廃れた街の香り

愛空ゆづ

酒の肴


 この街は相も変わらず静かだ。

 昔は栄えていたのであろう駅前も、現在は人気のないシャッター商店街が続く。未だに明かりが点いているのは昔ながらの交差点脇の焼き鳥屋だけ。

 中には飲む場所があって、お通しのいかの塩辛も美味い。仕事終わりにビールを流し込んで焼き鳥を頬張れば、そこは天国だ。焼き加減が最高で、秘伝のたれがめちゃくちゃ美味い。勿論しおもイケる。この店では絶対に外せないのは、カシラ、ねぎま、もも。今日はニンニク串でも食べようか。


「立直」

「うーん、お願い!」

「ロン 一発12000」

「うわぁああああ」

 今日も提灯を眺めながら、友人達との麻雀が盛り上がりを見せていた。

「なんで無筋が通ると思ったんだ」

「だって、テンパったし……」

「ちょっと手牌見せてみ」

 手牌には白が3枚に中が3枚。待ちは西の単騎。なんだこれ。

「西切れよ、ド安牌だろ」

「来ると思ったんだよ……ほら!次の順、ツモってんじゃん!」

「だとしても危険牌を引いたお前の負けだ」

「これにて本日の対局終了ー」

「ってか、俺、また焼き鳥じゃねぇか!」

 本日2度目、彼はゲーム中一度もあがれなかった故にこんがりと焼かれていた。


「あれあれあれ~? 本日のお支払いは大丈夫そうですか?」

「俺様金融のご利用もお待ちしておりますよ、利子はトイチで」

「うるさい!」

 皆で一通り煽る。どいつもこいつもいい性格をしている。そして、こいつも頭を抱えて落ち込んでいるフリをしているが、眼はじっとこちらを向いている。


― カネナイ オゴレ ―

 そんな声が聞こえてきそうだ。目は口よりも物を言うらしい。全く、いい性格だ。


「仕方ないなぁ、今日無敗の私が君にをおごってやろう」

 きっと私もいい性格をしているのだろう。生まれてから褒められた記憶がない。

「っしゃ! 店の鳥全部食ってやる」

「それじゃ、明日もまた焼き鳥だな」

「明日こそ役満上がってやるからな!」


「「少しは学習しろ」」



 外に出ると、向かいの焼き鳥屋から美味しそうな香りが漂ってきた。

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