H.Handcrew(エイチ・ハンドクルー)

KAHELENA

第1話 『イーストケース』

 

 マチは日本の南、沖縄の小さい町の古い一軒家に父と二人で暮らす十六歳の高校生だった。

 毎日がのんびり過ぎていく平穏な暮らし。裕福ではなかったが幸せな日々の連続だった。

 何日か前に大学で教師をしている父から電話があり、事態は急変した。


 考古学を研究する大学教授の父がまた転勤する事になったからだ。

 マチは小さい頃から転校に慣れていた。小学生までは東南アジアの国を転々とし、校歌を覚える前に次の学校に転校した。過去に一番長く居た国はタイだった。

 今回、しばらく落ちついていたはずなのに突然また転勤が決まった。行き先はアメリカでもヨーロッパでもアジアでもない『アマゾン』南米大陸に広がる広大な亜熱帯雨林地区に。

 父は興奮していた。

『ついにやったぞ!マチ!こんなラッキーな事は無いぞ!アマゾンだ!アハハハ!』

 長年研究したいと願っていた場所への転勤が決まった父はハイテンションで電話して来た。

『お前の事を話さなきゃいけないね。実は、父さんの大学時代の勉強仲間にね、ものすごく優秀な人がいてね。今カナダで学校を経営してるんだよ。運が良いことにそこに預かってもらえることになったよ』

「カナダ?」

 マチは焦りながら聞いた。

「お父さんが行くのはアマゾンよね?だから私が行くのはアマゾンの学校でしょ?」

『いや、そうなんだけど。カナダなんだ』

 カナダ?お父さんはアマゾンで私はカナダ?何?どう言う事?

『よく考えてごらんよ。未開の集落が点在するようなジャングルの奥地に学校なんてあると思うかい?父さんは明日出発して、二週間現地のキャンプに滞在するけど、その後は移動してしまうから電話も通じないんだぞ!凄い場所だろ?わはははは!』

「・・・・」

 マチは受話器を握りなおした。

『だからね悪いんだけど、カナダで何かあったら連絡取れなくなっちゃうから、電話が通じるこの二週間の間に引っ越してもらいたいんだけど』

 開いた口がふさがらない。

『研究は早ければ一年後に終わるけど、長引けばどれくらい伸びるかはわからないな。でも大丈夫さ!カナダの名門校に預かってもらえるんだ。沖縄に居るよりずっといいよ。なにせ寮があって、大学もある大きな学校だぞ?』

 年頃の繊細な娘の気持ちは考えていない。

 お友達と別れなきゃならない事とか、たった一人で初めて行くカナダへの不安とか。

 

 父は日本人離れした豪快な男で、そして驚くほどの楽天家だった。細かい事は気にしない。

 それに対し、娘のマチは小心者で真面目で大人しく、とにかく目立たないような静かな女の子だった。転校先でも一人ぼっちで居る事が多かったマチは昔から読書が好きで、そのせいで幼い頃に視力が落ちた。今では眼鏡をかけなくては目の前にいる友人の表情もわからないほどだった。度が強い厚みのある眼鏡をしっかりと掛けていた。

 マチにとって父が近くに居ない状況での始めて転校。不安が募った。

しかし、マチには寂しがっている時間も、くよくよしてる暇も無かった。

 

 那覇空港662便。午後二時三五分発。マチは沖縄を旅立った。

 たった一人、ボストンバックに簡単な荷物。マチが持っていたのはお世話になる高校の寮の住所と降りる駅の名前が書いてある簡単なメモ一枚。後は所定の場所に誰かが迎えに来てくれる。新しい土地で、新しい生活が待っている。

 窓から見える雲の様子をじっと見つめるマチの目は、不安と少しの期待と、父と離れ離れに暮らす寂しさを湛え、真っ黒に潤んでいた。

 しかし、本当にマチを待ち受けていたのはもっと別の未来だった。



 荷物はどれも航空便でマチが住む事になる高校の寮に着くはずで、彼女は空港に着いた時、手荷物は日用品を詰め込んだボストンバック一つだった。

 沖縄を出発して十二時間かかってようやくついたカナダ、バンクーバー国際空港で早くもマチは冷や汗をかいていた。

「バンクーバーは田舎じゃないんだわ・・・・どうしよう」

 空港は大きくとても奇麗だった。那覇空港に比べると何倍も広く、天上が高い。こんなに大きな空港で、背が低いマチは妙に小さかった。存在自体が頼りない。歩くスピードも大きなバックを持ってるせいでのろのろしていた。長い廊下を何度も迷い行き止まり、戻っては進みようやくバスターミナルに辿り着いた。

 その後、何とかバスに乗り込んでダウンタウンへ向かい、海を隔てた対岸にある『ノースバンクーバー』へと海を渡った。

 初めてシーバスに乗り込んだ。シーバスは大型の平たい形状をした船で、中は混雑していて大勢の人が乗っていた。マチは緊張で肩を縮めたまま十五分程シーバスに揺られた。

 窓から外を眺めると遠く出航した対岸の街、バンクーバーのダウンタウンが晴れ渡る太陽の光にきらきらと宝石のように輝いていた。

 これから行く高校『BCカナダ・メイン』はどんな所なんだろう。

 寮から学校までは歩いてどれぐらいかな。

 高校はどんなところかしら。勉強は日本ほど堅苦しく無いと聞いたけど。

 仲良くなれる優しい女の子がいてくれると良いな。早く校舎へ行きたい。





 マチが新しい学校に期待を膨らませている頃、メイン高校の美しい芝生が広がる木陰には大勢の大きな男達が隆起する筋肉を露わにその男らしい身体を芝生に横たえ、まるで狼の群れがくつろぐ様にして寝転んでいた。

 厳しい練習でしごかれた後の休憩だった。つかの間の休息に手に持ったミネラルウォーターを頭から浴びて筋肉の火照りを冷ます。全員がボーっと遠くのグラウンドを見つめる。間もなく十月に入るのに今日はやたらと暑い。

 冷めているのはあいつの目ぐらいだ。


 部員達はある事が気がかりだった。ここ二、三日ずっと彼の事を警戒している。

 一番奥で壁にもたれながら不気味な静寂を湛えて座る男の目の色を誰もが気にしていた。

 本気で注意しないと・・・・・

 過去の惨事を想像するだけで何が起こるか不安になった。

 

 メインの校舎は緑が多い。白い壁面と中世を思い起こさせるような重厚なレンガの太い柱、一年を通して暖かく穏やかな西岸海洋性気候のお陰で夏は爽やかな風が吹き、冬は緯度の割にさほど寒くない。明るい日差しが降り注ぎ校庭一杯に敷き詰めれた色鮮やかな芝生がいつも整備されてキラキラと輝き校内を明るく照らしていた。

 そして、今、バンクーバーは艶やかな紅葉の時期を迎えていた。学校中に覆い茂る巨大な楓と 白樺の大きな葉が風に揺らされてオレンジや赤に踊る。


 白く柔らかい色調で敷き詰められた校庭の石畳の長い道は様々な部活の生徒達がジョギングに使った。今日も遠くから黄色い掛け声が聞こえ始めた。

 校内一可愛い女の子達が揃っていると有名なチアリーディング部の一行が丈の短い薄いピンク色のお揃いのショートパンツを履き、白いTシャツの袖を折り返し、若くピチピチした素肌をさらしながらメインの敷地をグルグルと回り始めた。

 早速、男達の目が奪われる。

 テニスコートで練習中の男がボールを地面にバウンドさせながらラケットを打つ手を止めた。 

 彼女達がフェンスの真横を通って行く。彼女達の周りには蝶が舞っているんじゃないかと思うほどの華やかさだった。

 一行はテニスコートを通り過ぎ、アメフトのフィールド左手に見ながら、最後に通り掛かったのはアイスホッケーのリンク脇だった。

 楓の木の下で寝転がっていた狼の一団が直ぐに彼女達に気が付く。部員の一人が彼女達の来訪を知らせるために口笛を短く吹いて仲間の注意を引いた。頭に掛けたタオルをどかして見る。

 彼らはイヤラシイ顔と目つきを隠すことなく絡めつけるように彼女達の身体に這わせた。

 チアリーディング部に所属する彼女達は全校男子生徒の憧れの的だった。


 他の仲間が彼女達が通り過ぎて行く速度に合わせて顔を左から右へ移動させ、イヤラシイ想像を楽しんでいる頃、エイチだけは別の事を考えていた。

 

 エイチは昔から尋常じゃないくらい女にモテた。彼には道行く通りすがりの人でも思わず振向いてしまう程男としての独特のオーラがあった。ハッとするその整ったハンサムな顔立ちは一度見たら忘れられない。ほくろもニキビもソバカスも無い美しい肌にそれぞれのパーツがお互いを邪魔しない様に配置され、あまりにハンサムで一見大人びていて高校生には見えなかった。

 男らしい眉に透き通るような青い目、高すぎない鼻、こげ茶の癖の無い髪の毛を短く無造作な感じにして、殆ど笑わないので見えないが、雪のように白い奇麗な歯をしてる。

 肩幅があって長身、腰の位置が高く長い足が真っ直ぐで、まるでモデルの様にスリムな体型。

 彼は北米で人気のアイスホッケーの優秀な選手で、将来はNHLの金の卵と言われる有望な男だった。

 そんな彼は見るからに頭の良さそうな顔をしている。しかしそれは勉強が出来る優等生の顔では無い。悪い事を次から次に思いつきそうな、そんな顔だった。

 彼はその異様なまでに整ったルックスのお陰で女にモテるので有名だ。しかし有名なのはそれだけでは無い。

 目の前をチア達が通り過ぎた事にも顔色を変えず、彼は今日これから起こる事に青く冷酷な苛立ちを沸々とたぎらせていた。

「なぁ、エイチ聞いたか?」

 仲間のライダーが話しかけた。

「ああ。寮に入ってくる女だろ?」

 エイチは動かずに低い声で答えた。

「三時にシーバスがつくらしいぜ。寮に荷物置きに来るんだって」

 ライダーは今日のエイチの機嫌がものすごく悪い事に気付いていた。

 寮に季節外れの転校生の女が入ってくるという噂を聞いてからと言うものエイチはずっとイライラしている。

 誰が見ても彼が怒っているのが分かる。青すぎる瞳が怒りの炎を宿してる。

 そんな彼のご機嫌を取ろうと、チアの部長で校内一美人のリカが声をかけても彼は無視する程だった。

 誰もエイチを怒らせたくない。彼は一度キレると誰にも止められない。手がつけられなくなる。本当に誰にも。

「三時か」

 横にいたヤングがニヤニヤしながら言った。

「なぁ、美人ならまだしも、万が一とんでもないブスだったらどうする?」

 エイチは黒い瞳孔にブルーの線が放射線状に走る冷たい目をヤングに向けると、

「ブス?決まってるだろ?学長がなんと言おうが俺が追い出す。あの寮にだけは絶対住ませない」

 ライダーとヤングは顔を見合わせて眉を上げると芝から立ち上がった。

「早く行こうぜ監督がうるさい。次の休憩に入ったらすぐに行く。いいな」

 三人はリンクへ戻った。




 沖縄のマチの学級担任が説明するには空港からノースバンクーバーまでは一時間半程で到着できるとの事だった。

 空港からバスに乗って「ウォーターフロント」駅で降りる。バンクーバーからノースバンクーバーへ海を渡る為に『シーバス』に乗り換え、「ロンズデール・キー」駅からバスに乗ってまずは寮へ向かう。

 車窓からノースバンクーバーの美しい緑の街路樹を眺める。明るい新しい世界にマチは目を細めた。

 寮の目の前でバスが止り慌てて降りた。目の前には見たことも無い奇麗なマンションが聳え立っている。

「え?まさかここが寮なの?高校の?うそでしょ!」

 日本とカナダは生徒の扱いがこんなにも違うのかと驚嘆する程の豪華さだった。マチは思わず口を開けて見とれてしまった。白樺や幹の細い樹木で囲まれたエントランス。高台にあるのでノースバンクーバーの町並みが一望できる素晴らしい眺望。風が通り抜ける爽快な丘。

 イーストケースは小高い丘に建ち階下に巨大な公園が見渡せる。外観は薄いベージュを基調とした総タイル張りの建物でどこから見ても豪華マンションだった。高校生の寮なんかには見えない。エントランスからして普通じゃない。セキュリティーが万全の入り口で、まるで駅の改札の様にIDをかざして入寮するようになっている。

 自動扉を入ると左側に管理人が常駐する部屋があり、管理人とおぼしき男が座っている。その年配の男はのろのろ歩いて来たマチの事をじっと見た。

「へぇ・・・君?新しく来たのは?」

管理人は中年の痩せた男で覗きこむようにマチの顔を見る。

「これからお世話になるマチ・カザマです。宜しくお願いします」

 マチが挨拶すると、言い終える前に管理人は表情も変えずに言った。

「小学生みたいだな」

 マチはむっとした。すごく感じの悪い人だわ。この先、この人と関わる事があまりありませんようにと心の中で祈った。

「IDカードはこれ。これをかざす事で入退寮が管理されるから。門限は夜の十一時だ。一秒でも遅れれば罰則がある。部屋に着いたら荷物を置いてメインの学長室へ挨拶に行って。そこで色々説明を受けるから」

「はい、わかりました」

 マチは自分のカードを見て、右上に貼ってある付箋の番号を見つめた。

 番号は809と書いてある。つまり809号室?

「あの、私の部屋は八階なんですか?凄いわ!最上階ですか?」

 マチはワクワクしながら言った。管理人は無表情だった。そして、

「最後に、俺があんたに助言できる事はさ」

「助言?」

「八階はとても恐ろしい所ってことだ。気をつけるんだな」

 恐ろしい?

「は・・い・・・」

 マチは疑問符を顔に並べながらエレベーターに向かった。




 エレベーターに乗り込み八階のボタンを押した。見ると八階のエレベーターのボタンは割れていた。壊れているのか押してもランプが点かなかった。

 八階について扉が開いた。箱の中にぶわっっと風が入りこんで来た。

 ゆっくりとエレベーターを出て、部屋に続く真っ直ぐの廊下に降り立つと、柱と柱の間から外が一望出来た。北にノースバンクーバーの山々が見える。

 背伸びして下を覗いて見るとさっきバス停から上がって来た丘の道が見え、吹き上げる爽やかな風に背中に一本に垂らした長い髪が波打った。マチはもうすぐお尻まで届くんじゃないかと思うほど長い放ったらかしの髪を適当にゴムひもで一本に結んでいた。

「そっかぁ、恐ろしいって、高いから気をつけてって事だったんだ」

 マチは単純にそう思った。

 改めて大きく息を吸い込むと新しい自分の部屋に向かった。809号室。それはエレベーターから降りて一番奥の部屋だった。

 鍵を指しこみドキドキしながら扉を開けた。

「わぁっ!すごい!」

 案の定、中は広かった。

 縦長に広い部屋に大きなベットが置いてある。バスルームと洗面所、トイレは別で玄関を入ってすぐの所についていた。

 寝室の奥にはバルコニーがある。マチは重かったボストンバックを入り口に置くと、すぐにバルコニーにかけって行った。ガラッ!と勢い良くサッシを開ける。

「奇麗っ・・・・・!」

 マチは感動した。天気が良いせいもあって空は青く、緑は鮮やかで影が薄紫に輝いている。

 階下が全て森になっていて紅葉が素晴らしい。良く見ると木々の間に整備されたアスファルトの道が見えるので、そこが広大な公園であることが見て取れた。その公園を目で辿って行くとその先に学校が見える。校舎がいくつもあるようだった。

「すごいわ・・・」

 マチは今まで貧しい生活をしていたので、こんなに立派な施設を使わせてもらえるだけで幸せだった。舞い上がる気持ちを抑えるのが大変で感動で涙が出そうになる。  

「そうだ!お父さんに電話しよう」

 マチは無事に寮に到着した事を父に知らせたかった。沖縄を出発して十五時間が経っている。ここに掛ければ良いといわれているメモを見ながら、室内の電話を取ると急いでプッシュした。 

 マチはまだ携帯を持っていなかった。まずは管理人室に繋がる。あの感じの悪い管理人に番号を告げるとマチはアマゾンに国際電話した。

 しばらくの沈黙の後、ようやくコールが始まった。アマゾンまでの果てしない距離を物語るようにベルの音が遠くて小さい。何度も何度も鳴らしたが誰も出ない。諦め掛けたその時、

『はい、もしもし。研究チーム風間です』英語で父の声だった。

「お父さん!」日本語で父を呼ぶ。その声を聞いた途端、急に音量が大きくなる。

『マチ!着いたんだね!良かったよ。カナダはどうだい?寂しい思いをさせてしまって本当にご免よ』

 マチはブンブンと頭を振りながら、

「寂しくなんてないわ!すごいのよ!奇麗な寮に、バンクーバーって凄い都会なの!沖縄が小さく見えるほど!今から学校に行くんだけど学校もきっと奇麗だと思うわ!」

 マチは自分の興奮をぶつけるように嬉しそうに話した。

『そうか、それは良かったよ!父さんもこれで安心して出発できるね。今、電話をなかなか取れなかったのには理由があってね、実はもうジャングルの奥地に移動する事になったんだ。マチからの電話を待っていたんだよ。父さんも頑張るからマチも頑張って良いお友達を沢山つくるんだよ!』

「うん!」

 父とはこれっきりしばらく連絡が取れなくなってしまう。でもマチはめげてる場合じゃないと思った。これから新しい学校に馴染まなくてはならないのだから。

「お父さん、行ってらっしゃい。気をつけてね」

『じゃあね。二週間後に事務所に戻ったらまた連絡するよ!』

 マチは静かに電話を置くとなんとも言えない寂しさが滲んで来た。

 寂しいけど仕方が無い。

 アマゾンの奥地で暮らす人々の調査と遺跡の発掘は長年の父の夢なのだから。応援しなくては。マチは深呼吸した。

 そして静かになった部屋の中、不意に背後に何かの気配を感じた。

 誰?マチは慌てて振り向いた。そしてその光景を見て固まった。

「おい、見たかよエイチ・・・」

「変な女だぞ。スゲー長い髪だ」

「中国人か?ちっちぇなぁ」

 玄関に見たこともない大きな男三人が重なり合うように座りこんで中を覗いていた。


 三人とも何かの部活のユニフォームを着ており、黒を基調としたその服が男達の目つきの悪さを強調していた。

 右にいる男は裕に百八十を超える大きな身体で金髪。意地悪そうな目つきをしている。左にいるのは髪が黒くて体が大きくがっしりした感じの男で背が右の男よりも更に高い。二人はマチの事をものめずらしそうに半分笑いながら見ていた。

 そして真中で玄関に大きく腰掛けているのは『エイチ』という男らしい。

 マチは彼を見た瞬間恐怖が背筋を走った。見た事もない整った顔立ちに目つきが異様に鋭く冷ややかで彼に目をつけられたら終わりだと思わせるような危険な雰囲気をかもし出している。濃い茶の髪と、きりっとした眉が意思の強さを物語っていた。そして、見たことも無い様な冷たい濃いブルーの瞳をしている。すごく青い。


 ねぇ、なぜ私の部屋の玄関に入れたの?鍵もチェーンも閉めたはずよ。

 突然、中央の青い目の男『エイチ』が、真っ直ぐマチの顔を見てはっきりと、そしてためらいも笑いもなく、命令する様に低い声でこう言い放った。


「おい、ブス。三日以内に出て行け」

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