚が、まだ残っているんだ。だからたぶん、これは恋で、これは好きっていう気持ち…………なのではないだろうかと、南川探偵は推測しているのであるっ。

 休み時間にひょっこり顔を見せにくるだとか。ランチルームでは偶然席が近くなるとか。掃除の時間にばったり会うとか。委員会一緒になるだとか。一緒に朝練朝の練習行くだとか。

 あるわけないんだけれども、そんなもしもが、よく浮かんでしまっていた。

(秘密基地とか作っときゃよかったかなー。住所わかったら、そこにメモ入れた封筒置いとくとかさ? それか、夏休みの何月何日何時何分何秒地球が何周回ったときに会おうぜとかさ?)

 今の俺では、あれやこれやと思い浮かぶっつーのに……。

 だれでもいいから、恵美の住所知ってる人、いないだろうか。って、これじゃ俺ちょっとやばいやつじゃね?

(でもさすがに俺、高校とかもこんな気持ちで過ごすのは、ちょっと……なぁ)

 もっと時間が経ったら、気にしなくなれるかもしんないけどさ。ずっと会いたいって思い続けるのは、そんなに悪いことなんだろうか……?

 恵美ともっかい遊びたいんだよ。今だからよくわかる。あんな優しくてノリのいい女子、恵美しかいない。また学校一緒になりてぇ。


(…………待てよ? 学校? そうだ小学校は!?)


『ごめんなさいねぇ、御堂さんの住所とか電話番号は、昔のしかないわ』

「そ、そうっスよね~」

 まあ、うん、なんとなくそんな気はしていた。

『あ、じゃあっ。御堂さんも何らかの事情で、小学校に電話をかけることもあるかもしれないから、もしかかってきたら、南川くんの今の住所と電話番号を伝える、というのはどうかしらっ』

 き、キタァーッ!

「うお! さっすが先生! お願いしまぁーす!!」

 見えないけど、頭を下げる俺っ。

『それじゃあ、親御さんから住所と電話番号を伝えてもいい許可をもらえたら、また電話してきてね』

「あざぁーーーっす!!」

 地元小学校、最・of・高さいこう!!


 俺は余裕で父さん母さんから許可をもらって、小学校に今の住所と電話番号を伝えた。

 これで後は、恵美のことを強く信じるだけだな……!!



 伝えた後は、気が楽になったのか、もっと中学生活を楽しめていたと思う。

 だんだんと恵美のことで悩む時間も、減っていったと思う。

 ちょこちょこ思い出しはするけど、手紙が来て文字が見られる。電話がかかって声を聴ける。そういうことを想像すれば、むしろ楽しみな気持ちの方も、出てきていたくらいだった。

(ああ。やっぱ俺、恵美のこと、好きなんだな)



 体育祭。文化祭。中間や期末テスト。職業体験。理科室で割っちゃった。美術で水ぶちまけた処理の手伝い。スポーツテスト。マラソン。考査とは別の基礎学力テスト。校内ディベート。調理実習。宿泊学習。社会見学。修学旅行……

 もちろん部活も頑張ったさ。全然目立った成績残せてないけど。でも友達はめっちゃ増えた。


 中学校では、本当に思い出をいっぱい作ることができた。引っ越してきてこの中学校になったが、ここでよかったと思っている。


 ……恵美から連絡が来ることは、なかった。



 俺は進路相談のとき、前いた小学校の近くにある高校へ行きたい、と言った。

 ここからは遠いので、通うのはちょっと厳しいとのこと。だが俺は、一人暮らししてでも行きたいと、ずいっ。

 この時に初めて切り出したが、親は一人暮らしいいっスよ! スタイルだった。

 先生は、学力的にはたぶん大丈夫、でももうちょっと点数取れたらもっと安全かも、って感じのことを言っていたので、いつもよりちょっとは頑張ったと思う。あ、あんまり予習復習に熱心っていうほどでもなかったけどさっ。



 一人で電車での長距離移動、ビジネスホテルというところに泊まる、ということをして、やってきた入学試験当日。

 ホテルは四駅くらい離れたところだったので、この朝、久しぶりに……思い出の風へ脚を伸ばした。


 試験が始まる前。早速俺のことを見つけてきた同級生がいた。そりゃこっちの小学生だったやつらからしたら、ここは地元の高校だもんな。あっちゅーまに久しぶり元気ぃ~の嵐。

 うん、やっぱり中学のやつらとは違う。あいつらももちろんいいやつらだけど、ここのこの雰囲気。ここにしかない。

 おかげで試験は、そんなに緊張してなかったかもしれない。


 試験が終わると、友達が俺を誘って遊ぼうぜってことになった。なんやかんやで九人も一緒に遊ぶことになって、記念撮影もした。

 ……まぁ。だれも俺の学生服の内ポケットにあるお守りには、気づかなかったようだけどな。


 試験会場にも、ここにも。恵美はいなかった。

 ああでも前期選抜は明日もあるんだっけ。ってまぁ、まさかねっ。



 中学校での卒業式でも、お別れムードで泣くやつ続出だったが、高校は結構みんなばらばらなところへ行くので、なんか小学校のときと比べて、離れ離れになるのが当たり前感が、ちょっとあったかもしれない。



 合格発表の日。


(……あった)


 たくさんの学生服とセーラー服装備者たちが集っている中、俺が自分の五桁の数字を見つけた瞬間。肩をとんとんされ、声をかけられた。

 この前一緒に遊んだ友達だった。お互い喜び合った。

(一瞬、はっとなったことは秘密だぞっ)

 俺はまた、ここで……過ごすのだ。


 学校内に公衆電話がふたつあるから、それを使って親の仕事してるとこに、合格を報告した。結果わかったらかけてくれ、って言われていたから。

 同じようなことを考えていた人は多かったので、結構並んでいた。



 やることやったので、軽く地元をお散歩。

 あの店まだあるなーここ新しい家建ったのかーとか思いながら、よく遊んでいた公園へ。


 恵美といちばん一緒に来た場所かもしれな……いって思ったけど、よく考えたら、後半は恵美の家に行くことが多かったと思う。

 前の恵美の家? もちろん公園へ来る前に通ってみた。知らないプランターが置かれてあった。

 ついでに俺の家も先に行っていた。大きい車と自転車が置かれてあった。


(あーやっぱちょっと寒いかな?)

 この公園は、団地内では割と大きい方。遊具もいろいろあるし。

 俺は背もたれのない、青いベンチに座った。っていうか、なんかどっと疲れたので、カバンを置いて横向きに寝ることにした。今俺一人だし。

 お空は青空ですねぇ。

(ふぅーっ……)

 ……なんだったんだろう、今のため息は。ああきっと、全力を出し尽くしたからさ。きっと。


(…………やべ、やっぱさみーよ)

 ちょっと目を閉じて寝たけど、やっぱ寒いので起き

「うあわ! わぎゃあーっ!!」

 いでっ。背もたれねぇからダイレクトに落ちた。こ、腰ぃ、ってか土が口に入った。ぺぺぺのぺっ。

(ってか今!)

 寝る前は、青空さんを眺めたのが最後の映像だっ。だが起きたら、青空さんよりも近くに

「大丈夫?」

「すげー痛ぇ……特に腰…………」

 俺はぺぺぺ終了、ゆっくりと顔を上げた。

 紺色のセーラー服に、白いスカーフ。文字はまだ見えない緑色のネームプレート。えりそでの線も緑。そして……

「……ま、まさか…………」

 俺は思わず、声が出ていた。

 そんな俺に両腕を伸ばしてくれている、目の前のこの、髪が長めで弾けんばかりの笑顔……

「ゆっくんっ」

 俺はまた、ここで……一緒に過ごすのだ。

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短編68話  数ある強く信じしあの笑顔 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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