出会い算はあるのに別れ算がないのはなんで?

明石竜 

第1話


「「どうも、デアイザンでーす。本日は皆さんお天気の悪い中お越し下さり、

誠にありがとうございまーす。」」

 三月下旬の日曜日、とあるショッピングモールのイベント会場にて、

招待されたあまり売れてない新人お笑い芸人コンビ、『デアイザン』による

ショートコントが始まった。

「今日は子ども達もいっぱい。春休みやもんね。みんなちゃんと宿題やっとる? 

あっ、春休みやから宿題無しか。遊び放題やね」

 ボケ役の水野くんがそう言うと、

「アホか。次の学年でついていけるように、今までに習った教科の範囲の総復習とか。

やることいっぱいあるやろ。良い子の皆、春休み勉強もせんと遊び回ってたらこいつ

みたいになってまうでぇ~」

 ツッコミ役の亀山くんが即突っ込む。


 アハハハハハハハッ!

「なりたぁい!」


 観客席の子ども達、そこそこの笑い。


「いやいや、なっちゃあかんって」

「俺子ども達の憧れになってるんか。嬉しいわ~」

「喜ぶな!」

「勉強の話題ということで、俺らのコンビ名の元になった出会い算みたいな、

〇〇算で思いつくもの挙げていきましょうや。足し算引き算掛け算割り算。それ以外にも何個かありますやろ」

 ボケ役の水野くんがこう問いかけると、

「鶴亀算」「流水算」「追いつき算」「時計算」「植木算」

 観客の子ども達も挙げてくる。

「それも算数で有名やな」

 ツッコミ役の亀山くん、

「俺はめっちゃ苦手やったけどな」

 ボケ役の水野くんはこんな反応。

「ロザン」

 子ども達がこんなことを叫ぶと、

「それ宇治原君と菅ちゃんのコンビ名や。俺らより遥かに人気があってテレビ番組、

特にクイズ系に引っ張りだこの」

 ツッコミ役の亀山くんはこう突っ込んだ。

「なんで出会い算はあるのに別れ算はないの?」

 観客の子どもの一人からこんな質問も来る。

「それ俺も疑問やわ。出会いと別れ、皆さんも年度末のこの時期特に実感しますやろ」

「やっぱ別れってなると寂しいもんね。寂しく感じるから出会った後離れていく距離とか時間とか速さ求める計算法も別れ算とは言わずに、旅人算いうもんね。おれ高校の頃、岬ちゃんっていう彼女おってんけど、いっしょに飯食った後別れ話されてめっちゃ寂しかったわ~。そのあとおまえと出会ったんや」

「俺とおまえ、俺はラーメン屋から、おまえはインド料理店から歩いて来て、同じくらいの距離にあるゲーセンで偶然出会ったから『デアイザン』ってコンビ名付けたんやったな」

「懐かしい。けどな、正直おまえすげえウザいねんマジで。おまえの趣味無理やり押し付けてくるし、金とかゲーム借りパクするし、おまえとの別れやったら嬉しいわ~」

「いや嬉しがらんといて~な、亀山くん」


                ☆


 このイベントを終えてから数日後、あのお笑いコンビは仲たがいしお互い出会いからまださほど年月が経ってなかったが、解散し別れたのであった。

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